私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

岸部一徳 × 犬童一心 × 尾形敏朗 トークショー レポート・『病院で死ぬということ』(1)

 がん告知を受けた患者たちは老夫婦(山内明、橋本妙)や働き盛りの男性(塩野谷正幸)など、さまざまな人びとがいる。医師(岸部一徳)は患者や家族たちと静かに語らう。

 山崎章郎の同題のノンフィクション(文春文庫)を映画化した市川準監督『病院で死ぬということ』(1993)は淡々としたドキュメンタリー的なタッチで終末医療を描いた異色作。2022年11 月に目黒にてリバイバル上映が行われて医師役の岸部一徳、映画監督の犬童一心の両氏のトークショーが行われた。聞き手は映画評論家の尾形敏朗氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

岸部「公開時はもちろん見てるんですけど、テレビでBSか何かでやったときも見て。スクリーンで見るのは公開以来ですね。ぼく、40ちょっとで若かったですね。久しぶりに見て、こんな名作だったんだって改めて思いました(一同笑)。自分が歳をとってきてるんで。75なんですけど、あの病院に入院するぐらいの歳になったんですけど、若いときに見たのとこの歳になって見るのとでは見方が違うんだなと思いましたね。こんなに静かに訴える映画だとはちょっと気づかなかったですね。

犬童「岸部さんと市川さんは立ち姿も似ています」

岸部「背も同じぐらいで、ちょっと前かがみになるところも似てますね」

犬童「『病院』はアップにならないんで、背の高さも似ています」

 

【市川監督との出会いとCM】

 市川準監督は映画の他に多数のテレビCMも撮っている。

 

岸部「(最初の出会いは)多分CМの仕事だったと思うんですけど、ナショナル(当時)のインバーター。映画でもCMでもずっと一貫して市川準さんらしいところがありましたね。ぼくは昭和22年生まれで監督は23年。ほぼ同じです」

犬童「普通の演出家と違うなって思いましたか」

岸部「突然「こんなことできますか」と。インバーターのときは急に歌を歌ってくれる?と言われて、現場でね。メロディーもその場で誰かが考えて」

 

 「♪取り替えるならインバーター」と夜の路上で岸部氏が唄うさまが上映された。

 

岸部「名作の後にこれ…(一同笑)」

尾形「これも市川準だということで」

犬童インバーターを見ても『病院で死ぬということ』を見ても市川さんらしいなという」

岸部「違和感はないです。これもキンチョールのCMも、台詞をちゃんと書いてその通りに(俳優に)してもらうというのが厭なんですかね」

犬童「ぼくも市川監督の『大阪物語』(1999)のシナリオを書いてるんですけど、シナリオ通りには撮ってくれませんでした。インバーターでもその場でメロディーを決めるという」

岸部「いま見るとこうですけど、当時はとんでもない感じがしましたけどね。普通の道路で急に撮り出して。撮影所でも何でもない。でも、そんなにはずかしそうな顔してなかったですね(一同笑)」

犬童「市川さんにそういうことを要求されても受け入れてますね」

岸部「市川さんだからですかね」

 

 つづいてキンチョールのCMは「お前の話はつまらん!」など大滝秀治との掛け合い。大滝に叩かれる場面もある。

 

岸部キンチョールのCMでは大滝秀治さんがわがままな人で、OKはあの人が出す(一同笑)。監督がOKでも「いやいやもう一度」と。大滝さんはそういう人でしたね」

犬童「結構叩かれてますね」

岸部「本気で叩かれたんですよ。夢中になる人でした。でも大滝さんは面白いですね」

犬童「大滝さんは面白いことをしようとしてるんでしょうか」

岸部「いや、そうじゃないと思います(一同笑)」

犬童「ただ真剣に。岸部さんには面白いことをやってるという意識は潜んでいたんでしょうか」

岸部「いやあ、そんな余裕がないですね。言われた通り、やらないといけないんで。大滝さんが何かしてくれると」

犬童「他に市川さんのCMではダスキンのナレーションをされていますね」

岸部「ああ、ナレーションはやってたかも判らない」

【『市川準の東京日常劇場』】

 『市川準の東京日常劇場』(1990)は深夜のミニドラマで、サラリーマンやマネージャーなどの設定を与えて俳優にアドリブをさせて日常を描くというもの。岸部氏は課長役で昔バンドをやっていたことが語られる。

 

岸部「あれは面白かったですね。ぼくがサラリーマンだったら、役名もなくて10分間、何かをやってくれと言うんですよ。何かやってくれと言われても…(一同笑)。放送は2分ずつで、後で編集しますと。サラリーマンでお願いしますと、そういうのが好きなんですね」

犬童インバーターでも『日常劇場』でも困ってるようには見えないです」

尾形「出色で撮り方が『病院で死ぬということ』に似ているんですね。このときの岸部さんが素晴らしいんです」

岸部「見直すと、このやり方を映画に使っているのがよく判りますね」(つづく)