私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

井上敏樹 × 海津亮介 × 若松俊秀 トークショー レポート・『鳥人戦隊ジェットマン』(3)

【『ジェットマン』について (2)】

 『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)では戦隊側に三角関係などがあるのは特にユニーク。

 

井上「(過去の作品は)戦隊側にドラマがない。それを『ジェットマン』のカラーにしようと思った。それとキャラづけをはっきりさせようと」

海津「アニメはキャラづけがすごく大事じゃないですか。井上さんはアニメから入ったから、そういうところが活きてる?」

井上「そう。戦隊はそれまでキャラづけがあんまりなかったの。レッドの台詞をブルーが言っても違和感がなかったり。

 昔、戦隊って業界では舐められてたの。おれ戦隊を書いてるって言ったらアニメのプロデューサーにバカにされたもん。「あんなものらくでしょう」とか。いまは違うけどね。みんな書きたがって、俳優も出たがってる。ライダーとか戦隊とか好きな人多いね。

 ライダーのほうがドラマチックなんだよ。戦隊はもうちょっと自由度が高い。例えば『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022)はライダーじゃ絶対できない。各方面からクレームが来るんじゃないかな。ライダーは大人向けでありたいというか。戦隊ファンよりライダーファンのほうが根深いかな」

海津「ライダーのファンはコアだよね」

若松「歴史もライダーが古いでしょ。ゴレンジャーは私が小学3年で、ライダー1号はもっと前」

井上「そうだね。ライダーは悲しいドラマがちょっとあるけど、戦隊はみんなでわちゃわちゃやって敵を倒すみたいなイメージ」

若松「『光戦隊マスクマン』(1991)はまだ景気の良かった時代だよね。バブルの絶頂期」

海津「そうかな」

若松「『ジェットマン』は湾岸戦争が起こった後なんですが、おれずっと劇団員やってて、朝ドラとか何本かやってて。大人たちがずっと元気だった時代を見てきたのに『ジェットマン』に選ばれたころは大人ががくんと。その時代はすごく覚えてる」

井上「脚本家はあんまりそういうこと考えないんだ。ひとりで家にいてさ。テレビも見ねえし、最近はYouTubeのゆっくり解説ばっかり見てる(一同笑)。

 『ジェットマン』は全話じゃなくて30話ぐらい(執筆した)。おれ、当時は仕事よりも人生を愉しむほうを優先してたからね。1話から8話ぐらいまで書いたら、鈴木(鈴木武幸)さんがびっくりしてたからね。「井上くんが8話も書いちゃうんだ!」(笑)」

海津「筆が速いんですって?」

井上「速いっていうか、考えるんだよ。こう見えても箱書きとかト書きとかさ、几帳面なんだ。考え終わると速い」

若松「井上さんが書いて、その次に他の脚本家の方が書いた話を見ると、作品が変わっちゃってる」

井上「1話完結になってたね。アコちゃんラーメンの話(第10話「カップめん」)とかよかったと思うよ。荒川(荒川稔久)が頑張ってた」

若松「和ませる話でした」

 戦隊シリーズは2009年まで、ほとんどの台詞をアフレコで収録していたという。

 

若松「当時はアフレコをする前に試写で見て、アフレコした後にも見る。そういう時代でした」

井上「『ジェットマン』は試写で見た気がするな。当時はオールアフレコだったね」

若松「アクションしてぜえぜえやって、その後にシリアスな芝居をしようとすると声が上がっちゃう」

井上「そっか、アフレコのいい点もあるんだね。(東映特撮での)同録は『仮面ライダークウガ』(2000)からかな」

海津「同録だとロケが大変なんですよ。ヘリコプターの音だ、工事の音だとかで大変。アフレコだと関係なくて、ロケだと早く終わるんです。ただアフレコだと、自分の口と合わねえとかね」

 

 若松氏と井上先生は当時からよく飲み歩いていた。

 

井上「監督は昔から戦隊を撮ってる職人だからさ、恋愛シーンをカットしちゃうんだ。ある日、若松からうちに電話かかってきた。「監督が勝手にカットしてます」って。「判った、鈴木さんに言っとくよ」ってそれ以来、飲むようになった」

若松「監督に文句があるからテレビプロのスタッフルームみたいなところに呼び出して、どうのこうの言った後で収まらないから、テレビプロの前のピンク電話から井上さんに電話して「話聞いてよ。結城凱もここで和気藹々とやってくれよって言われたんだけど」って」

井上「当時の監督は自分の回のホンしか読まないんだよ。他の回を読まない」

若松「文句を言っても、最後は仲良くやってましたよ」

井上「まあでも1年間のチームだからな。仲良くならざるを得ない」

若松「『ジェットマン』で酒がうまかったというのはずっと記憶に残ってる。(撮影現場の酒も)本物ですから」

井上「よく二日酔いだった」

若松「週4日は飲んでた」

井上「家も近かったからな。お前は荻窪で。真夜中に電話かかって来て「井上さん、ラーメン食いに行こうよ」って飲みたいだけ(笑)。よくうちにも来たもんな。あのころは幸せだったな(一同笑)。

 結城凱はいちばんおいしい役だったよな。酒は飲むわタバコは吸うわ」

若松「女の子はナンパするわ」

井上「お前のほうがおいしい役でレッドの田中弘太郎はやきもち焼いてたもんな」

 終盤で結城凱は香(岸田里佳)とうまくいかなくなり、香は竜(田中弘太郎)と結ばれる。

 

井上「若松が香のことを厭になったんだな(一同笑)」

若松「結城凱がね」

海津「若松が厭になったって(笑)」

井上「よく見てると香はちょっとうざいんだね。そういうふうにしてある。後半は結城凱が厭な顔してるんだよ。

 キスシーンで、香はバスの中でゆで卵食ってたんだっけ?」

若松「奴はその日に限って遅れて来て、2種類ある弁当の唐揚げのほうが先になくなって、ゆで卵のほうが残ってて、彼女は遅れて来たからゆで卵。朝一でキスシーンなのに、おれの目の前で食べ始めて、そういうの考えないんだな。おれは台本を見ながらちらちら。キスは硫黄の味(笑)」(つづく