『CURE』(1997)や『岸辺の旅』(2015)、『クリーピー』(2016)などの巨匠・黒沢清監督が全編フランス語で撮った最新作『ダゲレオタイプの女』(2016)。
世界最古の撮影法・ダゲレオタイプによる写真を撮るステファン(オリヴィエ・グルメ)は、自分の娘・マリー(コンスタンス・ルソー)を固定して撮影していた。屋敷には、亡くなった妻の亡霊がちらつく。助手のジャン(オリヴィエ・グルメ)は娘を屋敷から連れ出そうとする。
『ダゲレオタイプの女』の公開に向けて、10月に代官山にて黒沢清監督と写真家の新井卓氏のトークショーが行われた。
新井氏はダゲレオタイプのカメラマンとして知られ、写真集『MONUMENTS』(フォト・ギャラリー・インターナショナル)により第41回木村伊兵衛写真賞を受賞した(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
- 作者: 新井卓
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黒沢「こういう場所でトークをするのは初めてですので、どういうお客さんがいらっしゃってるのか存じてなくて。とんちんかんになってしまわないか。写真に関しては素人同然で。たまたま映画でダゲレオタイプを扱ってしまったものですから、新井さんとも知り合いになれて」
新井「映画が好きで、黒沢監督の映画もずっと見てまして。こちらもとんちんかんなことを言ってしまわないかなと…」
黒沢「ぼくの映画、見てたんですか(笑)」
【『ダゲレオタイプの女』について (1)】
『ダゲレオタイプの女』の構想は、かなり以前からあったという。
黒沢「古い写真に興味はありました。何だかみんな自然じゃない感じというか。明治時代の文豪とか、独特の写真に撮られるという。絵画のような独特な人物のありよう、どうやったらこんな感じにすることができるんだろうと。
ずいぶん前、20年近く前に恵比寿の写真美術館で、古い写真展をやっていたんですね。たまたま見に行ったときに、1枚の少女の写真があって、とても印象的で。苦痛なような、快楽を感じてるような、宙を見ている表情。説明があって、固定されてるからだと。一瞬でない、自然なスナップでは撮れない表情が撮れたと書いてあって。その固定した器具も展示されていて、おもしろいな、映画に使えそうだと。
15年以上前、イギリスでホラーを撮らないかって依頼があって。2000年ごろです。それでいいねた、ありますよって。イギリスを舞台につくった物語が、今回のベースになっています。そのイギリスの話がなくなって、忘れてたら、5年くらい前にフランス在住の日本人プロデューサーから、外国で撮っていいと思うようなアイディアはないかしら、と。それでこの話を見せたら(ダゲレオタイプの考案者の)ダゲールはフランスだよね。じゃあぴったりとつくったのが今回の作品です。真剣に考えたのはイギリスから依頼があってからで、日本だったらというのは考えてなかったですね。脚本にしたのも、フランスに決まってからです」
新井「フランスのタイトルは“銀板写真の女”と」
黒沢「日本語でも“銀板の女”。スケートリンクみたいですけど(一同笑)」
ダゲレオタイプのための拘束具が出てくるという。
黒沢「拘束具は結構大げさに。ぼくの要望で。ほんとにあんな大きさのものはないです」
新井「あ、ちょっとほしい(一同笑)」
黒沢「一種のホラー映画なんですね。ヨーロッパでホラーを撮るチャンスに恵まれたので、ゴシックホラーをやろうと。イギリス映画に多い。館の地下に拷問道具があって、美女が縛りつけられてる。それで、ああいう大げさなものに」
新井「ひと足先に拝見しまして、怖いなと思ったんです。マリーというヒロインの目が泳いでるところで何度もぞっとして、インパクトとして覚えています。役者さんはフランスの人で、ヨーロッパの映画を見るような心構えで見てるんですが、変な感じもして。体の動きや人物の動かし方が、いままでのヨーロッパ映画と全然違う。自分も魔法にかかって、時間の感覚が違っていくような…。
最初に連想したのは能の舞台。人と幽霊のあわいというか。生の人間でなく、後ろで糸で操ってる浄瑠璃の「女殺油地獄」とか想像しました」
黒沢「(能や浄瑠璃は)まったく意識しなかったですね(一同笑)。日本でも変わらない、いつもの撮り方をしました。ここに立って、ここからここに動いてくれとか。位置とかは厳密でそれさえ守ってくれたら、あとは何やってもいいと。日本の俳優は受け入れてくれるんですが、フランスの俳優は動きを制限するのに慣れてなくて、それを愉しんでる感じでした。あるタイミングで振り向くとか、演技と言うより動き。新鮮にやっていたので、それでほかのヨーロッパ映画に比べれば制御されているように見えたのかもしれないです」
黒沢作品には珍しい、130分という長さについて質問があった。
黒沢「痛いところ突きますね(一同笑)。最近何本もつくってて、どれも長い。みんな130分くらい。理由は原作があるから。小説を映画にすると、どうしても長くなる。でもこれ、原作ない(一同笑)」(つづく)
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