私の中の見えない炎

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寺田農 × 高橋巖 トークショー “和の匠・美術監督 池谷仙克の映画” レポート・『実相寺昭雄の不思議館/床屋』(3)

【「床屋」について (2)】

寺田「(監督では)編集で音楽入れたりするポストプロダクションが面白いって人と現場で撮ってるのが面白いって人と、いろんなタイプがいるけど。ポストプロダクションに慣れてないから、見てるとスカスカ。効果音もMAもないし。画が足りなくて、何でもっと素材を撮っておかなかったのか。早く音を入れてごまかしてくれないと。ぼくは編集が嫌いで、これも監督は向かないなと。

 相米慎二とか長谷川和彦とかに「いかに監督が大変か判ったか。愉しみにしてる」って言われて。おれは、お前らおれみたいにいい役者を使ったららくだろうと。お前らお礼を言うべきだと(一同笑)」

高橋「ぼくはスタッフだけじゃなくてエキストラとしても出てるんで正視できないというか(笑)。身近すぎちゃって」

池谷仙克について (1)】

高橋「コダイグループが株式会社コダイって会社になったときの社長が池谷(池谷仙克)さんで、ぼくが社員だったんですけど、あんまり制作会社じゃないんですね。実相寺昭雄が所属する事務所」

寺田「池ちゃんも実相寺もカメラの中堀(中堀正夫)も照明の牛場(牛場賢二)もみんなが一本立ちしてて、実相寺が狙ってたのはある種のサロンというか仲間が連絡を取り合える場所。

 池ちゃんは武蔵美を出てから帝劇での『風と共に去りぬ』(1966)で円谷英二さんが特撮をやったのに噛んで、そこから円谷に行くわけ。たまたま実相寺と会って。池ちゃんはフランス映画志向だから、怪獣とか特撮なんて考えられない。実相寺もフランス語もペラペラだけど。それで実相寺と知り合ってやってみようかなと。実相寺と池谷は天才同士で、池ちゃんは実相寺を超えるくらいの天才。池ちゃんが画集を出したときに「池谷仙克は私の導師である」って。それはよく判る。実相寺のイメージを具現化する第1歩は美術だから。どうしたら実相寺のアイディアが映像になるか。それを現場で撮るのが中堀や牛場だね。池ちゃんは実相寺の女房役というか、他の人が美術じゃ撮れないんじゃないかな。そのわりには干したりしてたけど。

 池ちゃんが他の監督で賞をもらうんだけど、実相寺は他の監督とやるのが嫌いなの。監督はだいたい嫉妬深いんだけど、実相寺は特にそうで」

高橋「中堀さんは映画『蜜月』(1984)で外へ行って勉強して戻ってきたいって言ったら、それから2年間くらい干されちゃって」

寺田「戻って来ないでいいよと。池ちゃんが美術賞を取っても、おめでとうもない。自分といっしょじゃないと厭なんだね。

 クラシックやオペラの仕事では、池ちゃんは美術をやってない。唐見博さんっていう劇団四季にいた美術の人で、この人が実相寺のオペラでの美術は多い。池ちゃんが厭がったのか、実相寺が池ちゃんは音楽ではないって判断したのか判らないけどね」

高橋「このメディアにはこの人っていう判断は、監督はよくしてましたね」

寺田「そうそう、相米慎二もこの作品にはこのカメラマンっていうふうにしょっちゅう変えるわけ。照明はいつも熊谷さんだったけど。『魚影の群れ』(1983)は長沼(長沼六男)で『ラブホテル』(1985)では篠田昇とか。それは監督の感性っていうか、この作品にはこのカメラマンが向いてるとか。実相寺は、いつも撮影は中堀で照明は牛場、美術は池谷ってトリオでコマーシャルとかもやってたけども、クラシックでは別。コダイの中でも音楽班があって、油谷さんとかとか。使い分けてたね」

高橋「直感が働いたんだと思います。実相寺と池谷という両天才をつないだのが大木淳吉さんで『ウルトラセブン』(1967)の特技監督。ふたりを取り持ってるっていうか潤滑油だったので、何となくコダイが上手く回っていたのかなと。大木さんが早く亡くなったしまったので、取り持つ人が少なくなったというのがちょっとありますね」

寺田「大木さんって面白い人で、へらへらしてて。経営実務に長けているような人でもないんだけど。実相寺は経営なんて関係ない人だから。いちばん苦労したのが池ちゃんじゃないかな。美術のことも経営のこともやらなきゃいけなくて、それでいちばん大変で早死にしたところもある気がするね。

 アダルトビデオを実相寺が頼まれて撮ったんだけど、最初は日テレの火曜サスペンス劇場に通った企画だったんだけど、土壇場でプロデューサーが代わって流れちゃった。どうしてもやりたいってことでAVで(『ラ・ヴァルス』〈1990〉)。おれは弁護士役。そしたらその会社の人に是非AVを撮ってって言われて、ぼくが撮ることに。池ちゃんが美術で実相寺が音楽。実相寺と関係ないコマーシャルでも美術が池ちゃんだったりすると安心感がある。独特の感じだね」(つづく