私の中の見えない炎

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山田太一が選んだベスト映画(1)

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 昨年刊行された『文藝別冊 総特集 山田太一』(河出書房新社)は、過去に書かれた記事の再録が多いことなど若干の不満もあるけれども、それでもファンには面白くて貪り読んだ。

 その中で、山田太一先生がベストの書籍10冊、ベストの映画20本を挙げておられる。山田先生は、メインワークはテレビであるが、過去に松竹の社員だったこともあるし、映画にも造詣が深い。そこで山田先生が過去に選んだ映画のベストランキングを、筆者の手元にある範囲からいくつか紹介したい。

 

◎マイベスト10と好きな映画人

1 『8 1/2』

2 『お熱いのがお好き

3 『エデンの東

4 『第三の男』

5 『天井桟敷の人々』

6 『ベニスに死す』

7 『自転車泥棒

8 『嘆きのテレーズ』

9 『アラビアのロレンス

10 『欲望という名の電車

 

男優:ダーク・ボガード

女優:気が多くて選べません。

監督:ビリー・ワイルダー

感想を一言:野暮を承知で申せば、こんな選択はとても無理で、私的な思い出や、諸々の条件がまとわりついてのベスト10です。

(『大アンケートによる洋画ベスト150』文春文庫ビジュアル版 1988年) 

◎映画人が選んだオールタイムベスト(洋画)

1 『ある結婚の風景』

2 『ミツバチのささやき

3 『アニー・ホール

4 『ベニスに死す』

5 『8 1/2』

6 『お熱いのがお好き

7 『秘密と嘘』

8 『アマデウス

9 『悲城都市』

10 『さらば、わが愛 覇王別姫

 

 その作家の後期にいい作品が出ると「この人は本当に凄かったんだ」と思い、逆の場合は「なんだ、この程度の人だったのか」ということにどうもなってしまう。先日はキューブリックの『アイズ~』の浅薄に傷ついた。『永遠の一日』を見なかったら『旅芸人の記録』は入れただろう。『枕草子』(グリーナウェイ)を見なかったら、というようなことはいけないと思うのだが、そうなるところがある。ベルイマンの『ある結婚~』は、テレビの長尺の方しか実は見ていないのだが、これは本当に敬服した。『アラビアのロレンス』を入れずにどうして『秘密と嘘』なんだ、というようなことはあれこれ湧いてしまうのだが、ヴィスコンティフェリーニを入れずに『髪結いの亭主』『羊たちの沈黙』『バックマン家の人々』『月の輝く夜に』『スティング』とかでまとめると、それもちょっとちがうんだよなあ、という迷いの中の一作です。

(『キネマ旬報』1999年10月上旬号) 

◎映画人が選んだオールタイムベスト(邦画)

1 『死の棘』

2 『笛吹川

3 『野菊の如き君なりき』

4 『ツィゴイネルワイゼン

5 『浮雲

6 『七人の侍

7 『東京物語

8 『おとうと』(市川崑

9 『真空地帯』

10 『赤い殺意』

 

 どうしても、こういう投票には定番の作品が出て来てしまう。子供の頃、正月の満員の映画館で見た『エノケンの法界坊』が忘れられないが、じゃあ『浮雲』を落として入れるかというと、それはやっぱりちがうだろうと思う。豊田四郎吉村公三郎東映のヤクザ映画、大映の最盛期の作品などは、十本という制約の中では入れないことになってしまうが、なんだか罪を犯しているような気がしてしまう。

(『キネマ旬報』1999年10月下旬号)(つづく)