【和田竜と山田太一 (2)】
和田「バトルもので、テーマが両立している作品をつくりたいと。大学4年生でシナリオ講座に通って教わったんですが、映画は面白くしちゃいけない、面白いのは低俗で、波風のないものが高級と教えられた気がして。ぼくは『ターミネーター』(1984)ですから、ぼくの面白いと思ったものが全否定された気がしたんです。受賞作(のシナリオ)を読んでもつまらない。
そんなときに見たのが、山田さんの『春の一族』(1993)なんですよ。それまでドラマを見る習慣がなくて、意識してなかった。見たら抜群に面白い。アパートがあって、上の階と下の階があって、そこに暮らしている人がいる。当時は、自分のパーソナルスペースを守って、お互いに踏み込むのはやめようみたいな社会的雰囲気があって、その象徴があのアパート。そこにずかずか入っていく緒形拳さんがいて、リアルであり、会話の妙があって面白いんです。
国生さゆりさんと緒形さんが口論して、中島唱子さんがいて、浅野忠信の部屋があって、“聞こえてるなら出てこい”って言って、浅野が“何?”って出てくる。何このリアル感(笑)。緒形さんはずかずか入っていくけど、緒形さんの前の会社の天宮良さんが、“いや、あの人はそんな、他人のプライベートスペースに入っていくような人じゃない”と。あ、何者なんだって興味が湧いて、娯楽性もある。
それを見て救われた思いがして、シナリオ集も読んでいった。当時『岸辺のアルバム』(1977)も再放送していて、普通の家族の会話の妙があって、やはり娯楽性もあってすごいなと思った次第です」
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山田「『春の一族』は、自分ではそんなにいいとは思っていません(一同笑)。
結局ぼくは、書きたいものを書けばいいと思う。映画は変な文学性を重んずるところがあって、変って言っちゃ悪いけど。そういうのの魅力もありますが、私は多くの人が見るテレビをやってきたので、映画オンリーの人とは違っていたのかな。
『村上海賊の娘』(新潮社)のラストで(主人公が)何年かしてお嫁さんになったと。野放図に活躍した女性が、数年経って嫁いでいった? この人はどう生きる?とか、亭主は?とか気になってしまって(笑)」
和田「それを描くなら、もうひとつ合戦を入れたいと思いますね(笑)」
山田「和田さんとぼくとは、タイプが違うんですね。
和田さんは、こういう物語が書きたいと思っているものを一目散に構築なさっているという感じがあります。いちばん偉そうに見えないやつがいちばん強い、偉いと。それが和田さんの趣味なのかな」
和田「ぼくは1998年くらいまでTBSの下っ端のADをやっていまして、コピーしてこいと言われることが多くて、いつもコピー機の近くにいた。そこにファックスも送られてくるんですが、あるとき山田先生の『ふぞろいの林檎たちⅣ』(1997)の原稿が送られてきて、あっ!と。盗んで帰ろうかとも思ったけど、ふぞろい班に持って行きました(一同笑)」
【『岸辺のアルバム』(1)】
テレビ『岸辺のアルバム』(1977)は、妻(八千草薫)の不倫を発端に多摩川沿いに住む家族(八千草、杉浦直樹、中田喜子、国広富之)が崩壊へ向かうという、山田氏の代表作。最終回のクライマックスは、多摩川の氾濫で家が飲み込まれる。

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和田「『岸辺のアルバム』で、20年前の再放送で息子の国広富之さんが八千草薫さんの不倫を暴露して、直後に台風が来て大変なことになったと覚えていた。でも最近DVDを見たら、暴露の後で杉浦直樹さんたちが、それがなかったかのように振る舞う。思いだけが増幅していく。うちの女房と見てて、リアルすぎて気持ち悪いなって。どういうふうに書かれてるんでしょうか(一同笑)」
山田「(劇中の)出来事に対して、自分だったらどうするかなって。現代物ですから当たり前かも判りませんけど。理念があって、最終的に決着するのは自分の願い通りにしたい。これをみんながリアルと感じてくれるかなっていうフィルターがあって、それでこれじゃダメだなって書き直すとかやっていく。シミュレーションして、ある程度のリアリティを手に入れる。
和田さんのようなバーっと飛び跳ねるというのは、そういうタイプですね。上下ではなくて。みんなひとりひとりの余儀なさがありますね」
和田「ご自分のリアリティに引きつけて書かれると…」
山田「老女がつき合っているうちに若くなって子どもになっちゃうとか(『飛ぶ夢をしばらく見ない』〈小学館文庫〉)、どこにリアリティを置いたって成立しない。物語的なリアリティですね、自分なりの。
和田さんの作品には、細かなリアリティで物語を補強なさっていますね。海賊はエイエイオーとは言わない、エイエイエイって言うとか、しびれますね。そういうのが、全頁に散りばめられてる」(つづく)

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