私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

寺脇研 ブログ “人生タノシミスト”(2008)(4)

 2008/6/24 喜びと生きがいを

 秋葉原の無差別殺傷事件。このコラムを読んでいる方の中には犯人と同じ年代の人も多いでしょうが、どう感じましたか?

 どんな理由があっても殺人や傷害が許されるものではありません。しかし、犯人が発信していた携帯サイトの書き込みを読むと、この社会の在り方を真剣に考え直してみる必要があるように思います。若者が、自分の将来に簡単に絶望してしまうような社会が、いいわけはありません。

 今度の事件の犯人だけが異常なのではないでしょう。不確実な身分に置かれて働いている若者の中には、不満を抱えている人も少なくないのではないでしょうか。最近週刊ヤングマガジンで始まった古谷実の新しい漫画「ヒメアノール」に登場するのも、そうした若者たちです。いや、若者でなくても、わたしの友人で派遣社員をしている五十代の女性は「犯人の気持ち、なんかわかるなー」とメールしてきました。

 派遣という働き方が「負け組」と決めつけられ、生涯浮かび上がれないかのように思われてしまう。その現実は変えなければなりません。雇用や働き方の問題もあるでしょう。大企業の考え方から、社会全体をどうするかの公共性が失われているようにも思います。経済政策として、真剣に議論すべき課題でしょう。

 ただ、それだけではなしに、働くことの喜び、生きがいというものについて社会全体が考えてみる必要があるでしょう。人間は収入を得るために働きますが、収入のためだけに働くのでもありません。社会の一員として働き、役割を果たすことに喜びや生きがいを見出すのだと思います。たとえば先週ご紹介した映画『築地魚河岸三代目』は、そうしたことに思いを致させる作品です。

 また、働く自分の他に、自分自身の楽しみを見つける喜びと生きがいがあります。このコラムは、人生の楽しみを見つけようじゃないか、というつもりで続けているのです。これからも、人生の楽しみ方を提案していきたいと思います。映画や落語や漫画や小説、演劇、アニメ… さまざまな作品から何かを得て、自分自身の楽しさに結びつけてくれれば、と願っています。

 で、お薦めしたい映画が『西の魔女が死んだ』。「死んだ」とは穏やかじゃありませんが、これは、人間が生きることの意味を考えさせる物語です。いじめに苦しんで不登校になっている中学生の少女と彼女の祖母が山奥の山荘で暮らす日々を描きながら、多くのことに思い至らせてくれます。

西の魔女が死んだ

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 2008/7/1 『インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国』をめぐる

 このコラムでは、人生を豊かにしてくれる映画などの文化芸術作品を、できるだけ多くの方々に知ってもらおうとの思いでご紹介しています。

 ところが、それにまるで逆行するというか、平和な世の中を作っていこうとする気持に水をぶっかけるような映画もあります。特に多いのは、暴力や軍事力ですべてを解決しようとする考えのアメリカ映画。『ランボー 最後の戦場』なんて、人間を虫けらのように殺戮していくおぞましいものでした。

 公開中の『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』にも呆れてしまいます。核兵器を実際に使用する核実験が、笑いやスリルを呼ぶエピソードとして使われるのです。これは許し難い暴挙だと、わたしは思います。世界中の人々が力を合わせてクラスター爆弾さえ禁止兵器にしようとしているときに、それよりはるかに残虐な兵器である核爆弾を無神経に娯楽映画のタネにするなんて、乱暴極まる態度です。

 ただ、日本の映画関係者や知識人、マスコミ関係者がこのことに驚くほど鈍感なのにも、情けなくなってしまいます。新聞や映画雑誌などに書かれたこの映画の批評や紹介文で、この問題をまともに取り上げたものはほとんどありません。わたしは、7月5日発売のキネマ旬報7月下旬号REVIEW欄で、はっきり書かせてもらいました。

 しかし、そんな政治的考えを映画に持ち込むなんて野暮… といった考え方の知識人が多いのには、愕然とします。映画は単なる娯楽ではありません。社会や人生について考えさせる力を持ったすばらしい芸術です。
救いは、ネット上でこの問題が活発に議論されていることです。ともすれば、無神経な中傷や外国への誹謗などが書き込まれる場ともなるネットですが、『インディ・ジョーンズ』問題ではこれを批判する意見が多く展開されています。

 皆さんも、もしこの映画を観るなら(わたしとしては全くお薦めできません。気分が悪くなります)、核実験の場面、ピカッと閃光があった後巨大な爆発音が響く、いわゆるピカドンですべてが焼き尽くされる映像と醜いキノコ雲のわき上がる箇所を見て、どうお思いになるでしょうか。 

 2008/7/8 ポン・ジュノ × 阪本順治対談

 7月初めの一夜、韓国のポン・ジュノ、日本の阪本順治という両国を代表する監督が語り合う場に同席しました。『殺人の追憶』や『グエムル』で知られるポン監督の新作『TOKYO』(オムニバスの3話構成のうち第3話「シェイキング東京」がポン・ジュノ監督)と、阪本監督の新作『闇の子供たち』を互いに観ての対談でした。

