広岡由里子 × 犬童一心 × 尾形敏朗 トークショー（市川準監督特集）レポート・『BU・SU』（1）

　陰気でひねくれた女子高生・麦子（富田靖子）は、親元を離れて神楽坂で芸者の修行をしながら高校に通っていた。麦子はクラスで友人（高嶋政宏、広岡由里子ら）と知り合ったことなどにより変容し、文化祭で「八百屋お七」の公演に挑む。

　CM演出で注目を集めていた市川準が映画を初監督した『BU・SU』（1987）は、公開当時も高い評価を得た傑作。2023年にリバイバル上映と友人・桜子役の広岡由里子氏のトークがあった。広岡氏は『BU・SU』にて映画デビューし、後に市川作品の常連として『会社物語 MEMORIES OF YOU』（1988）や『東京兄妹』（1994）などに登場。近年は映画『あんのこと』（2024）や配信ドラマ『季節のない街』（2023）に出演している。聞き手は映画監督の犬童一心、評論家の尾形敏朗の両氏が務める（以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください）。

【起用の経緯】

広岡「公開されたのが35年ぐらい前でDVDになったときに見返した覚えがあるんですけど、でも全編通して見たのは20年ぶりくらいです（笑）。こんなだったと思いましたけど、自分の若いころを見ている恥ずかしさがありながら面白いなと思いました。市川準さんのデビュー作で、笑いのセンスも散りばめてあったりして（笑）」

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広岡「東京乾電池という劇団に入って、ひと月もしないくらいのオーディションでした。日活で大々的に1日がかりでやりました。何百人も来たんじゃないですかね。富田さんはもう決まっていて、桜子のオーディションでした」

尾形「もとは富田さんの事務所が企画をあたためて、内館牧子さんが脚本を書いて。最初は大林宣彦監督の予定でした」

犬童「大林さんは『漂流教室』（1987）が終わらなかったんだよね。中沢さん（中沢敏明プロデューサー）が大林さんに代わる新しい監督をCMからさがそうと」

尾形「市川さんはヒットCMを連発されていたCMディレクターで、監督デビューすると。笑える愉しい映画ということで（企画が）始まったということなんですけど。市川さんは脚本を読んで、面白いと思わなくて断ったらしいです。でもどうしてもやってくれってことになって、内館さんにホテルにこもってもらって直して決定稿になって、市川さんもさらに自分で書き直すと」

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広岡「東京でひとり暮らしを始めて、まだ電話もなくて、集合時間に大幅に遅刻してしまいいまして。目覚まし時計もまだなかった。3～4時間寝坊しちゃって、公衆電話で事務所に電話して、その日は同じ劇団から社長が6人引き連れてオーディションに行ってたんですね。私は社長にひとこと謝らなくちゃいけないと思って、日活は調布の国領にあって、駅に着いたらおじいさんがいたんで日活撮影所はどっちですかって訊いたら「ここまーーっすぐ行って突き当たりを左なんだけど、きょう中に着くかな」って言われて嘘でしょ！？ でも真っ暗になっても行かなきゃと思って走って行ったら10分ぐらいで着いちゃった（一同笑）。それで社長をさがして謝ったんですけど、まだ乾電池から行った6人はぎりぎりまだオーディションを受けていなくて「お前も受けろ」って言われて、靴下も履いてなかったんですけど、何故か歯ブラシは持ってて歯を磨いてオーディションを受けました。そしたら私が受かってしまったという（笑）。テンパって受けたんで、どんなオーディションだったか全く覚えてないんですが、何か質問されたような。

　どんな役かは判らずに、ただ富田さんのお友だちで名前がある役。カメラテストで日活に呼ばれて走ってみろとか。監督に食堂で「ちょっと話があるから」と。みんながお昼を食べてるのから離れてぼそぼそと「きみは顔がブスな役です。富田さんは心がブス、心を閉ざした役ですけど、あなたの役は顔がブスな役なんでよろしくお願いします」。いまだったらパワハラか何かですけど（笑）。1対1で言われました。失礼な人だと思ったんですけど、初めての仕事で嬉しかったですね」

犬童「市川さんらしいですね。そういう役だからって、あいまいにいないでちゃんと言っておくという。そのとき、市川さんも緊張していたと思います。ちょっと怒ったように」

広岡「そうですね、言葉少なに。納得して、厭な思いはしなかったです」

尾形「当時、市川さんと雑談したんですよ。市川さんは「彼女が、顔がブスな役をやったせいでこれから役者ができなくなるかもしれない。そのときには事務所で働かせるとか一生面倒をみなきゃいけないかもしれない」って。そういう覚悟を持って責任を感じていた」

広岡「そうなんですね（笑）。それで次の（市川作品の）『会社物語』や『東京兄妹』で呼んでくれたのかもしれませんね」

尾形「『東京兄妹』では、広岡さんは緒形直人を振ってめでたく結婚しますね」

犬童「もう大丈夫だと（笑）」（つづく）

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