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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

向田邦子新春シリーズ(演出:久世光彦)全作品レビュー(2)

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【『女の人差し指』~『男どき女どき』】

 『女の人差し指』にて、田中裕子が初参戦。以後全作品の主演を務めた。小林薫も加わり、ナレーションも含めれば皆勤の加藤治子と合わせて、田中 × 加藤 × 小林の黄金トリオが誕生する(『麗子の足』には、小林は不参加)。

 脚本は、NHK朝の連続テレビ小説『はね駒』(1986)などを手がけた故・寺内小春が登板。道ならぬ恋を描く寺内脚本は充実し、『女の人差し指』に始まる3本は、長いシリーズの中でも最高傑作と言うべき出来映えである。

 父親が戦死や病死によって不在の、女だけの家族に巻き起こる波乱を描くという基本線が、この時期に固まった。

 『麗子の足』を除いて、時代も1940年代序盤にほぼ固定される。小林竜雄『久世光彦vs.向田邦子』(朝日新書)では、この時代設定は久世光彦のこだわりであると指摘されている。

 

4.女の人差し指』(1986)脚本:寺内小春

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 婚約者(小林薫)が満州に駐在している主人公(田中裕子)は、紀元二千六百年記念行事の夜に暴漢に襲われ、左翼運動に携わる男(四谷シモン)に助けられる。主人公はその男に惹かれて彼のアパートに出向くが、ある日警察に踏み込まれる。

 メインの相手役は小林薫ではなく四谷シモンで、四谷はこの後シリーズに常連として登場する。恋する女性の不安定なさまを田中裕子が好演し、以後本シリーズのみならず久世作品に多数出演することになった。

 雪降る夜に燃える恋情。踏み込んだ恋愛の描き方はこれまでの作品にないもので、寺内脚本の面目躍如である。

 娘の気持ちに気づいて揺れ動く母役の加藤治子もさすがに見事。妹役は、映画『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)に主演したばかりの洞口依子

 物を落っことしたり、控えめにだが喜劇的なアクションが入るところが久世作品らしい。冒頭の桜の人工美も印象的。

 

5.麗子の足』(1987)脚本:寺内小春

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 女学校の教師である主人公(田中裕子)と軍医の従兄(永島敏行)は、微妙な関係だった。母(加藤治子)は病気の父(佐藤慶)を甲斐甲斐しく看病しているが、主人公は母にある疑いを抱く。二月の夜、陸軍の青年将校が決起した…。

 血縁と二・二六事件に引き裂かれる愛を描いた傑作。脚本の寺内小春は、本作により第5向田邦子賞を受賞した。

 血のつながった男女の愛というテーマは、次作にも引き継がれる寺内脚本の持ち味である。一方、二・二六事件がテーマに導入されたのは、エッセイや小説などでもこの叛乱に言及している久世の意向であろう(ステンドグラスから光の差し込む暗い部屋で、将校たちが密談するシーンの妖しさ!)。終盤の展開は、ロマンティックに描きたい寺内と救いを用意しない久世とに、意見の相違があったようである(『久世光彦vs.向田邦子』)。

 ロケ地はいつもの池上本門寺だが、劇中では阿佐ヶ谷に住んでいるとされた。自宅は、前4作とは趣向を変えて、和洋折衷の邸宅になっている。

 

6.男どき女どき』(1988)脚本:寺内小春

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 スパイの諜報戦がサスペンスタッチで描かれる、異色の力作。しかも主人公(田中裕子)は兄(小林薫)と相思相愛の近親相姦的な関係であり、冒頭の料亭?の場面、幼い頃の回想シーン、妊娠が判明する場面など危険な香りが濃厚に流れて、少々驚いてしまう。突き放したようなラストも印象深い。

 兄妹の愛は、前作からつづく寺内脚本の個性であろう。一方、主人公の夫(三浦賢二)と兄とが敵対する諜報員同士なのは、これも前作と通底する久世の色である。

 久世は、この1980年代後半はテレビに飽きていていい仕事ができなかったと回想しているが(『久世光彦の世界 昭和の幻景』〈径書房〉)、さすがプロと言うべきか、そんな倦怠は作品から感じられない。あるいはマンネリだからこそやる気を奮い立たせるべく、自身が好きな要素を思い切り入れたつくりにしたのかもしれない。

 寺内小春は、残念ながらこの作品をもってシリーズ離脱。

 今回から主人公の住まいも池上本門寺に設定され、自宅のセットも和室になった。

 

【『わが母の教えたまいし』~『女正月 (1)

 脚本は、『危険なふたり』(19841986)や『明日はアタシの風が吹く』(1989)など多数の作品で久世と組んだ金子成人に交代。7本連続でシナリオを担当し、後述の通り恋愛色が少々薄まり、ストーリーは淡々としたものになっていった。

 5年、6年とつづけた甲斐あって、シリーズの知名度と評価は高まり、『女正月』の演出により久世は芸術選奨文部大臣賞受賞。安定感が増す一方で、この時期の出来映えは下降気味であった気もする。

 

7.わが母の教えたまいし』(1989)脚本:金子成人

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 婚約者(小林薫)との結婚に踏み切れない主人公(田中裕子)、複数の男性と交際する次女(南果歩)、父の知人(田村高廣)との秘められた関係を匂わせる母(加藤治子)など、家族の葛藤が描かれる。

 金子脚本になって、主人公の恋愛よりも家族の動静に重点が移った。筋立てもドラマティックに盛り上げるような部分が少なくなり、起伏がなくなっている。そのような変容が別に悪いわけではないが、この『わが母の教えたまいし』に関しては、序盤に投げかけられた謎がさほど深まることもなく平坦なストーリーがつづくので、見ていてつらい。

 家庭が中心になっていったゆえか、本作あたりから母親役の加藤治子の無気味な存在感が際立っていった気もする。末の妹役は本作から『女正月』まで、曽根由加が務めた。

 既成の曲や詩がモチーフになってタイトルにも引用されるというパターンは、この後向田邦子終戦ドラマなどでも繰りかえされることになる。(つづく)

 

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