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坂元裕二 × 是枝裕和 トークショー レポート・『それでも、生きてゆく』(1)

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 テレビ『それでも、生きてゆく』(2011)や『最高の離婚』(2013)、『カルテット』(2017)などの秀作をコンスタントに発表している脚本家・坂元裕二。映画『歩いても、歩いても』(2008)や『海街diary』(2016)などのほかに論客としても知られる是枝裕和監督。

 6月、坂元・是枝両氏のトークショー早稲田大学演劇博物館にて行われた。場内は満員(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

坂元「この1か月くらい、きょうのために是枝さんの作品をずっと見てきて、頭の中が是枝さんのことでいっぱい。是枝さんのことしか考えられなくなって、あかんなと『ファインディング・ドリー』(2016)とかも見て。『ドリー』の中にも是枝さん的な部分を見つけてしまって(一同笑)。ちょっとずらさなあかんと思って『テレクラキャノンボール』(1997)も見てみたんですけど」

是枝「ほんとは200人くらいのせまいところでまったり話すって企画で。これだけの会場ですが、やることは変わりません」

坂元「隣の小講堂で中継されてるようで、まさか自分がライブビューイングされるとは…」

 

 坂元氏は東京芸術大学大学院、是枝氏は早稲田大学理工学術院にてそれぞれ教授を務める。

 

坂元「人前に出るのはほぼ初めてですね。大学では10人くらい、脚本を学んでいる人の前で話して」

是枝理工学部に毎週来て、他学部の人も聴けるんですが。理系の人に映画やテレビの話をするのはぼくらにもいい訓練になる。理工学部っぽいコンクリート打ちっ放しの建物に、ぼくの研究室があります。国に文系を細くして理系を大きくするという方針があって、この大学はそれに従ってる。うーん(笑)」

 

 両氏の作品のシーンを上映しながら細部を語り合うという形式をとる。

 

坂元「放送で見ますが、終わったら全く見ない。かっこよく言うと振り返りたくない」

是枝「かっこいいですね(笑)。(公開後に)上映に立ち会う機会はあっても、DVDでは見返さないですね。はずかしい」

 

 両氏は2年前にも対談されている(『世界と今を考える 1』〈PHP文庫〉)。

 

坂元「前回はこんなに是枝さんがテレビを見られていると思ってなくて、テレビ屋を呼びつけて説教するのかなって(一同笑)。そのときは緊張していて。落ち込んでた時期で『問題の多いレストラン』(2015)が終わって何書こうかなと悩んでた。きょうは緊張していません」 

【『それでも、生きてゆく』(1)】

 まずは坂元脚本『それでも、生きてゆく』での主役ふたり(瑛太満島ひかり)が祭りの夜に歩いているシーン。ふたりは加害者家族と被害者家族。

 

坂元瑛太くんはひじによく手を当ててる。ああやってる、なつかしいなって。このふたりは大好きですね。長くいっしょにいるのでどこがいいのか説明しづらいですけど、家族のように思っています。

 俳優さんの声を想定して、思い浮かべて。気持ち悪いですけど喋りながら書いているんですけど。

 3話を書いているときに震災で、打ち合わせ中でしたね。プロデューサーと逃げ出したのを覚えてます。震災で書くのを1か月ストップしました。

 震災を(作中に)入れたらあかん。その前から書いているから、書いた後は関係ないと思ったんですね。ちょっと軽く台詞に入れたけど、何年か経って、この作品の緊張感は震災があったからかなと。逃げてないと自分では思ってるんで」

是枝「脚本家も、プロデューサーもディレクターもチャレンジングでしたよね」

坂元「1話で被害者が6歳の娘だと。そういうテーマを扱う以上…。書いてから気づいたんですけど、重さを実感して。プロデューサーもディレクターも、変なことはできないという決意を持って。テレビで子どもが被害に遭うっていうのは、重いことです。3話の、子どもに短いスカートをはかせたことを母親(大竹しのぶ)が後悔している話を書いたのは震災後。書けなくて、すごいことが当時起きてて。スカートの台詞を書いて、それで一遍に書けたのを覚えています。その前から考えていたかもしれないけど、強く書いたのは震災後だと。

 キャラクターを考えて始めて、台詞を考えてから(設定を)考えることが多いですね。1話を書き始めて、なぜ彼がとか家族がどうだったのかは書きながら考えていって、最後どう落とすかは自分でも判らなかったです」

是枝「見てても、書き手がさぐってる感じがする。書いてる人が必死にさがしてるのが伝わってくる。キャラクターの履歴書を全部書かれる脚本家もいらっしゃいますね」

坂元「履歴書は書くけど、序盤で使い果たして、さぐりながら。文哉(風間俊介)は改心すると思って書いていて、彼が泣いて謝るのも書いたんですが、やっぱり違うなと。結果、違う方向で書き直しました。初稿では悔い改めて、みんなそれを受け入れてました。でも違う。ぼく、初稿は練習で書くんで。何回も書き直して、直していった結果です」

 

 同作のふたりがラーメンを食べながら夢を語らうシーン。満島ひかり演じるキャラはスプーンを曲げたいという。

 

是枝「ここは長くなるぞってことはあるんですか」

坂元「これね、多分書きたい台詞や仕草があったんですね。そこにどれだけハードルを越えたらたどり着けるか。自分の中にクリアすることがあって、その分長くなっていくんですね」

是枝「 “さっきのもう一度言ってもらって良いですか。ラーメン食べながらでいいんで”って、すごくいい台詞だなと」

坂元「ありがとうございます。恐縮っす(一同笑)。食べながら喋るのが好きなので。

 今回、是枝さんの作品をずっと見てて、食べる前に喋りますよね。ごはんができたら、食べない」

是枝「準備や片づけで話させてます」

坂元「ぼくは食べながら。田中裕子さんは久世光彦さんとやられてて、いっぱい食べてても食べながら台詞を言える。それを芦田愛菜ちゃんに教えてました(一同笑)。(口に)こう入れたら喋れるよって」

是枝「希林(樹木希林)さんもそういう技術がある。自分の台詞の前に飲み込む人とか、いかんですね」(つづく 

 

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