脚本家の山田太一先生の講演会へ足を運ぶ。“ゆっくり子育て講演会” という触れ込みだが、子育てなど終わっていそうなご年齢のお客さんが多かった。それゆえか、子育ての話も出たけれども、大半は時代の批評のようなお話であった。
山田先生は、今年2月に放送された『時は立ちどまらない』にて東日本大震災を描いた。次のテレビの新作は12月で松本幸四郎主演とアナウンスされている。
先生は最近80歳になられたばかりだが、お元気そうでノートに付箋をたくさん貼って講演の準備をされていた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【生きるリアリティ (1)】
タイトルは何にしますかって言われて(ドラマ『時は立ちどまらない』を)書き終えたころだったので、そればかり頭にあってタイトルにしてしまいました。あまり内容と関係ないんですが(笑)。時は立ちどまらない、それで救われるってこともありますよね。時が経ってしわが増えるとかもあるけど(一同笑)。
2週間くらい前、中井貴一さんがテレビで自分の父は早くに死んでしまった、だからお父さん世代の男の人が判らなくて苦手だって言ってて。
その場合、マイナスもあるけど、そういう欠落にはプラスもある。何十年も前、片親の家族って “欠陥家族” って言われてました。お役所がそう言ってて、ひどいなと思って、それでそういう家族を書いてみようと『3人家族』(1968)というタイトルで(ドラマを)書いたんです。欠陥じゃないだろってすごく思いました。基準のようなものが見方を遮る。揃っている人にもマイナスはあるし、苦労があったほうが、人間はいろんなことが考えられる。“欠陥家族” は就職しにくいとか、表には出てないけどいまもそういうものはある。テレビ局だと優秀な人が採用されちゃう。でもそういう人は細かなニュアンスで苦労してない。ドラマをつくる人は “欠陥家族” とか貧乏な人とかを採用したほうが、ニュアンスのあるものができるんじゃないでしょうか。
自分のことを思っても、幸福な想い出って刻まれてない。マイナスって人生において大事だと思うんだけど、社会がマイナスを使いこなしてない。少し前、いえ何十年か前ですね。歳とってるから、何十年前が少し前(一同笑)。苦労自慢があって、おばあさんが「私はこんな苦労をした」「私のほうが苦労した」とか言い合ってた。いまはそういうのがない。社会がマイナスを再評価したほうがいいと思いますですね。
フェミニズムが出てきたころ、それまでが男が女より上、男が中心っていう時代だったのもあるけど、擡頭してきたころのフェミニズムはものすごい教条主義、原理主義でしたね。たまたまぼくが、そういう時期にぶつかったのかもしれないけど。困った評論家が、女の子がお人形を好きなのは親のせいだ、うちの子は女の子だけど機関車が好きですと言い出して(一同笑)。対談したときに「うちの子は」って言い合って、ぼくはやりこめられました。でもそういう教育論はむちゃくちゃで、男と女は違うからこそ恋人になったり夫婦になったりする。
事実って何なのかな、ほんとって何なのかなって考えるのはドラマのひとつの役割と思うんですね。例えばサッカー(W杯)どうなったんですか? きょうこれがあるから、途中までしか見てなくて。あ、負けた?(一同笑) 少し前までサッカーって何が面白いって言ってる人もいましたよ。いまそんな人は少ないです。簡単に人が変わっちゃうような怖さがある。全然関心のないスポーツが、お金絡みもあってわーっと出てくるかもしれない。油断してると、またこちらが適応するべきスポーツが出てくるかも判りません。
野球だって、球を棒に当ててものすごく非生産的に思える(一同笑)。当たり前のことをよく考えると、すごく変に思えるってありますね。氷の上を人が滑るってすごいけど、別に何かを生み出しているわけでもないとか(一同笑)。(つづく)
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