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実相寺昭雄 メモリアルコンサート 3 “遊びをせんとや生まれけむ”(語り:寺田農)レポート

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 11月、代々木上原にて “実相寺昭雄メモリアル・コンサート3 遊びをせんとや生まれけむ” が開催された。筆者は前2回には行くことができず、今回ようやく参加できた。

 まずは実相寺の自伝的小説『星の林に月の舟』(大和書房)の、盟友・寺田農氏による朗読からスタート(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

寺田「11月29日は実相寺の命日。15 年前のきょう、亡くなったんですね。いま私が朗読しましたのは『星の林に月の舟』で、のちにTBSでテレビ化されました。実相寺が主役でTBSのときから円谷プロに行って『ウルトラマン』(1966)をつくってという自伝的なものですが、当時大変人気のあったトシちゃん(田原俊彦)が実相寺をやるということになりそうになった。みんなが大反対、トシちゃんは実相寺じゃないだろうと(一同笑)。実相寺はよせばいいいのにいろんなところでトシちゃんトシちゃんと言ってましたけど、結局は他の方になりました。数字は大変よかったです」

 つづいてテレビ『風』(1967)の「江戸惜春譜」(作曲:冬木透)。

 

寺田「実相寺はTBS本体から追放されて円谷プロに行ったり京都で『風』を撮ったりします。音楽は冬木透さんでTBSのふたつ先輩です。冬木さんは効果音を担当しながら国立音大にも行かれて作曲家になった。実相寺とも仲がよくて、初期の作品は冬木さんの作曲が多いですね」

 

 その次のモーツァルトはCM「口紅」(1979)に使われた。

 

寺田「コマーシャルフィルムの仕事も多かったですね。資生堂の口紅のコマーシャル。で、起用されたのがデビュー間もない薬師丸ひろ子さん。3分もあって、昔はテレビも余裕があった。いまは3分も見ていられないですね(笑)。これをきっかけにコマーシャルでクラシックを使うというのが多くなったんです。それまでは亡くなった小林亜星さんとかが、コマーシャルのために作曲してたんですね。クラシックを使うというのは実相寺が最初ぐらいで、画期的でした。カンヌの広告映画祭でグランプリを受賞しています。のちにスーパーニッカでキャスリーン・バトルを使いますね。

 実相寺と出会ったのが1964年、東京オリンピックの年です。私は22、実相寺は27歳。50年以上経ったいまも、実相寺の亡霊にからめとられているような気がします(笑)。いっしょにやったのが『でっかく生きろ』(1964)で、音楽は冬木さんでした。途中で実相寺は番組を降ろされてパージ。私も同じように8年ほどTBSパージになりました。実相寺に出会わなきゃ、私もいまごろ石坂浩二くらいになっていたんじゃないかと(一同笑)。

 1970年、TBSを正式に退職し、念願だった映画制作をします。ATGの『無常』(1970)、『曼荼羅』(1971)、『哥』(1972)の三部作で批評によれば「日本人の内的行動を深く追求した」そうで、何だかよく判らない(笑)。音楽は冬木さんです」

 

 『哥』ではビバルディ「四季」の「春」。

 

寺田「実相寺と関係ないんですけど去年のカンヌでグランプリのセリーヌ・シアマっていう監督の『燃ゆる女の肖像』(2019)。素晴らしいです。18世紀末の女流画家とモデルとなった伯爵の令嬢との恋の話なんだけど最後にビバルディの「夏」が流れる。流れて主人公のアップで終わるんですけどね、その映画も面白いんでぜひ。それは「夏」でこれは「春」です(笑)」

燃ゆる女の肖像(字幕版)

 休憩を挟んで、作曲家の池辺晋一郎氏も発言された。

 

寺田「実相寺ならではの委嘱の仕方というのはありましたか」

池辺「実相寺監督とはいろいろおつき合いしましたけど映画は2本だけ。『D坂の殺人事件』(1998)と『姑獲鳥の夏』(2005)ですね。黒澤(黒澤明)監督、今村(今村昌平)監督、篠田(篠田正浩)監督、北野(北野武)監督と仕事しましたが、ああいう頼み方は実相寺監督だけでした。

 普通は映像を見て台本を読んで、どのシーンのどの部分に何分何秒の音楽を、と言われるわけですね。実相寺監督ももちろん映像と台本はあるんですが、この作品のイメージでコンサートでやるような組曲をつくってくれと言うんですね。『D坂』のときはぼくが勝手にタイトルつけて「官能」とか。それで5曲くらい書きました。

 『姑獲鳥』では監督からもタイトルくださいって言ったら、映画の中身とは何の関係もないタイトルをくれるんですね。「上がらない遮断機」とか、踏み切りのシーンなんてどこにもないんだけど(一同笑)。曲を書くと、満遍なくよく使うわけです。このシーンに曲を使うのか、なるほど! 作曲したほうが呆気にとられるような使い方で、本当にユニークな人でしたね」

寺田小澤征爾さんが実相寺のことを、専門的な勉強をしたわけじゃないけれども音楽の芯が判ってるんだと」

池辺「映画や演劇、テレビの仕事を通じて楽譜を見ている監督は実相寺さんだけでしたね」

寺田「ちゃんと読めましたからね」

池辺「ワインが好きで、飲んだワインのラベルをはがすためにバスタブにひと晩浸けとくんだって。奥さんの原知佐子さんが厭がってました(一同笑)」

寺田「きょうはだじゃれが出ませんね」

 映画『悪徳の栄え』(1989)のテーマ曲(作曲:松下功)。

 

寺田「実相寺はやはり松下さんに、ここにこういう曲を入れてくれという頼み方ではなかったようです。昭和から平成に変わるころに、たまたま上野で聴いた松下さんのピアノ協奏曲が素晴らしかった。それで仕事をしたいということで『悪徳の栄え』でお願いしたようです」

 

 ラストは遺作映画『シルバー假面』(2006)の「ザビーネのワルツ」。

 

寺田「最初にテレビドラマを演出したときの音楽も冬木さんでした。最初の長編映画も冬木さん。遺作となったときも冬木さんです。実相寺には何か期するものがあったのかもしれません」

 

 客席には冬木透氏、桜井浩子氏、田口清隆監督などの姿が見えた。

 

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