【『カルテット』(2)】
坂元「(企画が)通ったのは、プロデューサーとディレクターががんばってくださって。ぼくは、こうしないと書けないと、ときに不機嫌になって。レアなケースですね。
キャスティングも松(松たか子)さん、満島(満島ひかり)さんがいいと。『Woman』(2013)のころに次は松さんと思って。土井(土井裕泰)さんがどう?って言ってくださって、じゃ松さんと満島さんでって。でも出ていただくの大変で、4年かかりました。
何やろうかってことで、TBSさんは2組の夫婦はって言ってくださったんですけど、でもぼくは(夫婦は)『最高の離婚』(2013)で1回やったし、同じこと書いてしまう。記憶が最近おぼろげで(一同笑)。試行錯誤して、何も決まらないまま書き始めて。最初は唐揚げのシーンで、先のことは考えずに。決めたのは毎回違うジャンル。違うテイストにしようと決めていました」
松たか子と満島ひかりが蕎麦屋で対峙するシーンが上映された。そこに稲川淳二の怖い話が流れてくる。
坂元「松さんが壁の色と服の色が重なってるのを心配されてました。稲川淳二の声は、軽くしなきゃいけないときにいつもやるけど、入れていく。稲川さんはこのドラマのために録ってくださったんですよ」
是枝「向き合って何か喋るのを避けて、満島さんが淳二さんを止めたり、ポスターの前に行ったり」
坂元「あれは現場ですね。満島さんのアイディアで、ポスターの前で喋ると」
是枝「山田太一さんの脚本で(演出の)鴨下信一さんは(台詞の途中で)アクション入れて、向き合わないようにしてますけど」
坂元「このときは、これもありと。向き合って話せないという台詞だったと思うんで。何かしながら大事なことを相手を見ないで喋るというやってて。
満島さんは、ぼくが書かなくてもぼくが書くようなことをやってくれるときがあって。相手の胸を叩きながら話すシーンを『それでも、生きてゆく』と『Woman』で2回書いて、『おやじの背中』(2014)では書いてないのに役所広司さんの胸を叩いて。ぼくは書いたもんだと思ってます(笑)。
変えられることは意外となくて。変えられるなら変えてみたら、と」
是枝「そう言われると…(一同笑)」
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【『歩いても、歩いても』】
ここから是枝監督の『歩いても、歩いても』(2008)について坂元氏が質問する。
かつて息子を失った一家(阿部寛、夏川結衣、樹木希林、原田芳雄)のもとを、その原因となった青年が訪ねるシーン。彼は丸々と太っている。
坂元「この1か月、ノイローゼになるくらい見て」
是枝「原田さんが“あんなに図体ばっかりでかくなりやがって”って言うんですが、阿部さんも大きくて、無駄に大きいってのが主人公は自分が言われてる気がすると」
坂元「あの太った彼を見てると何とも言えない。長男を失った原因の人が普通は悪人かいい人になっててもやもやするけど、これはよりもやもや。太ってて、何こいつって見てるほうも何とも言えない。もやもやする」
是枝「意地悪ですね。彼の上着は友だちのを借りたので小さい。玄関で阿部さんが彼の背中叩くと、汗でぐちゃっと。現場で霧吹きつけました。
あと、いなくなってから悪口言うってのも残酷で」
坂元「阿部さんも原田さんも後で言って、聴いたYOUさんもその場では言わずに…」
是枝「ぼくの母がそういう、相手が帰った後で言う。息子としては厭ですけど。母が亡くなった後で書いてて。ぼくにも意地悪なところがあって。息子を失ってるけど、助かった男の子を呼びつけて、居心地の悪い思いをさせる。主人公への“何も人のお古を”って言い方、それはぼくの母が言ってて、それをメモして使ってます(笑)」
坂元「『海よりもまだ深く』(2016)の希林さんは優しいですね。優しくなったのは、何かあるんですか?」
是枝「旦那がいるかいないかが大きいかな。『海よりも』ではもう旦那が亡くなってて。『歩いても』では目の前に原田さんがいますから」
坂元「『ゴーイング マイ ホーム』(2012)では父親が亡くなって、『海よりも』ではもう既にいない。
お姉さんは同じような人でYOUさん、『海よりも』は小林聡美さん。お姉さんは一貫して同じような」
是枝「あんなにきつくないですが、姉がいるもので。フィクションであって、これ言わないといけないんですが(一同笑)。姉のキャラからもらってる。ぼくは、姉ふたりで末っ子長男という最悪な…(笑)」
坂元「ぼくは長男で弟と妹が。弟は書きやすいかも」
是枝「ぼくは妹が書けなくて。ほっとくと家族構成が、自分の経験してるのがベースという…。いかんいかん」
坂元「奥さん役は夏川さんも樹木さんも怖くて、(『ゴーイング マイ ホーム』の)山口智子さんは優しい。あれは山口さんのパーソナリティによるものですか」
是枝「本人のキャラクターに寄る、と言うと夏川さんきついみたいですけど(笑)。意外に寄っていきますね。色合いが変わってくる」
坂元「『ゴーイング』の妻は異色に感じました。みんながローテーブルで食べるのはどうしてですか。ダイニングがあるのにローテーブルで食べる」
是枝「ダイニングは奥さんの仕事場なんですね」
坂元「うちではどこで食べますか」
是枝「ほとんどうちでは食べないけど、食べるときは普通にテーブルで」
坂元「満足です(一同笑)」
是枝「ほんとはふたりでこっそり見て、みぞみぞしたかったんですが(一同笑)」
最後に岡室美奈子・早稲田大学演劇博物館館長が、『それでも、生きてゆく』の満島ひかりのスプーンを曲げたいという夢が『カルテット』の満島の元超能力少女につながったのだと指摘され、目から鱗だった。
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