テレビ『ウルトラマン』(1966)や『ウルトラセブン』(1967)といった特撮ドラマ、映画『哥』(1972)や『屋根裏の散歩者』(1992)など多彩な作品を遺した実相寺昭雄監督。没後10年を経て、4月に渋谷にて特集上映“実相寺昭雄の光と闇”が開催された。
ラインアップの中で特に貴重なのが、まだ20代だった実相寺が初めて演出したドラマ『おかあさん』の「あなたを呼ぶ声」(1962)。『おかあさん』は30分読み切りのシリーズで母と子の人情話がメインだったようだが、「あなたを呼ぶ声」は主人公(池内淳子)と偶然出会った少年(池田秀一)との断絶を描いたハードな一編である。
産婦人科で妊娠を告げられた主人公は、その帰り道に雑踏で、見知らぬ少年に「お母さん」と呼ばれる。そこで貧しい少年の世話をかいがいしく焼こうとするが、やがて思わぬ真実が明らかになる。
ラストの「聞こえてくるんですもの。聞きながら生きるしかないんだわ、たとえ苦しくても」という主人公の台詞には感銘を受けた。
大島渚監督の映画『愛と希望の街』(1959)を見た実相寺が、大島に脚本を依頼。完成した作品は大島に怒られたらしいが、いま見ると20代の演出とは思えないほどの老成したつくりに感嘆した。技巧を軽やかに駆使するテクニシャンぶりに加えて、サウンドトラックでなく当時のヒット曲やクラシック音楽を流し、スポーツ中継の音を拾うあたりも後年の作品を予告している。
上映後に子役として「あなたを呼ぶ声」に出演し、現在は『機動戦士ガンダム』(1979)や大河ドラマ『花燃ゆ』(2015)のナレーションなど大御所声優として知られる池田秀一氏のトークが行われた。聞き手は碓井広義・上智大学教授。碓井氏がテレビ『夏目雅子物語』(1993)をプロデュースした際に、池田氏が医師役を演じた。池田氏は「覚えてますよ、もちろん。久しぶりでしたから、顔出しは」という(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
池田「(「あなたを呼ぶ声」のときは)若かったですからね、12くらい(一同笑)。先ほど見させていただいて、こういう話だったかと思いました。(当時は見たかどうか)覚えてないですね。リアルタイムで見ないと見られなかったですからね。
収録は丁寧に撮ってました。その雰囲気は思い出しましたね、熱気というか。ほんとにこんなに真面目にやってたんですね(一同笑)。真剣にね」
視聴者として見ていた碓井氏が、本話だけいま見ると『おかあさん』はとんでもないドラマ枠だと思われるかもしれないが、普段はほのぼのしているだと注釈を入れて笑わせた。
池田「これは型破りです。ホンが大島さんだしね。実相寺さんは25?
ぼくは、芸能界に入って子役でやり始めて5年ぐらいですかね。小学校3年生で入りまして。NHKの仕事が多くて、硬いやつをやらしてもらってたんで。だから実相寺さんと初めてお会いして、とにかく何をやってるかわかんなかったですよ。どっから撮ってるかも判らない。実相寺さんという名前も珍しかったし。たった5年でしたけどいろいろめぐり会った演出家の中でも、変わったおじさんだなって。大島さんもリハーサルにいらして、でも何も言わないんですよ。怖いおじさんでしたね(一同笑)。
自分も、一応ちゃんと考えてやってますね(笑)。多分、ホンの内容は判ってなかったと思いますよ。実相寺さんも優しくて、この坊やは判らないだろうと思ったかもしれないけど、演出の仕方もとても優しかった記憶がありますね。ここで振り返ってくれればいいとか、内容を説明しても判らないから。そういう演出をしてくださってたのを思い出しますね」
序盤に産婦人科を出た池内氏が街を歩くシーンは、ワンカットの長回し。そこで池田氏が「お母さん」と呼びかける。
池田「冒頭に呼びかけるのは生だったのか、先に録音してたか記憶にないですけど、なんかすごかった。頭のカメラワークにしても、ああヌーヴェルヴァーグなんだと思いました(笑)。そのころ知らなかったですけど、こんなことやってたんだって。
ドラマのTBSですから、当時は。あ、いまでも?(笑) NHKは和田勉さんがいらして、フジテレビには五社(五社英雄)さん、岡田太郎さん。それでTBSはまた変わってるっていうか、ドラマのTBSって顔してましたね。ディレクターの方も制作の方も。
その当時、業界全体が芸術祭にすごく力入れてましたね。ほとんど赤字覚悟で、それぞれに熱気があって面白かったです。ラジオでも、昔の台本を見ると芸術祭参加のラジオドラマを3日くらい稽古してるんですよ。本読み、本読みで。それで2日かけて録ったり。丁寧に録ってましたね。
生放送かビデオになったけど、ビデオにはさみは入れられないんですよ。編集するのも銭かかるので。NGが出たら、頭から30分録り直し。ぼくが出てるような少年ドラマは予算がなくて、大河ドラマは予算があってバチバチ切れて、うらやましかったですね」
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