 「シェイキング東京」は、香川照之蒼井優をはじめとする日本の俳優を起用して東京で撮影されたもので、引きこもりを題材にした面白い短編です。ただ、タイにおける子どもの人身売買を、世界全体の問題として暴いた『闇の子供たち』は、圧倒的迫力を持つ傑作。ポン監督も深い感銘を受けたようで、こちらの話で持ちきりになりました。

 『闇の子供たち』については、公開されるときに詳しくご紹介しますが、この映画をめぐって二人の監督が話す場面に立ち会えたのは光栄でした。もともと、二人は互いのファン同士です。『闇の子供たち』を、日本映画を代表する一本の映画だと思っているわたしが、ソウルでポン監督に会って観ることを勧めた経緯もあり、こうした機会を得たわけなのです。『殺人の追憶』の日本公開に当たっては、阪本監督が宣伝コメントを寄せました。おそらく今度は、ポン監督が熱いコメントを発してくれることでしょう。仲介役を果たした者として、うれしく思います。

 その阪本順治監督のもうひとつの新作が『カメレオン』。こちらは、現在の日本社会の歪みを鋭く描き取った社会派娯楽映画です。「負け組」のさえない若者たちと、年金不可入の後期高齢者であるチンドン屋一座の老人たちが共同生活する設定や、地方の町の荒廃ぶりが、この社会の問題を象徴し、悪役が現役国土交通大臣だったり事務次官だったりすることで政治家と官僚の腐敗ぶりをも衝いています。

 日向寺太郎監督の『火垂るの墓』は、アニメで知られる話の実写版です。実写にしたことによって、戦争の悲惨がもっと厳しくリアルに描かれます。戦争が町に暮らす普通の人々の気持をどんなに蝕んでいくかがわかります。空襲の被害も悲惨だけれど、人の心が荒んでいく酷さが胸に迫ります。

 吉田恵輔監督『純喫茶磯辺』も見逃せない作品です。一見おふざけ喜劇のように見えながら、実は人間の哀しさや愛おしさをせつせつと感じさせます。原田真人監督『クライマーズ・ハイ』は、日航機墜落事故の衝撃よりも、それを報道する新聞社内部の人間模様を鮮やかに描いた人間群像劇です。

 今週公開の日本映画、粒ぞろいですね。 

闇の子供たち

闇の子供たち

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 2008/7/15 少年漫画

 わたしは、映画や小説、落語や演劇と同じくらい漫画が好きです。漫画雑誌を十数種類毎号購読していますが、その中に、少年漫画週刊誌が3種。週刊少年マガジン週刊少年サンデー週刊少年チャンピオンを、高校時代から40年間、毎号読んでいます。麻生太郎と一緒にされるのが嫌だから、あまり表だっては言ってきませんでしたが…。

 週刊少年マガジン週刊少年サンデーが同時に創刊されたのは、1959年春、わたしが小学校に入ったときです。その意味で、ずっと一緒に育ってきた気がします。小学生の頃から時々買ってもらったり友達に借りたりしてきました。自分の小遣いが十分使えるようになる高校生になってからは毎号買っています。その頃創刊されたのが週刊少年チャンピオンで、こちらは創刊以来欠かさず読んでいることになります。なぜか、同時期に創刊された週刊少年ジャンプだけはなじむことができず、時々目にする程度なのですが。

 五十代半ばを過ぎた今でも、胸のときめく少年漫画があります。少年マガジンでは「はじめの一歩」「新約『巨人の星』 花形」。少年サンデーだと「MAJOR」「最強!都立あおい坂高校野球部」。少年たちがスポーツに打ち込みつつ成長していく過程を描くのは、やはり少年漫画の王道です。

 「トッキュー!!」「ゴッドハンド輝」(マガジン)「最上の命医」(サンデー)のようにレスキューや医者といった人の命にかかわる仕事をする若者を描いた作品にも、心動かされます。昔はあり得なかった少年誌でのギャンブル漫画「賭博覇王伝 零」(マガジン)「ギャンブルッ!」(サンデー)も面白い。少年係の警官が主人公の「シバトラ」(マガジン)は社会派漫画だし、「さよなら絶望先生」(マガジン)のようなユニークなギャグ漫画もあります。

 少年チャンピオンには、ここのところ引き込まれる作品が少なかったのですが、ケンカばかりするやんちゃな少年たちの物語「ナンバMG5」「クローバー」や新しく始まった自転車漫画「弱虫ペダル」に注目しています。

 少年漫画、やめられそうにありません。死ぬまで読むことになりそうですね。(つづく) 

 以上、ブログ “人生タノシミスト”より引用。 

大田堯・寺脇研が戦後教育を語り合う―この国の教育はどこへ向かうのか

大田堯・寺脇研が戦後教育を語り合う―この国の教育はどこへ向かうのか

  • 作者:大田 堯,寺脇 研
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)