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実相寺昭雄 メモリアルコンサート2022 “陰影礼讃、夢中遊行” レポート

 昨年11月、池袋の自由学園にて “実相寺昭雄メモリアルコンサート2022 陰影礼讃、夢中遊行” が行われた。この自由学園明日香講堂は重要文化財だという。

 実相寺昭雄監督の作品にまつわる曲が演奏されるのは、今回で4回目。司会は寺田農氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

寺田「実相寺は今年、没後16年。生誕85年です。全然関係ないんですが、この近くの椎名町という駅の奥に池袋モンパルナスというアトリエ村があったんですね。そこで多くの若き画家とか小説家、詩人がいた。そこで私は生まれたんですね。11月7日ですから、いまから10日前。何と80年前です(拍手)。拍手するところではございません(笑)。

 1970年にTBSを退社した実相寺は映画『無常』(1970)を撮ります。ロカルノ映画祭でグランプリを受賞した作品です。音楽は冬木透なんですが、トップシーンに使われたのはバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第1番」。つづきまして、ハイビジョンの映像詩「春への憧れ」(1984)。舞台は奈良で、冬から春への訪れを実相寺の素晴らしい映像で描いてますが、そこにかかっていたのがモーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」」。

 

 「春への憧れ」は台詞がなく、自然や寺院の情景が映されるものだった。

寺田「実相寺はモーツァルトが好きで、偏執狂的に何かというとモーツァルトをいろんな形で使っておりました。それが亡くなる直前はショスタコーヴィチが大好きになって、亡くなる3日前にCDを買って来てくれと言ったこともありました。

 まず「弦楽四重奏曲 第2番二長調」ですが、1979年に資生堂のコマーシャル「口紅」の「初恋編」。主役は薬師丸ひろ子さん。デビューしたてで14歳です。長さは3分。いまは3分なんてCMは絶対ありませんね。3分クッキングなんてのがあって、料理ができちゃう。いまのは15秒か30秒ですね。いかに時代のテンポが違うのかなという気がします。カンヌ広告映画祭というのがあって、この「口紅」がグランプリに輝いています」

 つづいてモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」。舞台の転換をしている間にバリトンの田中俊太郎氏が解説。

 

田中「実相寺先生が東京藝術大学オペラ科の定期公演で演出されました「ドン・ジョバンニ」より、ふたつアリアを聴いていただこうと思います。ひとつ目はドン・ジョバンニの従者のレポレッロがドン・ジョバンニの恋愛遍歴を記したといいますか、いろんなところでこんなにたくさんの女性を口説いているよと説明しているというものです。

 ふたつ目は「シャンパンの歌」。ドン・ジョバンニはカタログに自分が征服した女性を書き記していくという、ある意味で運命に縛られた男でして、カタログをさらに増やすために酒宴をもうけて、とにかく女性を連れてこいと命じます」

 

 実相寺監督は東京藝術大学演奏芸術センター教授も務めた。

 

寺田「実相寺の仕事の中で、映像としてはまず映画。それから先ほどの資生堂のようなコマーシャルが大変多かったですね。それも名作ばかり。特に覚えていらっしゃるかもしれませんが、ニッカウヰスキーのスーパーニッカ。歌手はキャスリーン・バトルで「オンブラ・マイ・フ」。実相寺は、本当は当時人気絶頂で世界の歌姫と言われたジェシー・ノーマンを当てにしていた。オファーしたんですが、ジェシー・ノーマンモルモン教で酒なんかとんでもない。ましてやウィスキーのCMなんてと言われたと、実相寺は嘆いてました。そのときに小澤征爾さんが、まだ無名だけどいいのがいると会わせたのがキャスリーン・バトルキャスリーン・バトルは日本で爆発的に売れて、そして世界に羽ばたいていったという珍しいケースです」

 

 オペラで二期会の50周年記念の『カルメン』の曲も演奏された。

 

寺田「さっきからハイビジョンと言ってますけれども、いまは死語ですね。地上デジタル放送と言われています。ハイビジョンとは1980年代前半にNHKの放送技術研究所が開発したもので、日本発です。それまでのアナログ放送は525本の走査線でしたが、1125本という倍以上の走査線になった。11月25日はハイビジョンの日、なんて誰も知らないですね(笑)。

 ベートーベンの「クロイツェル・ソナタ」。ハイビジョンのデモンストレーションとして実相寺が撮った映像「東京幻夢」(1986)で、バックにかかりました」

 

 「東京幻夢」は先の「春への憧れ」と同様に台詞はなく音楽のみだが堀内正美、志水季里子など役者も登場した(DVD『青い沼の女』に収録)。

 締めは『ウルトラセブン』(1967)の主題歌(作曲:冬木透 編曲:石垣絢子)。歌は田中俊太郎氏。

 

寺田「実相寺は『ウルトラセブン』を4本撮っています。メトロン星人の「狙われた街」という、地球はタバコでダメになるという。その40年後に「狙われない街」(『ウルトラマンマックス』〈2005〉)。死んだはずのメトロンが生きていて、携帯電話でこの星は滅びるだろうと。そのメトロンの中身は私だったという。この作品が実相寺のウルトラシリーズの最後になりました」

 

 ラストで田中氏がワイドショットのポーズも決めた。