【ドンブラザーズについて (2)】
海津「荻窪だかのカフェバーだよね。こないだサシ飲みしたんだけど、1軒目は西荻の焼き鳥屋さんで飲んで、2軒目に行こうって言われて行ったのが看板もなくて普通なら入れないような店」
井上「会員制じゃないんだけど、マスターが鋭い感性の持ち主でドアを開けた雰囲気でどんな客か判ると。開け方次第で「きょうはいっぱいです」とか言って誰もいなくても断る」
海津「店に入ってもボトルが1本もなくて、テーブルがあって向こうにマスターが」
井上「美意識が高いんだね。おれと白倉(白倉伸一郎)の打ち合わせはずっとそこでやったから、マスターは『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022)の次の話も知ってファンになったの。あいつグッズも集めてるよ」
海津「もうひとりいたよね」
井上「最初はおれと白倉で、ちょいちょいテレ朝の井上(井上千尋)さんっていうプロデューサーが来た。紳士でいい人。『ドンブラ』は変な話も多くてテレ朝としては許し難いところもあるんだけど、上司から文句言われたときのために “ドンブラとは何か” という論文まで書いて、白倉に提出してた。40歳ちょっとぐらいかな。
『ドンブラ』は完璧だよ(笑)。たまに見ると元気になる。すげえな、この脚本家(一同笑)。
俳優連中もよかったね。演技が成長していった。最初からよかったのははるか(志田こはく)だけ。あの子は天才だね。
白倉は1年分の構成とか求めない。好きにやってくれと。おれがやりすぎると「誰も理解できないからやめよう」と(笑)。おれの中には(構成が)なんとなくある。
追加戦士はスポンサーによる義務だからね。今回は出すタイミングが早かった。(ジロウとドンムラサメとふたりいて)もう少し離してほしかったんだけどな。白倉も、つづくからムラサメは人間体を出さなくていいと。ムラサメには若干愛がなかったかな(笑)。
オーディションには入れてもらえなかった。『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)のときには行ったけどな。
おれの中で理想のイメージをつくって書いてるから(俳優が)そのイメージに合ってるかどうかは(完成作品を)見てみないと判らない」
海津「おれもやった『渡る世間は鬼ばかり』(1990)の橋田壽賀子さんなんか、一字一句でも変えると文句を言われるんだけど」
井上「おれはそんなことはない。現場でのひらめきもあるだろ。小説じゃないからね。監督がどう演出してもらってもかまわないけど、ただあんまり変えるのは問題だよ。台詞に自信があるからね(笑)。
経験上、大体いじっても面白くならない。アニメは(変えられて)ひどいんだよ。だからアニメはシナリオ書いても、オンエアは見ないね。頭にくるから」
海津「『ドンブラ』が終わってホッとしてる感じですか」
井上「ちょっと淋しい。1年やっててロス感はあるね。『仮面ライダーアギト』(2001)のときもそうだった。淋しいね。ロスがある、物書きはね。ロスは次の仕事で埋めなきゃいけない。いまちょっとさぼってて、きのうも飲みすぎで二日酔い(笑)」
海津「きょう、来たときは髪もぼさぼさで、栄養ドリンクみたいなの飲みながらだったね。こんなの飲むのと」
井上「目覚まし用。カフェインがいっぱい入ってるやつな」
井上「(『ドンブラ』のファイナルライブツアー)おれ、まだ見てないんだよ。俳優連中が稽古の時間がないって言ってて、結構難しいだろ。稽古日じゃない日も集まってたらしい。おれ、大阪の最終回には行くんだよ。
いまは飲み会もない。コロナのせいかと思ったけど、東映も景気悪いかららしい。昔はしょっちゅう飲み会もあったけど。
リモート会議って意味なくて、おれは大嫌いだね。会わなきゃ判らない、人の心はさ。全部聞こえちゃうから悪口も言えないね(笑)」
海津「「縁ができたな」はどういう感じでできた台詞なの?」
井上「白倉のオーダーはひとつだけあって、レッドを立たせてくれと。レッドがすごく強いってのが戦隊の基本だから。でもおれさまキャラは戦隊でもライダーでももうやってる。考えてまず浮かんだのは宅配の配達員。いろんな人と知り合えて事件に入り込みやすいし、偉そうな職業じゃないじゃん。配達員と決めたときに台詞も浮かんで、いちいち「縁ができたな」と言って面倒見てあげるわけよ。嘘をつくと死ぬというのもすげえアイディアじゃないか(一同笑)。でもみんな反応しないのよ。後で「面白かった」と言ってたけどね。本読みは誉めたり貶したりする場じゃないからさ、意外と反応がわかんない。みんな地味に黙ってる。
最近は試写室ではめったに見ないね。いまは完パケをLINEで送ってくる。面白いとありがたいね。監督や俳優を尊敬しちゃう。いい回は何度も見るね。自分を鼓舞するために。
タロウは好きだし、あとは犬塚翼(柊太朗)。あいつ芝居上手くなっただろう? 最初に見たときは自信なさげで、ほんとは若松みたいに殺気のあるブラックのつもりだったんだけど、あいつの芝居を見てこりゃもっとかわいくしたほうがいいなと思って変えた。最後は自信持ってやってたね。
みほ(新田桃子)も最後は上手くなったかな。最初は下手だなと思ったけどね。(当初は)あんなに重要な役じゃなかったんだよ。普通の奥さんで、外見だけで白倉が選んだんだけど。(つづく)