山田太一先生の代表作のひとつである『岸辺のアルバム』(1977)の主題歌は、ジャニス・イアン「Will you dance?」。選んだのは堀川とんこうプロデューサーだった。
山田「堀川とんこうさんが他のドラマ(『グッドバイ・ママ』〈1975〉)の主題歌にジャニス・イアンを使いたいと申し込んだら、他にもう1本の主題歌に使うことが条件だと。だから(『岸辺』の)主題歌になったんですね。これは歌詞も素晴らしい。偽善ばかりのこの世界を許せるかみたいな曲で、ぼくは何の文句もなかったですね。
『冬構え』(1985)のときは、ギリシャのミキス・テオドラキスのCDが好きで聴いてて、その中の「小さな道」という曲がすごくよくて。演出の深町幸男さんが許可をもらうって言って、使ってくださって。ただ(本来の音楽担当の)作曲家に悪かったと思ってて、その人は若くして亡くなってしまったんですけど…。
トルコとギリシャは仲が悪い。でもトルコへ行ったら、テオドラキスのCDが平積みになってて、音楽に国境はないんだなって嬉しくなりましたね」

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山田「日本の軍歌は、悲しい歌が多い。勇ましいのが少ないというか、こんな曲で元気出るのかなって(笑)。“勝ってくるぞと勇ましく” でもメロディーに哀調がある。ぼくは演歌が好きじゃなくて。心にいちばん届くものは、ひとりひとりが持っていらっしゃると思うんですが、ぼくの場合は軍歌ですね」
山田先生の小説作品『飛ぶ夢をしばらく見ない』(小学館文庫)は、主人公が出会った老女が、再会するたびに若返っていって、最後に精神は大人のままで、姿は幼児になってしまうという不思議譚。
山田「小説を書くときは考えすぎないようにしています。何のプランもなく、書き出したら登場人物とつきあっていくという。テレビだと企画を通すとなると、こういう(登場)人物で、こういうストーリーで、と(事前に)決めないといかない。小説では、何が浮かんでくるか判らないような状態で書いていました。『飛ぶ夢をしばらく見ない』は海外で翻訳されているんですが、成り行きとして、主人公が幼児といっしょに風呂に入る。でもこういうのがダメっていう感覚が、アメリカやイギリスにはある。(精神は大人という設定なので)ほんとは幼児じゃないし、自分は幼児の話を書いてるつもりはないんですよ。成り行きだったんです。計算してないからそうなってしまったというところがありますですね」

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山田「ぼくは、エッセイより嘘の話が好きなんですね。エッセイでは嘘をつけない。嘘ばっかりみたいな話がいいんですね。でもこの『月日の残像』(新潮社)を友人に送ったら “お前、嘘ばっかりだ” って言われて(一同笑)」
その他の発言をランダムに紹介したい。
山田「アメリカのヌードを見ると、恥じらいがない。だから面白くないんです。日本の人も概ねは恥じらいがないけど(笑)。見せたくないものを見せるっていう突っ張りがあったほうがいいんじゃないかなって。お風呂屋さんで平気で入ってる女性を見てもねえ(笑)。古い人間なのかも判りませんが。
40年くらい(溝の口に)住んでいて、散歩してると飽きるんです。でも飽きるのは眼力がないからだ、っていうニーチェの言葉があって。四季もあるし、すれ違う人も違うし。ああなるほどなって。
愛している人が歳をとって、その裸を見ると、打撃を受けますね。好きな人、好きじゃなくても長くいっしょにいる人が肉体的に変化してしまう。それは、すごくつらいことですね。見たくないと思ったり、あえて見ようとしたり、そういう老いを書いてみたいですね。
(演出家の)久世光彦さんは素晴らしかったですね。久世さんの小説『一九三四年冬 乱歩』(創元推理文庫)が山本周五郎賞の候補になったとき、ぼくは審査員だったんですが、素晴らしいと興奮して、こんなすごい人だったんだなと。以前(脚本家と演出家として組んだ)ドラマのとき、フロアで会ってお互いこの先どうなるんだ? って感じでしたね。
(久世はエッセイに、山田さんに見透かされるようだと書いているが)ぼくは見透かすようなことなんて、何もないですよ(笑)」
山田先生が東日本大震災に挑戦する最新ドラマ『時は立ちどまらない』が、今年2月22日に放送される。演出は、先述の『岸辺のアルバム』のほか、『やがて来る日のために』(2005)などの作品で組んでいる堀川とんこう氏。
山田「(震災を)ドラマにするとなると、被災された方を悲しませちゃいけないし(作り手は)みんなすくんでしまいますね。力を合わせようとか、そういうよくある形じゃなくて、違った切り口で書けないかなと。それに3年近く経ったから、もう許してもらえるかなと。袋叩きにあうかもしれませんけど。
時はどんどん過ぎる、立ちどまらないって実感がありまして。でも最近カメラのCMで “時は止められる” ってコピーがあって、早くも敵が現れたな(一同笑)」
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松家仁之さんも言っておられたが、『月日の残像』は、こういう話題がつづくのかと思ったらするりと他の事柄が差し出されるという展開の妙があって、山田太一ドラマを彷彿とさせた。
昨年12月の講演では疲れた顔だった山田先生は、今回はお元気そうでちょっと安心した。
【関連記事】山田太一 × 中井貴一 × 堀川とんこう × 内山聖子 トークショー レポート・『時は立ちどまらない』(1)

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