私の中の見えない炎

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山田太一脚本 × 鶴田浩二主演『シャツの店』メイキングを振り返る(1)

 任侠映画などで存在感を放った名優・鶴田浩二。その鶴田の遺作になったのが山田太一脚本によるテレビ『シャツの店』(1986)である。筆者は幼いころからこの作品をくり返し見ており、その制作過程を改めて振り返ってみたい。

 『シャツの店』の10年前である1976年から鶴田浩二主演『男たちの旅路』シリーズが制作され、話題をまいていた。

 

昭和五十七年に六年間続いた「男たちの旅路」が最終回を迎えると、山田・鶴田でもう一度という声が、NHK内部をはじめ、さまざまな所から出てきた。そうした動きと、鶴田浩二でしか表現できないドラマを、もう一度書きたいという山田太一さんの思いが一致して、新しいドラマ・シリーズが制作されることになった。

 父は「男たちの旅路」の後、一時、心臓を悪くして入院したが、その頃には回復して仕事に入れる状態になっていた」(カーロン愛弓『父・鶴田浩二』〈新潮社〉)

 

 『男たちの旅路』では戦中派の主人公を演じた鶴田は役柄に同化したのかサービス精神ゆえか、歌番組など他の仕事でも『旅路』の台詞を口にするようになっていたという。『旅路』の脚本を手がけた山田太一は述べる。

 

アナクロニズム的な戦争体験をしょっているような人間の発言というのはね、少数意見という感じがすごくあったんですね。ですから、鶴田さんを通してそういうものを反応させたい。反応を書くというのかな、視聴者にぶつけるというのは非常に意味があるという気がして書いてたんです。だけど、段々書いてるうちにもう10年は経ってないけど、その間に微妙に社会というのは変わってきてね。ああいう発言というのは開き直りを見せてきたというのかな…。鶴田さん自身も右翼っぽいことを言ったりするんでね、段々嫌になってきちゃったのね」(山田太一 講演会〈フェリス・フェスティバル '83〉)

 『旅路』では主人公のガードマンが戦争体験を根底に抱えており、その主人公を異物として視聴者にぶつけるという意図があったわけだが、思いのほか受け入れられてしまった。その誤算に加えて、世間では戦争体験を持ち上げる趨勢も現れていた。山田はそれに自らも加担してしまったという反省もあったのだろう。山田は別の形で鶴田を活かしたいという構想を語っていた。

 

ただ、鶴田さんっていう俳優さんを非難してるわけではないですよ。ああいう存在というのをもっと書くのは、嫌になってきたのね。で、鶴田さんに関してはね、ちょっと面白い人なんで、洋品店のご主人かなんか、ちょっといいなあという気がしてるのね。町内会の顔役かなんかでね、お祭りなんていうと浴衣着てね、葦簾張りの真ん中へ入ってね、お酒貰って、「ようよう」と言ってるようなね…。そういう人で家庭や親戚なんかに問題があったりすると、一番頼りになるおじさんとかね、そういう感じのをやりたいなあと思って、考えてはいるんですけど…。そういう魅力で鶴田さん、まだまだ掘り起こすところがあるという気がしますけれども」(山田太一 講演会〈フェリス・フェスティバル '83〉)

 

 『男たちの旅路』にて演じた戦中派の説教ヒーローとは別の形で鶴田浩二を扱ったのが『シャツの店』である。『旅路』が完結したのは1982年で、その1〜2年後に山田太一は演出の深町幸男と構想を練っていたという。当初は葬儀屋を舞台にする案もあったけれども伊丹十三監督『お葬式』(1984)が公開されたので取りやめた(「ドラマ」1987年12月号)。深町と鶴田はおそらく初顔合わせだっただろうが、近藤晋プロデューサーは『旅路』などで鶴田とは旧知の間柄だった。山田は1985年6〜7月にシナリオを執筆。「暫くはなれていた家族劇のようなものを、ちょっとちがったやり方で書こうか、と思っています」と抱負を述べている(「月刊シナリオ」1985年7月号)。

 

新しいシリーズのタイトルは「シャツの店」と決まり、父は戦中派で一徹だが、前作のガードマンよりは年齢を重ねて、人間に厚みの出たシャツ職人を演じることになった。父は前作にもまして、この役が気に入っていた」(『父・鶴田浩二』)

 『シャツの店』の職人は、仕事をしている姿はカリスマ性を感じさせてかっこいいけれども、妻と息子に離反され、酔いつぶれてスナックの女性にセクハラを繰り返す。筆者は初めて見た鶴田浩二がこの作品だったゆえにコミカルでペーソスもある面白いおじさんだと感じていたが、過去の硬派のイメージを突き崩す役柄は多くの視聴者にとって驚きであっただろう。

 

周吉「親父の仕事は神聖だった。“どうってことはない、私にだってやれます”なんていわなかった」

昭夫「でも————」

周吉「男が仕事だッといえば、それを尊重した」

昭夫「駄目ですよ。女性が、全然変ったんだから」

周吉「そんなこといってろ」

昭夫「でも、そうですもん」

周吉「早く世帯持って、洗濯して掃除して飯つくって、おしめでも替えてろ」

昭夫「なにがいけないんですか。俺はもう、どんどんそんなことやりますよ」

周吉「つまらねえ世の中だ」

昭夫「そうかなあ」

周吉「男は男でいたいじゃねえか。仕事が命と思いてェじゃねえか」

昭夫「でも、それで家族が不幸じゃしょうがないですよ」

周吉「————————」

昭夫「親方、もう、すっごく古いんですよ。自分変えなきゃいけないですよ」

周吉「————————」

昭夫「淋しいじゃないですか。毎晩ひとりでポツンと」

周吉「————————」つづく