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篠崎誠 × 黒沢清 トークショー レポート・『共想』(4)

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【『共想』と心理学】

黒沢「もともとの専門で心理学的なもの、前から『おかえり』(1996)でも『SHARING』(2014)でも出てきて、今回(『共想』〈2018〉)離人症や悪夢とか。3.11のときに何してましたってインタビューされてる主人公たちは、カウンセリングを受けてるように見えなくもない。心理学部の出身としては、ああいうアプローチは得意な感じですか」

篠崎「そんなこともなくて、心理学に対して学生のころは反撥しかなかったです。人の心は計測できないと思ってた。生意気な学生で、心理学の勉強するよりは旧文芸坐やフィルムセンターで映画を見ていました。卒業してからわだかまりが消えて、私のいる学科が現代心理学部で、心理学科も併設してあって。学生時代の先輩も同僚でいて『SHARING』のときは最新の知見を聞きに行ったこともありました。全くかけ離れたところから創造する能力はなくて、自分の目に入るものや聞こえてくるものを使えないかなと。離人症はたまたま知って、助監督のつぼいくんに資料をさがしてもらって、柗下(柗下仁美)さんや矢崎(矢崎初音)さんにも読んでいただいて。世界に対して幕が張られてるような感覚があるから、これをそのまま映像化してみたらと思ってカメラ前に幕を張ってみたり。くだらないけど、映画として何かあからさまに見せるには。夢ということならお許しいただけないかなと」  

おかえり

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【その他の発言】 

黒沢「真面目なところは真面目ですけど、面白がってるところもありますね」

篠崎「人間ストップモーションのシーンもあります。『裸の銃を持つ男』(1988)のもとの『フライング・コップ 知能指数0分署』(1982)ですね(一同笑)」

黒沢「世界的にこんな映画作家はいないというくらい、ユニークなポジションにいるなあと。普段からお好きなB級映画やホラーの面白がらせ方と、映画とは何かと真面目に考えている姿勢とが一体になってる。次はどっちが来るかという。真面目なシーンの後で、いきなりドーンって音がしておどかしが入る。こんな組み合わせの作品はほとんどないですね。近年こういう作風に突き進んでいるのは、何かあるんですか」 

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篠崎「商業映画を撮りたいんですけどオファーがないもので。せっかくこういうものを撮るのなら、商業映画としては企画が通りづらいものをやろうって気持ちはあるかもしれませんね。商業映画的なものを否定する気持ちは全然なくて、いまだに70年代のアクション物とかが琴線に触れます。機会があればそういうことを、お金をかけてやりたいんですけど」

黒沢「ただいくらお金があっても、現代の設定で現代の俳優で70年代をそっくりやるのはできないよね。パロディーみたいならできるかもしれないけど、抜け出てきたようにはアメリカ映画でもできない」

篠崎「日本では原作がないとダメだとか、タイムスリップしたり入れ替わったりしないといけないとか(一同笑)」

黒沢「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の悪影響だよね。あれは面白かったけど。日本の学園物の半分はSFだよね。

 『SHARING』(2014)と今回はペアだろうけど、これが自分のスタイルだというのを極めつつあるんですか」

篠崎「そんなことは。次はちゃんとシナリオを書かないと(笑)。長期的な展望は持てないですよ。前の映画の反省や反動で次があるので」

黒沢「『SHARING』につづいて3.11をベースにまたもう1本つくろうとした動機って何ですか」

篠崎「そのときどきの情勢もあって、チャペルのシーンは6年後の311日に撮影させていただいて、あれは何も仕込んでなくて。震災の翌年は満員だったそうです。それが6年後には数人しかいなくて、だとしたらちゃんと撮っておこうという気持ちがありますね」

黒沢「じゃあ、この後で完結編が」

篠崎「(笑)最後になるんですが、映画館のシーンでトビー・フーパのポスターが貼ってあるんですが、あれはフーパーが亡くなる前なんです。ニュー八王子がなくなるので、閉館直前に。自分が館主になったつもりで選んでトビー・フーパー来館っていうPOPまで。八王子に来るわけないんですけど(一同笑)。3月に撮って、その年の8月にフーパーが亡くなって、ショックを受けたんですけど。亡くなってからああいうシーンは逆に撮れないですね」 

 

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