【手塚治虫の人物像】
かつて練馬区富士見台にあった手塚邸についても語られた。虫プロも同じ敷地にあった。
るみ子「建物はSFチックであるんですけど、『ジャングル大帝』のお城に似ているなって」
辻「いちばん最初に(手塚邸に)行ったとき、虫プロがなくて。その後で名前どうしようと。冷房がなくて蒸し風呂で、虫プロに。坂本雄作さん、山本暎一さんがいて、りん(りんたろう)ちゃんがいるかいないか?」
るみ子「お給料がよくて虫プロに移られたと聞きましたけど」
辻「虫プロの試写室、天井が低くって。みんな、ああいいもの見たなってガンと頭ぶつける。シリー・ シンフォニーシリーズとか見て感動して、10分くらいで天井低いこと忘れちゃう(笑)」
らせん階段の上に仕事部屋があって(『手塚治虫物語 漫画の夢、アニメの夢』〈朝日文庫〉などでも描かれている)、るみ子氏によると、としまえんの花火のときは子どもたちも昇らせてもらえたという。
るみ子「みなさんには手塚先生は時間がなくてって言われるんですけど、子どものころ遊園地に行ったり、花火や洋画劇場見たりすることが多くて。子どもの感覚でしたから判らないですけど、サボってたのかな(笑)。子どもには判らないですから、父が帰ってこないというときは、本気で怒ったり。
興が乗ると、みなさんの前で恥ずかしげもなく、ピアノ弾いて。譜面も見ないで弾いてました」
音楽に造詣の深い手塚は、今年逝去した冨田勲や樋口康雄などを自作アニメの音楽に起用していた。テレビ『ジャングル大帝』(1965)では辻氏がメイン脚本で、主題歌「レオのうた」の作詞も担当(作曲は冨田勲)。
辻「冨田勲さん、ぼくはフランキー堺に紹介されて、判らないことは冨田さんに投げちゃって。
(「レオのうた」では)冨田さんの曲が遅くて、録音するときかなり押したり。手塚さんと冨田さんは、凝ることの2大巨頭。交響楽団を待たせて譜面を書き直したときは、青くなりましたよね(笑)」
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手塚邸には、子どもの入れない「開かずの間」があったという。そこは飲むスペースで、当時ホームパーティーが流行していたからつくったのではないかと辻氏が指摘。るみ子氏は得心した様子だった。
るみ子「高級なお酒があったらしいけど、家庭にはあまり必要ない。そういうモダンなことをしたかったのかな。実際自分が大人になって、こんな色彩のところは見たことがないですね」
『鉄腕アトム』の「海蛇島の巻」には、ゲストの女の子の名がるみ子。1954年に発表されたので、るみ子氏が生まれる10年前である。
るみ子「私の名前の由来は、『リボンの騎士』のプレゼントの当選者。父が役所に出す期日があって、当選者の中から選んで。邪険に扱われたと思って嫌いだったんですけど、でも後で「海蛇島」のるみ子のことを知って。この時代としてはモダンな名前で、このときからるみ子という名前は父の頭の中にあったのかなと。少し救われましたね」
辻「それは潜在意識としてきっとあったと思います」
【その他の発言】
その他、印象に残った発言をランダムに紹介したい。
辻「海野十三の『地球要塞』では、金星人が四次元振動術を使って、それで博士が金星人の世界へ行く。歩くと足の裏が触れる。その描写を戦前に読んで、すごいと思いましたね」
辻「昭和21、2年ごろですと、戦争の話はできない。飛行機の絵を墨でつぶして、この世に戦車や飛行機は存在しないと。でも朝鮮戦争で、あ、飛行機あるじゃないかと。当時はマンガどころの騒ぎじゃなくて、紙は回ってこなかった。あちらの方々には申しわけないですが、朝鮮戦争で日本は息を吹き返した。ソ連も、日本を文化的に押さえなきゃと、ソ連の映画「せむしの仔馬」(『イワンと仔馬』)が日本に来た。総天然色漫画映画でした」
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辻「昭和25、6年になって、ようやく(戦争を)客観視できるようになって。初めのうちは爆弾とか怖くて。いまでもサイレンが鳴ると、耳をふさいで倒れたい(笑)。そういうトラウマがあります。毎晩聞いていましたから」
辻「『メトロポリス』のミッチィは人工的なサイボーグ、人造人間でわりあい触っても大丈夫だろう。『来るべき世界』(のヒロイン)は、生身で触れない。ちらっと見たら、バババと殴られる(笑)。
日本の場合は、男女の話をストレートにやると差し支える。野村胡堂の小説で、主役の美少年が美少女に変装したり。そういうことをやらないと…。見かけだけでも性転換、歌舞伎でも女形とか」
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KISSのジーン・シモンズは『鉄腕アトム』のファンであることを公言しており、るみ子氏の尽力によって今年、コラボイベントが実現した。
るみ子「(シモンズは)子どもが主人公というのは初めてで(アトムが)お父さんにいじめられるとか。自分もお父さんと離れていたので、シンパシーを感じたと。大人でなく子どもが主人公になれるんだって」