【桜子の人物造型】
犬童「(『BU・SU』〈1987〉では)高嶋(高嶋政宏)さんと富田(富田靖子)さんに比べて、広岡さんのやっている桜子はあっけらかんとしていますね。あのふたりははっきり挫折して人生の底辺ですべてに不満を持っているようですが、そういう青春と関係ないところで広岡さんはひとり愉しそうに見えます」
広岡「鏡見せられたりとか、周りの人たちには悪意がありますね。多分どっかで傷ついてるけど笑ってごまかすみたいな人間かと思ってやっていた気がします」
犬童「『キャリー』(1976)みたいにはならない」
広岡「ならない(笑)」
犬童「何かあっても、次のシーンでは引きずってないみたいに登場します」
広岡「市川(市川準)さんに言われたような記憶があります。いじめられても元気に生きてくじゃないけど、落ち込んでる自分を見せない、みたいな。表に出さないんだみたいなことを言われた記憶はありますね。もしかしたら子どものころから顔がどうとか言われて、そんな中でも子どもとしてかわいがられるのは元気でいるとか。自分の心が折れない術があったのかな。傷ついてぐっとなっていると富田さんの役と同じですからね」
広岡氏の演じる桜子は、文化祭の「八百屋お七」の黒子役を同級生(星野雄史)と務める。
犬童「黒子のふたり(広岡氏と星野氏)をすごく思い出すんですよ。富田さんと3人でいいトリオだなって。このふたりはあっけらかんとしていますね」
尾形「くじ引きで「トリとったよ」っていう無邪気な笑顔もいいですね」
広岡「目の前の喜びだけ(笑)」
犬童「広岡さんの役が救いになってますね。富田さんの役のそばにそういう人がいると」
広岡「いっしょになって暗くはならないという」
【公開とその後】
広岡「(『BU・SU』が)公開されたときはひとりで見に行ったんですけど。大阪に仕事に行ってまして、梅田にあるほんとにすごく大きなスクリーンで」
尾形「梅田にあるシネラマが上映できるOS劇場ですね。大型スクリーンで何故か『BU・SU』が」
犬童「普通『2001年宇宙の旅』(1968)とかをやるような劇場ですね」
広岡「(笑)そこで初めて見て、泣きながら帰った覚えがあります。自分の下手さ加減に。(演技が)ちょっと軽かったかなと」
尾形「OS劇場はいまなくなってビルになってるんですが、近くの歩道に上映した作品名がタイルでずらずらと並んでいます。そこに『BU・SU』ってあって、市川さんといっしょに記念写真を撮りました」
広岡「今度、大阪行ったら寄ってみます(笑)」
その後は『会社物語 MEMORIES OF YOU』(1988)など市川作品に多数出演。
犬童「広岡さんは市川劇団に入っていると思います。広岡さんは会った瞬間に出て欲しいと思ったんじゃないかと。『BU・SU』だったら、はやし・こばさんも同じだと思うんです」
尾形「はやし・こばさんはもともと作曲家で、市川さんの「タンスにゴン」も作曲されています。もう亡くなられてますけど、市川さんの映画にかなり出ています」
広岡「私はかっちりした芝居をしないですからね(笑)。自然体というか。出るごとに「あんまり考えるな」「あんまりつくるな」って言われてましたけど、それもまた難しいんですね。つくるなって言われるとつくってしまう(笑)」
犬童「『BU・SU』のときはまだまっさらですよね」
広岡「やってるうちに市川さんにはまらなきゃって変なことを考えてた時期もあったと思います。気に入られたいとか」
犬童「はまるにはどうすればいいんですか」
広岡「自然体(笑)」
犬童「広岡さんだからで、他の人が自然体でもはまるわけじゃないですよね」
広岡「ああ、なるほど。そうかもしれないですね」
『東京兄妹』(1994)では御茶ノ水駅の前で緒形直人と対峙?するシーンが長回しで印象に残る。終盤では結婚式もある。
広岡「『東京兄妹』はどうだったかな。あの映画こそ台本がなかったんですよ」
尾形「台本はト書きしかなかったですね」
広岡「毎朝、全員が台詞を渡されて、言えないと削られて。全シーンそうだったですね。見直してないので、ちょっと忘れてしまいました(笑)」
尾形「結婚式で終わるところが、市川さんの中で広岡さんに関してけじめをつけた感じがします」
市川監督のCMやテレビ『市川準の東京日常劇場』(1990)にも登場。
広岡「チオビタドリンクの最初のに出させていただいてますね。さくらやは東京乾電池みんなで出ています」
尾形「小津安二郎のパロディですね」
広岡「市川さんのCMだとお昼のお弁当が、すごくいいのが出るんですよ。嬉しかった覚えがあります。うなぎが2段になっていて(笑)。
飲みに行ったりとかは多分1回もなかったと思います。現場でお会いするだけで、劇団の芝居を見に来てくれて楽屋で話すとか。私にはそんなに感想は言いませんでしたね。「お疲れ」みたいな感じで帰っていかれました。
でも市川さんじゃない映画に出たときに「やりたくないものは断れ」「選べよ」って言われたのも(笑)いまだにありますね」
尾形「『トキワ荘の青春』(1996)は学童社の経理係でワンシーンぐらいですね」
広岡「(撮影は)1日しか行ってないですね」
犬童「来てほしいんですね。ぼくにもそういう人(俳優)がいて、その日その人が来てくれると思うと朝から嬉しい。いっぱいいるわけではないけど、もし空いているなら出てほしい」
広岡氏になじみのある下北沢で撮られた『ざわざわ下北沢』(2000)もある。
広岡「芝居を下北沢でよくやっていたんで、若いころに通っていたんですけど最近がらっと変わってしまって残念です。『ざわざわ下北沢』で私のシーンはカットされちゃったんですよね(笑)」
現状、市川準作品のソフト化は権利問題などによりなかなか進んでいないと犬童・尾形両氏により最後に説明された。筆者も未見の作品があり、配信などで今後少しでも見ていきたいと思う。