『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)などのガメラシリーズの特技監督、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015)や『シン・ゴジラ』(2016)の監督として知られる樋口真嗣は、かつて実相寺昭雄監督『帝都物語』(1988)や『ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説』(1990)の絵コンテを担当した。特集上映 “実相寺昭雄の光と闇” にてテレビ『おかあさん』(1962)が上映された後のトークに樋口真嗣氏が登壇。聞き手は批評家の樋口尚文氏が務める。
『おかあさん』は読み切りドラマの枠で毎回冒頭にサトウハチローの詩が朗読されるのだが、そんなほのぼのした母子ものの枠に20代の実相寺監督はハードで先鋭的な作品をぶつけた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
真嗣「よくわかんないね…。ロケはフィルムでスタジオ部分はV? 冷静に見ると、どうやってつないでる?と。生では不可能ですね。
のちの、いつものやつっぽい。でも16mmでぶっ通しで撮ったなら判るけど、スタジオでやるのはすごい。(カメラの)台数だって4台5台もない、2台だよね?」
尚文「こんなに大変なら16でやればいいのに」
真嗣「いま見ると(古くなって)Vの部分と収録部分の画質が似ちゃってる。
横顔フェチ、ずっと横顔撮ってるなって」
『おかあさん/あなたを呼ぶ声』(1962)は大島渚監督『愛と希望の街』(1959)に感銘を受けた実相寺が大島に脚本を依頼。
尚文「実相寺さんの、大島渚の呪縛がすごいなって。「あなたを呼ぶ声」は『愛と希望の街』ですね。おかあさんって言ってプチブルをだます底辺の人って構造は同じです」
真嗣「ああいうのやりたいって発想かな」
尚文「京都(京都文化博物館)でこれをやったとき、ぼくは最初に誤解なきようにって言って。『おかあさん』はサトウハチローの詩が馴染むような作品で。これ(上映作品)だけだとプログレな作品ですけど(一同笑)」
真嗣「そんな中でもいつものでしたね。保守中道があったら、そこを思いっきりはみ出るという…。許されたんですかね」
尚文「許されたっていうか、やっちゃった」
真嗣「お母さんって台詞を入れればいいと。ほっこりした『おかあさん』を見ようとしてこれ見たら「えっ?」っていう。やっぱり放送のテロリストですね。『ウルトラマン』(1966)でのはみ出し方と変わってない。いい時代ですね」
尚文「最初の「あなたを呼ぶ声」は実相寺さんにしては丁寧に撮ってる。大島さんにめちゃくちゃに怒られて。大島さんはテクニシャンが嫌いで、ごろんっていうのが好きな方」
真嗣「どう見ても小手先だと」
尚文「ラストの池田(池田秀一)さんと池内(池内淳子)さんを(カットバックで)チャチャチャと。ここで怒られただろうなと」
実相寺は単発ドラマ『いつか極光(オオロラ)の輝く街に』(1963)にて大島脚本に再挑戦。
尚文「『おかあさん』で怒られまくっちゃったので、『いつか極光の輝く街に』では大島さんの脚本撮って捲土重来。でも感想は「きみはテクニシャンだなあ」って。怒られなかったけど。そこがターニングポイントかな。そこから大島渚の呪縛が解けて、『怪奇大作戦/京都買います』(1969)へぐっと」
真嗣「大島渚を目指そうとしてたと」
尚文「好きだった。実相寺さんは『青春残酷物語』(1960)の批評を書いてて、めちゃくちゃすごい批評で。いくつだろうって」
『おかあさん/あつまり」(1962)は若者たちの倦怠したパーティーが描かれる。主演は「京都買います」でも好演した斉藤チヤ子。
尚文「実相寺監督は、斉藤チヤ子好きですね」
真嗣「かなりいい時期…って言っちゃいけないけど。「京都買います」は大人にならないと判らない。熟女ものっぽい。でもこの斉藤チヤ子は素晴らしい。山本彩に似てるな。フレッシュな。
一貫してるように見えて、やっぱり時期があると思う。最初がいちばん向こう見ずだったころで『おかあさん』とは名ばかり。ひりひりしてますね。これ、呼び出しですよね。呼び出しがあっても、日記とか読むと呼び出したくないタイプ。絶対言うこと聞かないし。円谷一さん、想像するしかないけどあの人の器の大きさ、ああいう人のもとに…」
真嗣「ぼくなんか完成しちゃった実相寺さんとおつき合いしてて、内面が判らない。何訊いても煙に巻かれちゃって。
(原体験は)『ウルトラセブン』(1967)と『怪奇』の再放送ですね。それで難しい名前の人だなって。名前もお寺ですからね。カメラを向けて真実を切り取る!みたいな名前で。写真を見ると怖いし。びびりながら行くとすごくラフ。もっと緻密に来るかと思ったら、全くもってラフ。こっちとしては何でだろうと」(つづく)