私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

岸部一徳 × 犬童一心 × 尾形敏朗 トークショー レポート・『病院で死ぬということ』(2)

【『病院で死ぬということ』の起用】

岸部「(『病院で死ぬということ』〈1993〉のキャスティングで)細かいことはあまり覚えてないんですけど、原作を読んで泣いた記憶はあるんですよ。それで監督から言われたのは、カメラはフィックスで撮っていくからアップもない、病院の日常風景みたいな感じで撮るんでと言われましたね。どこから映されてるかも気にしないで、かえってよかった。指示はなかったですね。

 友だちが病室にお見舞いに来て帰るというのがありますけど、合図をすると帰る方向へ行ってくれと(事前に)決めといて、あとは好きに喋らすんですね。来た友だち役のふたりは俳優さんじゃないんで、電通の人(一同笑)。(監督の)知り合い(笑)。決められてる台詞もあるんでしょうけど、あのふたりは何も知らないでやっていますね。振られたら困るところもあったりしましたけど、そういうシーンが多かったですね」

犬童「医師と患者の家族との場面とか、深刻なシーンも多いですね」

岸部「患者さんの家族は台詞が大体決まってたと思います。看護師さんやぼくは決まってない。監督には「もしも岸部さんが終末医療のお医者さんだったらどういうふうに話してどういうふうに答えますか」「どういう言い方をしますか」って言われたんですよ。自分が医者だったらどうするかなっていつも考えました。市川さんはあんまり細かいことは言わなかったですけど、お父さんをお母さんのところに連れて行っていいかどうかっていう家族会議(のシーン)では、家族の人たちは台詞が決まってて、市川さんには困った医者をやってくれって言われました。ちょっとしどろもどろになってるんですけど。情況的には行くとあぶないんで「あなたが医者だったらどういう答え方をしますか」「おまかせします」と。ものすごくいい経験でしたね。『鶴瓶のスジナシ』(1998)というの(即興劇)もありますけど、ああいうのともまた違うんですね。決まっている枠の中でのやり取りで。きょう見ていて、こういうことだったのかなと思ったり。

犬童「映画の全体像みたいなのは…」

岸部「原作を読んで理解していたつもりで、監督はこういうことをしてほしいということは一切言わなかったんですけど。きょう見ていると、病院で生きている人に見えたなっていう。看護師さんも患者さんも、病院の中に生きている人に見えて。台詞がいらないシーンだったり定点観測だったりいろんなことをして、ドキュメンタリーでも普通の劇映画でもなく難しいことをやったんだなと思いましたね(笑)」

【実景を入れる構成 (1)】

 病院でのシーンに、ときおり街や夏の海、除夜の鐘などに人びとが集う映像が流れる。

 

岸部「途中に挟まれる映像があって、また病院の中になって。説明は何もないですけど」

犬童「(病院のシーンの)間に人が生き生きしている実景とか風景とかが入るのは説明されてなかったんですか」

岸部「台本にありましたけど、生と死ということかと想像して。どういうものが入るのかは判らなかったです」

犬童「公開のときにNHKの番組で市川さんがインタビューに答えてるんですけど、最初は原作が送られてきても断って。あるとき、病院の撮り方や病院の場面に人が生きているシーンを挟む手法というか構成というか、手がかりが浮かんで。テーマにも気がついて、相当時間が経ってから引き受けたと言われていました」

岸部「市井の人たちの生活の映像を間に挟むっていう、それを入れてみたらどうだろうと」

犬童「それを思いついたからやれた、みたいな。病院の中のことだけでつくっても普通の医療ドラマになりかねない。他のやり方はないかと、断りながらも考えてたみたいで(笑)」

尾形「市川さんは結構、悩んでいました。ここに準備稿があるんですけど、どういう構成かというと最初に先生がシンポジウム会場で講演をする。がん患者とか、こういうことがありましたと回想シーンでつなげていく。ぼく、読ませてもらって正直に、これはつまんないんじゃないですかと(笑)。市川さんもこれじゃだめだと思ってたみたいで、そのうちしばらくして見せられたのが小林さんたちの撮った実景のフィルムです。テープにしたので、病院のシーンに挟もうと思うと。構成にかなり悩んでいたようですね」

犬童「(制作が)新藤兼人さんの会社(近代映画協会)なんですけど、シナリオができたときに巨匠の新藤さんに読んでもらったそうです。「これは脚本じゃないね」と言われたって(笑)。だからみんなが思ってるような脚本とは違う。新藤さんの思っている映画ではない。そのことを市川さんはにこにこしながら言ってましたけど」

岸部「かえって嬉しかったのかな」

犬童「違うことをやれてると。新藤兼人に言われれば、自信をもってこれは脚本じゃない!って言える(笑)」(つづく)