エルサルバドルのシングルマザー5人が劇団 “ラ・カチャダ” を立ち上げた。その演劇は彼女たち自身の現実の人生、虐待や暴力や貧困を直裁に投影したものだった。
スペイン人監督が劇団に1年半に渡って密着したドキュメンタリー映画『ラ・カチャダ』(2019)。2023年2月に高円寺で上映が行われ、俳優の風吹ジュンとカメラマンの山崎裕の両氏によるトークもあった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【作品について (1)】
山﨑「今回の(上映の)テーマは教育についてで、いろんな作品を選んで。演劇や映像関係のワークショップは、俳優ないしは俳優を目指す人が自分の技術を高めるとか作品の内容を理解するとかでこれも教育だろうと。ワークショップ関係のドキュメンタリーをさがしていたときに、山形でこの作品が上映されたと判って、見たら力強い作品だなと。ワークショップについて喋るのなら(トークは)演出家かなとも最初は思ったんですけど、この作品に出てくる女性たちはシングルマザーでDVを受けていたとかで、舞台をつくっていく過程でトラウマを乗り越えていく。セクシャル・ハラスメントやDVは映画界でも問題になっていますね」
風吹「私もシングルマザーです(笑)」
山﨑「風吹さんも壮絶な人生をたどっていらして、ワークショップにはあまり縁がないでしょうが、演じるということとの関係などについてお聞きしたいと思いました(笑)」
風吹「最初は山﨑さんだからということでお受けしたので、どんな内容なのか全く判らなかったんですね。情報もなくて(次第に)伝えたいたいことが見えてくる。編集の上手さですね。吸い寄せられるように、内容に入っていきました。いろんな女性たち、奥に隠れてるような人たちがこの作品を見たときに勇気をもらえるし。ポジティブな考え方も学べますね」
山﨑「出てくる人たちは、自分自身の体験を演じています。相当に大変なことですね。風吹さんは自分自身を投影することは?」
風吹「いえ、他人を演じるということと自分自身を演じることとは全く違う行為のような気がします。私は映像のほう(方面)で、舞台はちょっと体験していますけど。
映像の仕事はいろんな約束ごとがいっぱいあって、カメラに演出家に台本に…。最近はリハーサルがないんですね。現場に入ってすぐそのまま演じていく。ホンを読んでイメージトレーニングして、こういうキャッチボールになるなと。それで現場ではカメリハで演出家に「こう動いてください」と。お茶を淹れながらこうだとか。動作とかそういうことをすべてクリアーしていく。客観的に自分を見ている自分というのがありますね。
舞台は何度も練習して体に入れ込んでタイミングも合わせていって、身につけてステージに出ていく。でもこの(『ラ・カチャダ』の)場合は自分が経験したことですよね。独白されている言葉を演出家が上手に引き出して、構成して台本にする。それによって(トラウマを)乗り越えていくのが目に見えますね。経験を自分の中に閉じ込めないで何かの形で表現する。人に話すことによってらくになることがありますね。ある意味で舞台がセラピーですよね」
山﨑「この作品は監督も女性ですが、舞台の演出家も劇団員も女性で街の風景以外では男性が出て来ない(笑)」
風吹「撮ったこと自体が素晴らしいですね。プライバシーの空間に(ドキュメンタリーの監督が)入っていったのがすごい」
山﨑「(監督は)卒業制作でNPOを撮ったときにこの女性の方たちと知り合いになったそうです。彼女たちが劇団をつくったと聞いて、エルサレムに移住して。広告会社に勤めていたので、そこのカメラを借りて、男性のカメラマンが連れて行けなくて自分自身で回して。距離感をつくるのに苦労して、関係をつくってから撮った。ラストの海のシーンは、向こうから誘われて撮ることができたと」(つづく)