【『太陽を盗んだ男』について(1)】
長谷川「映画の世界に入って、山(山崎裕)さんと会ったんだよ。今村プロで。年上なのに山と呼んでしまって、山、ゴジできょうまで来てます。おれが海外で撮ったドキュメンタリーはほとんど彼がキャメラマンです。
日活で神代辰巳という大監督がいて、当時はロマンポルノで売れかけたころだけど、おれは脚本を書けば助監督も年に6~7本やってたから“何そんな急いでるの”みたいに言われて。早いとこ撮らないと死ぬからなんだけど、死ぬからとは言えないんで“時間がなくて”みたいに。
1本撮るまで行き急いでたな。『青春の蹉跌』(1974)は30で、実はがっくりきてたんだ。20代でデビューしようと思ってたのに。大島渚とか松竹ヌーヴェルヴァーグが、みな26~27でデビューしてたからその風潮に乗りたかったんだな」
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長谷川「日活もロマンポルノになって、ねずみ小僧が夜這いだったっていう『性盗ねずみ小僧』(1972)も書いたな。『青春の蹉跌』とか三億円事件の『悪魔のようなあいつ』(1975)とか。この『悪魔』の事件現場の再現シーンは山が撮ってくれてんだ」
山崎「これは久世(久世光彦)さんが16mmフィルムじゃどうしてもやだっていうことで、35mmの画質で撮りたいってことで呼ばれたんだ。ほんとは中継車出してやりたかったんだけど、あの現場じゃできなかった」
長谷川「まだカメラがでかかったころだからな」
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長谷川「小学3年生で記事を隠されたのがでかかったな。大学生のときに渡哲也と吉永小百合で『愛と死の記録』(1966)っていうのを広島で撮ったんだよ。おれは東京にいたけど、綺麗すぎるラブロマンスであったが、渡が死ぬんだよ。21歳くらいのおれは、渡に自分をだぶらせてるんだよ。
おれの師匠の今平(今村昌平)さんが『黒い雨』(1989)を撮ったり、新藤兼人の『原爆の子』(1952)とかがあるんだが、当事者のひとりとしてはなんか違うという気がしたんだな。そんな話を、ポール・シュレイダーとレナード・シュレイダーという『タクシー・ドライバー』(1976)のライターコンビにしたんだな。『タクシー・ドライバー』と『青春の殺人者』は同じ年の「キネマ旬報」のベストワンで、ちょっと親しみもあったんだな。3~4か月後にレナードが日本に来て、かみさんが京都の呉服屋の娘で日本人なんだけど、“お前のためにいいアイディアを思いついたぞ”と言うんだよ。普通の若者が原爆をつくって、政府にプレゼンしてテレビのナイターを最後まで見せろって言う、どうだと。ばかばかしくて面白えって。昔はテレビのナイターを9時で打ち切ってたんだよ。よく日本人はあれで我慢できるな、いちばん面白いところでカットアウトされて怒らない日本人って変な奴らだということだったらしい。原爆とナイター見せろって取り合わせも面白いなと、こういう要求を2~3個思いついたら行けると思ったんだが、結果的に奴が書いてきた本は金を取って彼女とブラジルに逃げる飛行機の中で終わるみたいなさ。ちょっとがっかりしたんだな。ウェルメイドで原爆の意味がねえじゃねえかと。それでおれは(主人公の)兄ちゃんを原爆製造中に被爆させてみようかと。そしたらレナードは“映画がヒットしなくなる方向だぞ”とすごく反論したんだけど、ダイナマイトじゃないんだから原爆の意味が出なきゃしゃあない。
最初つけたタイトルは“笑う原爆”で、泣く映画はたくさんあったが、原爆で笑う映画はないだろうと。東宝はともかく原爆という言葉は一切タイトルから外してくれと。そのタイトルで1年くらいスタッフを引っ張ってたからな。そのタイトルあきらめたって言ったら、黒沢清とか抗議してたよ。英語タイトルが“日本を盗んだキッド”。『ザ・ヤクザ』(1974)の脚本も書いてるから、日本というものの意味がある意味大きいんだな。キッドに当たる日本語もないし、それにお前らは日本を盗むと面白いと思うかもしれないが、おれはこんなもの盗みたくもないんだみたいなさ。それでも日本を盗んだ男というタイトルで台本も刷ったりしたんだよ。そこにデザインの横尾(横尾忠則)さんが、原爆をイメージした丸いイラストをつけてくれたんだ。それが太陽に見えたんだな。太陽を盗むというのはギリシャ悲劇の古典的な発想も含めて意味があるから、太陽を盗むにしようとかと。スタッフにはだいぶ文句言われたが、2~3か月くらいの準備期間中の撮影所に被爆者同盟の人が抗議に来て、笑う原爆というタイトルの台本も持ってるんだな。日活の食堂で被爆者がこういうことを聞いたらどう思うかと言われて、実はぼくは胎内被曝児なんですがおたくさまはどちらで被曝されましたかって訊いたらその人は被爆者じゃなかったんだな。ただそのひとことで帰ったよ。そのときだけだな、被爆者でよかったと思ったのは(笑)。当事者が怒ってるからとなるけど、原爆の当事者でラッキーと思った」(つづく)
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