【『それでも、生きてゆく』(2)】
坂元「被害者と加害者は、ぼく是枝さんの作品から学んだなと。『誰も知らない』(2004)のYOUさん、あれでいろんなことに気がついて。
ご存じと思いますけど、本来なら悪く描かれる役をYOUさんが明るくフラットに演じていらして。あの描き方を何度も反芻しながらやっています。加害者を加害者として、被害者を被害者として描かないというのをいつも意識しています。加害者を悪い奴に書くと気持ちが入ってこない」
是枝「嫌がらせをしている大竹(大竹しのぶ)さんの描き方がこのドラマを締めてるなと思いましたね」
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【『Woman』】
『Woman』(2013)での満島ひかり、田中裕子、小林薫のシーン。満島は『それでも、生きてゆく』(2011)、田中は『Mother』(2010)につづく坂元作品出演となる。
是枝「『Woman』は田中裕子さんを書きたくて書いたのかなと」
坂元「田中裕子さんがすべてではないけど、また出てくださるので、どう書けばいいかなって。考えると怖い。俳優さんはみんな怖いですね。怖くない人をキャスティングしてほしいです」
是枝「田中裕子さんと小林薫さんというのは、久世(久世光彦)さんが向田邦子さんをもとに撮られたシリーズ(向田邦子新春シリーズ)をごらんになっていたんですか」
坂元「昔はテレビっ子じゃなくて見てなかったんですけど、この仕事始めてから見るようになって。向田さんは好きな脚本家で、ぼくの目指してるところにいらっしゃると思っていて。田中裕子さんと小林薫さんには身が引き締まります」
是枝「小林さんはへらへらしたダメ男を演じるとうまいですね」
坂元「薫さんはご自分でも判っていて“田中裕子と満島ひかりの前でへらへらできるのはおれだけだ”って。
すごくテレビドラマっぽいシーンではずかしい。人が人を説得するシーンははずかしくて。小林さんはさらっとやってくれて」
是枝「そうめん食べて、おいなりさんも出して。母と娘が軸で、それがどう変化していくか判るようにつくっていて。いろんなドラマがあっても、軸はぶれていないです」
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『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016)での主役の男女(有村架純、高良健吾)がライブハウスの音漏れを聴きながら語らうシーン。有村が「いつか…」と言う。この台詞は台本にはなく、是枝氏は気になっていたそうで。
是枝「 “いつか”って音ちゃん(有村)が言うのは…」
坂元「このとき“いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう”と思ったんですね。この回が、このふたりのいちばん幸せなときだろうと構成上判って。
ふたりで愉しむシーンで、月9だから(本来は)花火上げたりスキー行ったりするんですが。最初、東京湾に船で出て、ボート浮かべるシーンを書いて、でも違うなって考えて。それでライブハウスの音漏れを聴くことになって、これが最も幸福な時間だろうと。5話で有村さんが八千草(八千草薫)さんに“いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう”って言うんですが、いつかはどこだと思って、あれだと。“いつか”を3話に入れてくださいって、差し替え原稿を出しました。泣いてしまうのはあそこしかないなと」
是枝「脚本にないので、どのタイミングだろう、誰の判断だろうと。
オンエアを見ていて、このふたりのこと邪魔しないでと、いい視聴者でした(一同笑)。変なハッピーエンドに、けっと思うタイプなのに」
坂元「プロデューサーとディレクターには何回も、バッドエンドにしないでって言われました。強いものがあって。別れる終わり方にしようって言ったんですが、弱々しく(笑)。素直にハッピーエンドにしました」
是枝「ありがとうございます(一同笑)。
7話でおじいちゃん(田中泯)が亡くなった後、残ってるレシートを読む。あのブラック企業で何を買ったか読むだけで、感情がかき立てられる。資料から感情を読み解くのは『それでも、生きてゆく』の遺体安置所や、『問題のあるレストラン』(2015)のレシピ読んでるだけで涙出てくるってのを坂元さんに経験させられて」
坂元「テレビは説得スピーチが基本で、先生が非行に走った生徒を説得するとか、刑事物で事件をときあかすとか。定番として言葉でスピーチして誰かの心が変わるのが基本で、ぼくもいっぱい書いてきて。でも言葉で何を言われても、人の心は変わらない気がしてきて。いろんな手を使って、本来説得にならないものを使って説得するというのを最近やっているんですね」
是枝「時間軸が重なってくる。レシートのシーンで、種を買うとか亡くなったおじいちゃんの未来が重なってくる。いろんな時間軸が重層的になる。室内で人の動きは少ないけど、感情が揺さぶられるっていつも感じて」
坂元「レシートを思いついたときは、嬉しかったですね。おじいちゃんが遺したもので、練くん(高良健吾)を改心させる。手紙や書き置きも考えたんですが、それじゃ面白くない。京都にレシートのミニコミを出している方がいらっしゃって、レシートを貼って何を買ったか判る。その方からもらって、レシートで人が考えてることが伝わらないかと考えていて、ここに至ったと」
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【『カルテット』(1)】
そして記憶に新しい『カルテット』(2017)は、謎めいたストーリーと濃厚な会話に惹きつけられるとびきりの異色作。
是枝「『カルテット』はチャレンジングなドラマですね。犯人さがしでもないし、謎が解かれて終わるわけでもなく、いろんなことが宙づりで。巻真紀さん(松たか子)をめぐって、最後まですっきりしない。でもすっきりしないのが厭ではない。何でこういう企画が通ったんですか」(つづく)
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