金持ちの家でつらい思いをしていたみなし子の少女は、あるとき優しいふたりの男性(榎木孝明、世良公則)に引き取られた。10年後、成長した彼女(斉藤由貴)は殺人事件に巻き込まれる。
相米慎二監督『雪の断章 情熱』(1985)は、青春ミステリードラマでありながら冒頭14分の空間さえねじ曲げた長回しやファンタジックな仕掛けなど不思議な趣向が凝らされた異色作。2019年3月に脚本の田中陽造、助監督だった榎戸耕史両氏のトークショーがあった。聞き手は脚本家の黒沢久子氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【『雪の断章』について (1)】
田中陽造氏と相米慎二監督は『雪の断章』以外にも『セーラー服と機関銃』(1981)、『魚影の群れ』(1983)、『光る女』(1987)などで組んでいる。
田中「『セーラー服と機関銃』の原作を相米が持ってきて「これやってくれませんか」って。NHKの西口玄関の向かいにぼろぼろのホテルがあって、脚本家を閉じ込めてホン書かせる。ぼくも泊まってて、インタビューかなんか受けてるときに、薄ぎたない奴が入ってきて、だんだん近づいてくる(一同笑)。「あの」って言われて、相米だった。そこから(の縁)ですね。
人にたかる相米が、何故かぼくには優しくて、河豚をくれたんですね。ぼくは魚嫌いだから食わない。でも河豚のいちばんおいしいところを、ぼくの皿に。それを妙に覚えてますね」
榎戸「それが出会いですか」
田中「河豚はだいぶ経ってからですね」
『セーラー服』の大ヒット、『魚影の群れ』の好評を経て『雪の断章』は完成した。
田中「試写で見たっきり(一同笑)。見て、どきどきしました。すっかり忘れてますから、面白かったですよ(笑)。最初の長回しのときに、相米またやったなと。1本につき1回暴走するんですね。『セーラー服と機関銃』のときも延々と撮ったり。『魚影の群れ』も、長回しが成功しましたね」
黒沢「今回の長回しは成功してるんでしょうか」
田中「うーん(一同笑)」
榎戸「映画を始めるときにホンの印象については何も言わない人だったですけど、スタッフルームで「おれ、こう考えてるんだけど」という切り出し方で「頭、ワンカットで行きたいんだよ」って言い出したんですね。台本では2行くらいの雪のシーンだったんでこれはワンカットだろうと思ったんですが、幼い年齢寄りのところは全部ワンカットって言い出して、見たら27ページで21シーン。それが準備稿だったので。北海道の部分だけじゃなくて、途中に東京の恋人と電話のやり取りをする件りもあってカットバックであるわけです。これどうするんだろうなと大騒ぎ」
黒沢「田中さんのところに相談はあったんですか」
田中「いやあ、相談は一度もないですね(一同笑)。
プロデューサーは伊地智啓という人で、ずっと相米のを手がけてた人だから、伊地智さんから話が来たときは当然相米が監督だろうと。書いて渡すんですが、相米のために書くとなんか長くなるんですね。だから直しというか縮める。だから相米と旅館で、ふたりで削る。削っても、あと100枚多いとか(笑)」
黒沢「『セーラー服と機関銃』が長かった話は有名なんですが『雪の断章』も長かったんですか」
榎戸「でも相米さんのときの田中さんのホンでは、これは短かったです。準備稿と決定稿でほとんど変わってない。セーターを買いに行くシーンがあるんですよ。那波家から彼女を連れ帰って帰りにセーターを買ってあげる洋品店のシーンがばっさりないですが、それくらいです」
田中「きのう数十年ぶりに読み返したんですね。男女3人だけでこれは持つかな、ぼろが出るんじゃないかなと思って読んでたんですが、出ないんですね。多分このころぼく、いちばん力があった(笑)。相米はこのホン、やりづらかったかな。これはメロドラマにしなきゃねって話は(事前に)あったとは思うけど。ただ自分で言うのもあれだけど、よく書けてる(一同笑)。3人しか出てこないけど」
黒沢「田中さんはそう言われますが、この殺される女の人(岡本舞)、原作ではただの悪い人なんですよ。でも脚本ではちゃんと家に縛られる宿命を負った人として描かれてて、陰影がある。田中さん、さすがだなと思いました」(つづく)
【関連記事】田中陽造 トークショー レポート・『セーラー服と機関銃』(1)
- 作者:田中陽造
- 出版社/メーカー: 文遊社
- 発売日: 2017/04/28
- メディア: 単行本