私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

野沢尚 インタビュー(1997)・『青い鳥』『破線のマリス』(2)

【新作ドラマ『青い鳥』 (2)】

 これは制作発表でも言ったことなんですけど、豊川豊川悦司氏が演じるのは平凡な男なんです。長野の特急が停まらない駅の駅員さん。非常に平凡な人生を送ってきた。それが人生をやり直したいと思う。とりたてて悲惨な日々を送っていなくても誰でもが、自分には違う人生があったんではないかと思いますよね。今回の主人公は人生をやり直すことをほんとうにやっちゃった男。やってしまう時にはどれだけの犠牲や苦難がふりかかってくるのか分っていない。それを経て、いわゆる青い鳥という言葉に象徴されるささやかな幸せを見つかるまでの話なんですね。破滅的な逃避行をつづけて、あなたと死にたいと思う時もあるんだけど、別れることや孤独になることを恐れずに、最後まで生き抜いていく。そんな男と女を描きたかった。

 今、癒しというのがキーワードになっていて、傷をもった人間が寄り添って傷をなめあって、お互い元気づけあいながら生きていくみたいな、そういう風潮がある。そうではなくて、人間どこかで一人になって、孤独であることに耐えて生きていかないといけないんじゃないか。別れることを恐れずに、孤独かみしめて、強く生きていく。それが今、現代人に必要ではないか、それが一番の根っこのテーマですね

 

 (主人公は平凡な男だが)豊川氏のほうから、平凡というのはどういうことなのか、平凡な男なりの人生はあったわけだから、それがちょっと見えないと…というリアクションはあったんですよね。豊川氏はこの(仕事場のマンション)近所、歩いて1分くらいのところに住んでいるので、プロデューサーに来てもらって、かなり話し合いをしました。それで、僕が主役3人のかなり詳しい履歴書を作りました。ドラマに出てこない部分が沢山あるんですけど。生年月日から始まって、少年時代どうであったとか、親はどうだったとか、どういう初恋をしてどういう失恋をしてという、それを作って、やっと豊川氏も分ったと。それだったら出来ると。少年時代に兄貴を事故で失ってるとか、結婚したかった恋人が若いころいたんだけど、列車に乗って去っていく恋人を、手を引いて引き戻すことが出来なかった過去があるとか。彼が奪う人妻(夏川結衣)の設定も、厚木出身で親の愛に恵まれてないとか。小さいころから非常に早熟な育ち方をして、男を渡り歩いている。本人は純粋なんだけど、外からはだらしない女に見える。その夫の佐野史郎さんがやる役も…

 

 今まで(演出家の)鶴橋鶴橋康夫さんとやってきたり、フジテレビやってきたドラマで武器にしたこと、自分の得意ワザみたいなことを全部投入してますね。しかも、ロードムービーというのはなかなかテレビドラマでは出来ませんしね。これまでの集大成ですね

 

 (1回1回のシナリオは)3ページ4ページのストーリーから始まってます。どの場所でどこへ行って、どう行ってみたいな、あとはそれを2回分ずつ長いハコを作って、それをプロデューサーに見せて大枠のチェックをして、執筆に入って、3回か4回の書き直しで決定稿ですね。

 貴島貴島誠一郎さんは非常に細かいですね。主人公のしゃべるセリフ1つ1つが気になるのか、“あなた”というのは強すぎるから、“あの人” にしてくれとか、そういう生理感覚があるんでしょうね。ですからプロデューサーと打ち合わせしてるというより、監督と打ち合わせしてるという気分がありました。直しの作業はこれまで以上にハードではありましたけど、1つ1つ納得して緻密につくりあげています。ほんとに細かいところまでスキがないように脚本が出来てるんではないかと思いますね

 

【シナリオと小説 (1)】

 シナリオのかけもちは不可能です。1つがストーリーづくりで、もう1つが脚本の仕上げで、という場合はありますが。ただ、僕は早く書きあげるほうなので、短いローテーションというか、この作業やって次はこれと決められるんですよね

 

 小説も作り方は殆ど脚本の仕事と変わりなくて、履歴書作って構成表作ってという手順は踏みますから。気分的には同じです。ただディテールの書き込みは、小説のほうはハンパじゃないですから、シナリオにくらべて、何十倍という書き込みしていくので、そういった意味ではもっと深く人間に入っていけますね。つづく

 

 以上、「ドラマ」1997年11月号より引用。