言葉として好き、根拠なく嫌い
――『たまご和尚』などで、「同情が好き」というようなフレーズがありますが。
浦沢「同情が好きなんです。ま、言葉として同情されるのいいなぁと」
――普通の日常の「腹減った」とか基本的な感覚を大事にされているような気がするんですけれども。
浦沢「いやそれわかんない」
――耳掃除の話だけで二時間近くお話されると荒戸源次郎さん(映画プロデューサー、映画監督)がおっしゃっていたそうですけど。
浦沢「二時間はもたないでしょ。けっこう一つのことについてずっと話してるっていうことはあるんだけど、二時間っていうのは荒戸さんの誇張だよね、言葉として。確かに、そういうところがあるんだよいつも。まず何で耳掃除なのかわかんない。たぶん酔っ払ってそういうことを言ったんじゃないの」
――絶望が好きというようなことも。
浦沢「言葉としてね。絶望するしかないってことをよく言いますね。今も二日酔いだから絶望ですよ。こんな感じで、インタビューとかいうのは全部、けっこういい加減に答えてっからさ。どうでもいいやって」
――そのままの調子で大丈夫です。
浦沢「今日珍しいんだ、こんな二日酔いで答えたらけっこう正直になるんだって」
――「マザー・グース」より自分の詞のほうがいいと思ってらしたそうですが、「マザー・グース」も喰(引用者註:喰始)さんが?
浦沢「わかんない。まあそうなんじゃないの。そうだ、井上ひさしさんの詞って大抵「マザー・グース」だったんだ。井上さんの作品大嫌いだったから。大っ嫌いだった。根拠は何もないの。何でこんなの、世の中に……だから、きっと世の中に流行るもんは好きじゃないってことなんだな」
お気に入りのシナリオ
浦沢「あれ読んで(聞き手が卒業論文として書いた浦沢義雄論)一番驚いたのが、『ノンタンといっしょ』って見てたの?」
――まあ、情報として。
浦沢「『ノンタン』ってけっこう気に入ってやってたんだけど、それ誰にも言ったことがないんですよ。あのお話あったじゃない? すごいおれが気に入ってる話で、けっこう使うパターンなんだけど、宝の地図を追いかけていったら、水平線がキラキラ……。そうだ、『地平線がぎらぎらっ』って、子供の頃に見た映画があるんですよ(一九六一年・新東宝)。それがそういう話だったんだ。それの、ほぼ盗作なんだ。それと同じことやりたいなって。きっと誰にも言ったことないと思う。『ノンタン』って番組自体けっこう気に入ってやってたんだ。好き勝手にできるから」
――エンディングの歌詞も書かれてますよね。
浦沢「あ、そうなの」
――はい、もしも空からごちそうが降ってきたら、というような歌詞です。
浦沢「へぇ……はじめて知った。『ノンタン』の番組見たことないからな。『ウゴウゴ・ルーガ』の中にやってたんだよね。『ウゴウゴ・ルーガ』一回も見たことないから」
――大和屋竺さんの監督予定だった「スウィング」という小泉今日子さん主演予定の映画脚本を書かれたんですよね。
浦沢「そうそう。もう日の目を見ることはないんじゃないかなぁ。今でも名作だと思ってるんだけどな」
――内容はちょっと覚えてらっしゃるんですか?
浦沢「いやわかんない。……その後何回も書き直してるんだけどもう忘れちゃった」
がんばるか否か
――昔インタビューで浦沢さんが「僕はがんばりませんよ、がんばったら疲れるじゃないですか」とおっしゃったという情報を見たことがあって、僕はそれで「ああそれはいいな」とあこがれたということがあったんですけれども。
浦沢「それはだから(笑)勢いで、インタビューされるとけっこう気楽にどうでもいいやと思って適当なこと言いたくなるんだ。今日でも二日酔いだから色んなこと適当に言ってるけど、大体根拠ないんだ、言ってる意味はないんだ。そういうふうに思ってるだけで、なんでもない。そのときそういうふうに言いたくなって。カッコつけてんじゃない? だから、人と(引用者註:人と違う)変なこと言いたいっていう、なあ」
――「がんばらない」みたいな感覚はあるんですか?
浦沢「体力がないんだ。それはホントなんだけど。でもね……よく考えるとがんばる方のタイプの人間だと思うんだけどね、今考えると。人前でがんばったところ見せるの嫌だなあってのは確かにある」
――ああ……なるほど。
アイデアは白紙から
――コント番組『カリキュラマシーン』は純粋にアイデアを書く仕事でしたけど、ときどき普通のシナリオのストーリーのようなものが出てきますね。
浦沢「そうそう、『カリキュラマシーン』は本当はストーリーなんかないやつなんだけど、みんなそういうの飽きたんじゃないかな。だからちょっと物語みたいなやつを。「5の家出」とかさ(浦沢氏が執筆したコント。「家出した5は/マドロスになって/ボクサーになって/ヤクザになって/オカマになって/5のかたまりになりました」という歌詞がある)、あれ見たいんだけどDVDに入ってないんだよな」
――純粋にアイデアを書く仕事から、シナリオで物語を書く仕事になったというところで意識の変化のようなものはありませんでしたか。
浦沢「それは全然ないよ」
――アイデアを考えるというのは、子供の頃からされていたんですか?
浦沢「いやない……あ、絵描くの好きだった!(浦沢氏は高校までは東京芸大へ行くために勉強をしていた)絵を描くときにこう、アイデアを出すというのは、ちょっと記憶の中にあるんだ。絵を描くときはそういうもんだっていうのが」
――電化製品や食べ物など無生物の擬人化をよくされていますが……。
浦沢「それは全然。なんでそうなったのか全然わかんない。食べ物に飢えてたのかなぁ? よく食べ物とか出てくるでしょ。あれ見ると、なーんかイメージが暗いんだよね。自分でこんな暗いやつだったのかなーと思うぐらい暗いの書いてる」
――アイデアを出すときに、こういうものを題材にするということはあるんですか?
浦沢「ないよ。題材ってどういうの?」
――何か、思いつこうとするときに手掛かりにするものといいますか。
浦沢「思いつくまで、がんばるしかないでしょ。題材を、思いつくまでがんばるしかない(笑)。けっこう大変だよ。まぁ、でも一番楽しい感じだよね」
――……何もない、本当に白紙の状態からひたすら考えるだけなんですか?
浦沢「それが一番楽しいんだよ、白紙の状態から考えるっていうの。テーマがあると、あんまり面白くないな、と思っちゃう。こういうテーマで考えてくれって言われるのなんかあんまり好きじゃないんだ」
以上、「別冊 詩の発見」第12号より引用。