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野沢尚 インタビュー(1997)・『青い鳥』『破線のマリス』(1)

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 脚本家・小説家の野沢尚氏が逝ってこの6月で丸10年。野沢氏は1997年に『破線のマリス』(講談社文庫)により第43回江戸川乱歩賞を受賞。その年の秋から、脚本を手がけたテレビ『青い鳥』(1997)が放送された。

 以下に引用するインタビューは、「月刊ドラマ」1997年11月号(映人社)に載ったもので、『破線のマリス』とスタート直前の『青い鳥』について話している。『青い鳥』は、シナリオ集が文庫化(幻冬舎文庫)された。

 野沢氏のテーマとしては報道、家族(と恋愛)がよく取り上げられる。この年の2作では『破線』が前者、『青い鳥』が後者の系譜に属していて、リアルタイムで鑑賞したファンとしては思い入れがあるのだった(字数の都合上、全文ではありません。注釈は引用者によるものと原文にあったものとが混じっており、原文にあったものは太字にしました)。

 

【新作ドラマ『青い鳥』 (1)】

 去年の6月に(TBSの)貴島貴島誠一郎プロデューサーから依頼を受けて、去年の今ごろ、ちょうどストーリー11話分を書き終えてました。ストーリーがひと段落したころに乱歩賞の小説を書き始めたのですが、年内に第1話だけほしいと言われて書きました。年を越すと。乱歩賞の締切まであとひと月だったので、貴島さんに無理を言って、仕上げをさせてほしいと。ドラマを再開したのは2月からですね。それから延々とやってますから、最初の段階からもう1年以上になります

 

 まず豊川悦司さんとやるという前提があって、豊川さんが最後まで本が出来てる…つまり結末までみえてる形で仕事をやりたいというのがあって、それが出来る作家というとあんまりいない。そこで僕の名前が上がったんだと思います。豊川氏とは『この愛に生きて』をやってるんで、気心は知れてる。

 最初、貴島さんは『逃亡者』的なものをやりたいと。豊川氏が2年半ぶりにドラマに出るということで、制作予算もとれるので、普段できないこと、全国縦断ロケーション的なものを。ただ、『逃亡者』的なものでも、犯罪がからまないものにしたいと。例えばと、貴島さんが言ったのは、女を寝取られる男の話はあるけども、女を寝取って逃げていく男のほうを描くドラマはあまりないのではないか、女を奪ってしまう男の論理みたいなことを出来ないだろうか。そのような提案がありました。豊川氏のほうからは、非常に具体的なビジュアルなイメージがあって、中年男がロングコートを着て少女の手をひいて、海辺のバス停に佇んでいる。小雨が降っている。要するに逃避行のワンシーンなんです。

 お二人からお題をいただいて、僕がストーリーを考えた。まず貴島さんに−−−−こういう人間とこういう人間がいて、第1部はこうなって第2部はこうなる、10年の話です−−−−みたいな大枠と登場人物の配置、こういうテーマで、と紙に書いて話したんですね。それに乗っていただいて、TBSで豊川氏に会った。豊川氏は、1部と2部で違うキャラクターが出来る、2本分のドラマが出来るみたいなことにかなり乗ったみたいですね

 

 最初に僕が豊川氏に言ったのは、一種の任侠映画をやりたいと。何か罪を犯して刑務所から出てきた男が、ある耐えなきゃいけない状況があって、耐えて耐えて最後に爆発するみたいな。要するに“高倉健”をやりたいと言ったら理解してくれた。当初は『冬の華』的な匂いを目指してました。今、本が最後まで出来てみると、そういう印象はなくて、とっかかりとして任侠映画とか高倉健というキーワードがあったんでしょうね

 

 人生劇の重みとして、人間というのは歳月によって変貌していくものですし、いろんな人格と関わったり、時間的な幅のあるものをやりたかったんですね。それと、全国縦断ロケーションみたいなことでかなり壮大な話ができる。第1話を見た限りでは、それほど壮大な感じを受けないかもしれないですけどね。非常に静かなたち上がりで、段々ドラマチックになっていきますつづく

 

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