私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

土井裕泰 トークショー レポート・『花束みたいな恋をした』(3)

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【マンションの部屋 (2)】

  (『花束みたいな恋をした』〈2021〉の)台本上で小説家さんの固有名詞はいくつか出てきますので、その後でぼくたちスタッフの間で(本棚には)こういう本も置こうと。2015年くらいからメインカルチャーサブカルチャーでどういうムーブメントがあったか、年表をつくってもらって、こういう作家がいたとかリストアップして、坂元(坂元裕二)さんとフィードバックしながら決めていきました。

 多摩川が見えるマンションはいちばん最初にさがし始めました。屋上をベランダふうにするために、セットの一部を建て込ませてもらってるんですね。ベランダで多摩川を見ているのはロケで室内はセットで撮ってる。手間のかかってるシーンです。

 

【主演のふたり(菅田将暉有村架純)について】

 (居酒屋のシーンで絹〈有村〉の袖に枝豆がくっついていたことについて)きょう聞くまで気がついていなかったんですね。何十回も見ていても気がつかないことがある。深夜の居酒屋で袖に枝豆ついてんじゃないかっていうのもあって(笑)。初めて会った男も言えないんじゃないかな。そういうリアリティだと思っていただければ。ぼくが演出でつけたわけではないです。有村さんとかはもし気づいていても「こういうのありですよね」って言っちゃう感じですね(笑)。

 この映画は順番に撮らせてもらってたんですね。ふたりが出会う前、出会ってから、つき合う、同棲、就職といくつかのブロックに分かれるんですがブロックごとに撮っていった。撮影自体は40日程度で、ファミレスは終盤の撮影でした。スタッフも見ててしんどい。よく知ってる子たちの別れを見ているような気分でした。台本上で麦(菅田)が涙をこぼすというのはない。若いふたりを見て絹が涙して外へ出ていくんですが、通して芝居をやってると「結婚しよう」って言うところから麦も涙がぽろぽろと。1回話すと(このシーンの前に)最悪なプロポーズがあったのでまた「結婚しよう」と言うことはつらいと菅田くんが言っていて、麦くんの中で自然なら止めないでおこうという判断を現場でしました。それを見た絹も早い段階で涙をこぼしてしまうんですが、絹はこらえましょうと。感情的に見え過ぎてはいけないので、麦が感情的な分は絹が冷静になるというか、同調しないようにしましょうと。ぎりぎりでこらえていることにしました。つき合ってて相手が別れ際に泣き始めると自分は冷静になってしまうということはありますよね(笑)。難しいシーンではありました。

 ふたりは20代のトップの俳優さんでスターなんでしょうが、ふたりのいいところは生活してる人たちだという気がしていて。電車に乗ってそうな。菅田くんのラジオとか聴いてても、そこらにいるんじゃない?という感じがする。いまの人の気分を体現できる俳優だなと思いました。もっとこういうふうにしてって言うよりは、彼らを活かして自由でいられるようにするのが大事かなと。ぼくは50代後半に入りましたが、ぼくのノスタルジーとか青春とかを反映させないように。撮影で自分の想い出が浮かぶことはありましたけど、ぼくは彼らを観察する立場でいようと心がけていましたね。調布の駅前とか渋谷とかで撮影したんですけど、カメラがあると「撮影してるの」って人が集まるけど、ダッフルコート着てるふたりの前を「誰が来てるの」って言いながら人が通り過ぎていくんですね(笑)。それぐらいふたりはそこらにいる感じになっていました。

【その他の発言】

 上野の東京国立博物館など名前の出てくる場所は嘘をつかない。待ち合わせをする調布駅は意外に大変で、2016年は工事の真っ最中でした。それの再現はできないので、範囲の限られた画で済ませたりしました。そのときしかないことはあって、麦くんが最初に出てくるときに交通量調査をしてるんですが、走ってる山手線は2015年にまだない型だったらしくて、全然気づかなくて。鉄道ファンの人が見ると明らからしくて、申しわけありませんと(笑)。

 年齢とともに自分は変わっていってるなと。若い俳優さんやスタッフと仕事をする機会が多いですけど、若いファッションや流行りものを自分に取り入れようというよりは、彼らと向き合える人でいたいなっていう。ちゃんとした大人にならなきゃいけないと思っています。若いときは政治のこととか関係ないと思ってたとこもあるけど、いまは判っていたい。ちゃんとそういうことを話せる人間でいたいと思ってます。

 ぼく自身は面白い人間でないと自分で思っていますけど、いろんなものをやっていて、この作品は日常の細部の中にドラマを見つけるという話ですけど、こないだまで関わってたのが『日本沈没』(2021)で(笑)。そのときそのときで自分をアジャストしていくというか、時代とともにアップデートしていくことが大事かなと。