足立「(25歳で)当時から老けた青年だった(笑)。政治をやめて映画に来たのにまた政治に巻き込みやがってという、ロマンチックな虚無主義者みたいな風情だったよな」
荒井「うーん。(『濡れた賽の目』〈1974〉では)大人の話をやろうとしてたんじゃないかな。若者はバカだと思ってたんじゃないのかね」
井上「厭な奴ですね(一同笑)」
荒井「決めたから行くんだっていうやり方はもうダメだって」
足立「若さの普遍的な強さは出てると思うね」
荒井「そういうやり方が若さだとしたら、ダメだと」
白石「それに感動した人がいるのに(一同笑)」
森「結局、年上のふたりも「おれたちもシベリア行こう」って言い出してましたよ(一同笑)」
足立「みんなバカだってことなのか(一同笑)」
荒井「日本海の向こうっていう、シベリアって言ってるけど頭の中にあったのは北朝鮮だよ」
井上「よど号とかを考えてたと」
足立「バカにしてるだろうなと思うけど、根津(根津甚八)の「決めたから行くんだ」っていうひとことが乗り越えてる」
白石「たとえバカにして書いた台詞でも、役者が受け取って熱量を持って演じてくれたということですね」
荒井「純粋であることは正しくないんじゃないかと思ってた」
つづいて映画『止められるか、俺たちを』(2018)で若松孝二役だった井浦新氏も発言。
井浦「お邪魔します。荒井さんのホンはいまも昔も変わらないって感じたり。季節(藤原季節)が言うほどは、物語は響かなかったんですけど。むちゃくちゃな物語を映画にする若松監督の映画づくりの力というか(一同笑)。思ったより華奢な若松監督が画面に出て来たり。このホンを監督力で、旅しながら毎晩酒飲んで愉しく撮ったんだろうなと目に浮かんできました」
井上「若松さんは本名で出演してますね。伊藤孝なんですが伊東孝になってます」
音楽は近田春夫・ハルヲフォン。主題歌は荒井氏作詞・近田作曲で、劇中歌も近田が担当している。
白石「歌詞はどの段階で書いたんですか?」
森「テーマソングだけでなくて、根津さんが出たときも音程の外れた音楽がかかってる」
荒井「あれは近田じゃないかな。若松さんに八代亜紀みたいなのつくれって言われて、近田と困っちゃって。後年に内田裕也に「お前、近田に演歌書かせたな」って。学生のときの友だちの妹が近田と結婚してたんで、その伝手で頼んだっていう。
(歌詞は)撮影が終わってから書いたのかな。どうなんだろう…」
白石「これは荒井さん唯一の作詞ですね」
井上「脚本は出口出名義で作詞は本名。作詞のクレジットがでっかく出て、ぼくはもっと受けるかと思ったんですが(笑)。日活でやるからクレジットをふやさなきゃいけなかったかな。
1974年公開だから(冒頭では)羽田闘争から「あれから7年」になってます。アフレコもやり直してるのかな」
荒井「何で7年なのか、自分でも不思議だった」
井上「若松プロがあんなゴシック体の字幕…」
白石「タイトルもつくり直したかもしれないですね」
森「こんなしおしおの荒井さんは初めて見て、それだけで胸がすく思いです(一同笑)」
足立氏は森氏主演で新作映画を準備していたが、現在ストップ中だという。白石氏の新作は『仮面ライダーBLACK SUN』。
白石「12月から仮面ライダーです。荒井さんが「見学に行っていい?」と」
荒井「そう、孫がね(一同笑)。白石の批判は控えて見学させてもらいたいと。孫の母親は「子役で役はないの?」と言ってたけど」
白石「ありますよ」
荒井「あ、よろしくお願いします(一同笑)。娘も生活が大変なんだよ」
白石「ギャラを取る気ですか」
荒井「ほどほどで。かわいいよ(一同笑)」
井上「荒井さん、来年は2本撮るんですよね」
荒井「こないだ澤井(澤井信一郎)さんが亡くなった日に酒飲み過ぎて、転んで顔打って。脚も悪くて現場やれるかな。車いすだったら、お前押して(笑)」
森「若松さんが亡くなる数年前に気に入られてしまって、声かけられて飲みに行ったり、上映のトークしたり。しばらく濃密な時期があったんですけど、ぼくは若松プロとの関わりはないです。
荒井さんや井上さんたちと縁ができて、来年撮って再来年公開の劇映画につながっています。この場に来てこのメンバーで話ができるのはすごく幸せなことで、若松さんがもたらしてくれたものだと思っています」