私の中の見えない炎

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押井守 × 石川浩司 トークショー(つげ義春「ねじ式」展)レポート(1)

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 つげ義春ねじ式」は1968年に月刊誌「ガロ」に発表されて以来、多大な影響を遺した代表作。2019年、『つげ義春大全』(講談社)が刊行され、六本木ヒルズにて「ねじ式」展が行われた。

 11月、映画監督の押井守、たまの石川浩司の両氏がつげ作品を語るトークショーもあり、ひなびた温泉研究所の岩本薫氏が聴き手を務めている。諸事情?により、いまごろの記事化となった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。 

【つげ作品との出会い】

押井「「ガロ」創刊号から立ち会ってたんですね。学園紛争をやってるころで、白土三平が読みたくて買ったんですけど、強烈な違和感があった。貸本時代の作品も追っかけて読みましたけど、ぼくにとってのつげさんは「ガロ」の人ですね。いろんなマンガが載ってたわけですけど、商業性を無視した作品ばかりでした。あの時代はそういう雰囲気だった。つげさんを語ろうとするとあの時代が出てきてしまって、一作家としては扱いきれない。1970年前後は、間延びした部分と切迫した部分とが共存していた。そういう時代の気分の中で読んでいて、芸術というよりは、何かを共存しているというか。白土三平の作品とは全然違って、何を根拠に描いているのか判らない。ただ繰り返し読みたくなっちゃう。

 半分デモ行って走り回って、半分は逃避してマンガやSF読んでたわけですけど。政治参加しつつ、現実逃避もする。

 つげさんのマンガって、自分の中での置き場所が変わらない。他の作品は変わるけど、大したことなかったなとか。つげさんは自分の中で変わらない。すごいことで、普遍的な何かがあるんですね。定位置にいます。個別の作品でなく、全部でつげさんです。ゴダールの映画と同じで、個別の作品を語っても仕方がない。

 貸本のころは出版側の要求もあったと思いますけど、「ガロ」になってからのつげさんのマンガは変わってないですね。あの方の自宅にいるような気分」

石川「ぼくは中高生のころに古本屋さんで見たのがきっかけです。東京出身なんですけど、そのころは群馬にいまして、地方都市だとマンガは赤塚不二夫藤子不二雄手塚治虫くらいしか目に入らない。アンダーグラウンドのマンガを見る機会がほとんどなかったんですけど、つげさんはぼくにフィットするぞ。そこから入って、寺山修司の映画や三上寛の音楽とか。つげ義春さんがそういう門を開いてくれた感じでしたね。

 子どものときは、家でも学校でも陰陽の陽の部分ばかり見せるじゃないですか。生活の中にある陰の部分、リアリズムの陰をぱっと見せてくれたのがショッキングでした。親や先生は見せてくれないけど、こういう世界もあるんだよな。

 (自身のランニング姿は)誰かを模そうというのはなくて、つげさんの「紅い花」ではないです(笑)。アマチュア時代に演奏して、激しく動きながらパーカッション叩くもんで、暑くなって上半身裸になっちゃう。でも裸で出てくるのもなんだからじゃあランニングに。最初は長髪だったんで山下清とか言われなかったんですが、髪も鬱陶しいから丸刈りにしちまえと。すごくらくになって、このスタイルがいいや。それで山下清と言われるようになりました。10年くらい前に大林宣彦監督の『この空の花』(2012)という映画に山下清役で出させてもらって、いまは山下清と呼んでくださって大丈夫です(一同笑)。

 ホームページを20年間毎日更新してるんですけど、中高生時代に深夜のラジオにすごく影響受けたんで、読む深夜ラジオってことで投稿を募集したりいろんなコンテンツをつくって。そのひとつが“つげ義春クイズ”で、マンガを見ながらつくったので難しくて自分でも解けないです。全問正解しましたってメールが来ることもあります。ホームページの下のほうにありますので、さがしていただくと」 

【つげ作品のサブキャラクター (1)】

押井「おかっぱの女の子とか出てきますけど、つげさんのマンガで主役ってめったに立たないですね。町に入っていくときのガイドみたいな役割で、主人公は基本的に何もしない」

石川「ぱっとしない男の人が多いですよね」

押井「ご本人だって言えばそうなんでしょう。主人公が出会った人間の面白さ、というスタイルの作品が多かったりする。いわゆる物語とはちょっと違う。特に「ガロ」の後半とか、ほとんど紀行ものみたい。主人公は案内役で、そこで出会うのは脇役というより対象者」(つづく 

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