50年近くに渡って、子どもたちの人気を集めてきたウルトラマンシリーズ。そのウルトラが、『ウルトラマン80』(1980)以降、テレビでの新作をつくれず16年間停滞するという時代もあった。長い沈黙を破って送り出されたのが、『ウルトラマンティガ』(1996)。未来を信じるというちょっと気恥ずかしいメッセージを世紀末に投げかける一方、「ウルトラマンはなぜ戦うか」など批評的なアプローチも試みている。主演をV6の長野博が務めたのも話題になった。
『ティガ』に第3話から加わって最終回まで牽引したのが脚本家の小中千昭。その小中氏が、2月にエッセイと対談、脚本を収録した『光を継ぐために ウルトラマンティガ』(洋泉社)を刊行した。
『ティガ』をリアルタイムで評価していたのが批評家の切通理作氏。切通氏はウルトラマン研究家としての貌もあり、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(洋泉社)、『少年宇宙人 平成ウルトラマン監督・原田昌樹と映像の職人たち』(二見書房)などの著作もある。
【『グレート』と初期の『ティガ』】
小中氏は、『ティガ』以前にオリジナルビデオ『ウルトラマングレート』(1990)に、原案としてクレジットされている(当時、ウルトラシリーズのテレビの新作は休止中で、ビデオや映画にて作品がいくつかつくられていた)。
小中「(『グレート』では)宮沢秀則さん、會川昇くんとかホンを書いたんだけど、現地のライターの人がリライトして」
切通「小中さんは『グレート』の第4話「デガンジャの風」では怪獣デザインの原イメージも描かれています」
小中「絵だけ描いて、ぼくのイメージはこうなんですけどって。暇だったんですよ」
切通「怪獣のデザインもユニークだし、先住民のアボリジニーが信仰している怪獣で、怪獣を退治するのをアボリジニーが反対するんですが、グレートが怪獣を倒すと雨が降って天の恵みだ、よかったって言って終わる。それが面白いなって。飢饉に苦しんでたから、雨でよかったと」
小中「破綻してる(笑)。覚えてないですね。その話だけなら何てひどいライター。
『グレート』のUF−0の話(第11話「第47格納庫」)は、全然違う話にされてて、「デガンジャ」はまだ原型が残っている」
切通「『ティガ』のガゾート(第6話「セカンド・コンタクト」)を見たとき、デガンジャの雨を思い出して。全然人知が及ばない展開になる。それが新しいなって」
小中氏の『ティガ』参加は、第3話「悪魔の預言」から。
小中「『ティガ』ではM78星雲から来たという設定だと思い込んで行ったら、いろいろと新しいスキームになっていて、前の設定は使えない。M78じゃないって言われて、じゃどこなのよって(一同笑)。
今回の『光を継ぐために』では笈田チェック(『ティガ』の笈田雅人プロデューサー)があって、いろいろ違うって言われた。記憶が改変されてるのかな。客観的な事実とは違うかもしれないけど、歴史ってそういうもの。誰かが書き残したもの、客観的でなくてもそれに価値があるかなって」
切通「初めて小中さんの言葉で書かれた本を読むと、やはり違う。
キリエロイドの第3話、小中さんがいまウルトラマンをつくるにはって理論武装していたのが凝縮されてる」
小中「笈田Pも村石宏實監督も、あれはストック台本だと最近まで思ってた。ストックではなく、2日で書いたんです。人の記憶っていい加減(笑)」
切通「当時はテレビで映像を見た上で、シナリオを読んでました。でも今回の本でシナリオを読むとまた違っていて、小中さんの脚本のモダンさ、新しいものをつくるっていう息吹を感じる。キャラクターは既に企画書にあったものでも、各キャラが鮮明になってる。どういう装備を使うかムナカタ副隊長(大滝明利)が決めて、イルマ隊長(高樹澪)は逡巡する。高樹澪さんの隊長って聞いたときは、もっとビシバシいくのかと思ったら、柔らかい感じで、ムナカタがいろいろ決めていく。シナリオにあるだけで映像にはないけど、ムナカタがイルマをたしなめたり」
小中「ベタにやったら、男勝り(な女性隊長)なんだろうけど」
切通「第5話「怪獣が出てきた日」では、ダイゴ役の長野博さんの演技を見て、小中さんはダイゴをつかんだと」
小中「あのころは、まだ映像を見ないで書いてる。レナ(吉本多香美)はエースパイロットだからちょっとがさつかなって思ったら、映像では吉本さんは柔らかい感じ。軌道修正していきました。吉本さんと初めて会ったのは、打ち上げでした」
【原田昌樹監督の想い出 (1)】
『ティガ』に第29話から参戦し、ダイゴ隊員とレナ隊員の関係が盛り上がりを見せる第50話「もっと高く!」を撮った故・原田昌樹監督。原田監督は次作『ウルトラマンダイナ』(1997)、『ウルトラマンガイア』(1998)などでも素晴らしい仕事を遺した。3月、切通氏は原田氏の軌跡を追った『少年宇宙人』を刊行。
小中「第50話では、原田さんに「もっと気持ちがわかること(台詞)を書け」って言われたけど、書けなかった。余計なことを言わせたら台無しになる。原田さんとも初めてだったんで、あまり強くは言われませんでした。主題歌の「Take Me Higher」を使うと準備稿で書いていて(そんなことを指定したら)監督は怒るよねってぼくも思っていて。丸谷嘉彦プロデューサーが、“ちょっとイっちゃってるホンだけど”って言ってくださったみたいで。原田さんは、自分だったらもっと(主題歌を)うまく使うっておっしゃってて、それはそうで、監督とライターの計算が一致するわけない」(つづく)
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