1978年に刊行された中沢けい『海を感じる時』(講談社文芸文庫)は60万部のベストセラーになった。当時から映画化の企画が進み、依頼を受けた脚本家の荒井晴彦は他の中沢作品を織り交ぜて脚色。だが結局、中沢は映画化を許諾しなかった。荒井は「女の原作者は難しい。男でもいるけど」などとねちっこく述懐していたけれども30年以上を経て執念の映画化が始動(『争議あり』〈青土社〉)。
主人公(市川由衣)は、高校のひとつ上の先輩(池松壮亮)に恋した。その時点では彼に拒絶され、ただ体だけを差し出す。それを知って激昂する母(中村久美)。やがて卒業して進学した先輩と、花屋で働く主人公との立場は逆転していく。
『海を感じる時』の原作は主人公と母との関係が色濃く描かれているが、映画では他の中沢作品も使ったこともあって恋愛が前面に出た。『海を感じる時』では女が男を追いかけていて、中沢の第2作『女ともだち』(講談社文芸文庫)では男が女を追いかけ始める。この両方を過去と現在の同時進行で描くというのは荒井脚本の独創である。筆者は荒井のエッセイを読んで中沢は荒井に怒っていると思い込んでいたので、中沢がツイッターで映画化を喜ぶようなコメントをしていたのにはちょっと驚いた。
映画は今年9月に公開。今月、公開終了直前に “男だけのぶっちゃけトーク&ティーチイン” と題して池松壮亮、脚本の荒井晴彦、成田尚哉プロデューサー、監督の安藤尋の各氏によるトークショーが新宿にて行われた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りなので、実際の発言と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
成田「見ていただいてありがとうございます。池松さん人気できょうも(お客さんが)いっぱいですね。荒井さんが30年前に脚本を書いて、30年間にいろいろあって。池松さんにお願いしてからも流れて。ホリプロの方に脚本を届けたときは、池松さんは大学4年生。一昨年の冬ですね」
池松「原作も知らなかったんですけど、ホンをいただいてこれは絶対にやりたいと。ようやく成立しました。湯布院映画祭(に行ったの)は今年の夏でしたか。この4人で挨拶してきたんですけど、大丈夫かな大丈夫かなって言ってたのがなつかしいです。おかげさまでヒットしまして」
成田「池松さんに頼んでからも何回か流れて、その度にホリプロの偉い人に直訴してくれて」
池松「きっと誰しもに面白いものではないです。でもシナリオを読んで、なんか刺さったというか、これはダメもとでも食らいついてみようと思いまして」
成田「マネージャーの方が、うちの池松が安藤監督と荒井さんのホンでやると言い張っていますと。その時点で、偉い人は安藤監督の『blue』も見ていなくて(笑)」
【撮影現場のエピソード (1)】
成田「去年の12月に2週間という短い期間で撮り上げました。ラッシュは3時間もあって」
荒井「3時間だと1時間切らなくちゃいけないんじゃない? カットの割り方知らない?(一同笑) 安藤はカットの割り方、下手だね。お姉さん(高尾祥子)と話すところとか(一同笑)。
(自身の監督作の)『この国の空』(2014)の現場では(長回しの多い)『海を感じる時』みたいになるってスタッフがプレッシャーかける。でもカット割るってつまらない。映画って、みんな順番に喋って変だよね。ふつうおれたち、人が話してても平気で割り込むし。カットの度に(カメラが)人物に寄ってさ」
安藤「荒井さんに言われちゃうとね。今度『ケータイ刑事』を見てください。カット割ってますよ(一同笑)」
成田「市川さんと(友人役の)阪井まどかさんのシーンはもっとあって。市川さんのアパートの件りとかも、泣く泣く落として。
市川由衣さんはがんばってくれて、脚本も気に入って」
荒井「ほんとに気に入ったの? その割に事務所はうるさかったね。あれダメ、これダメって。打ち上げでは口きかなかった(一同笑)」
成田「全編裸ですから」
荒井「全編ではないですよ。『テルマエ・ロマエ』(2012)じゃないんだから(一同笑)」(つづく)