私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

原恵一 × 辻村深月 トークショー レポート・『かがみの孤城』(2)

不登校について】

辻村「(『かがみの孤城』〈2022〉の原作)小説を出したばかりのときに「不登校新聞」さんから取材を受けたことがあります。ものすごく緊張したんですね。当事者で自分が学校に行かないという選択をした人から見ると、小説の中でここが違うということがあって当たり前だし、きょうはそれを聞くっていう気持ちで待っていたら、取材に来てくれたメンバーが全部で6人いて「辻村さん入れて7人だから孤城です」「辻村さんは不登校の経験があるんですよね。誰にも言わないから言ってください」と言われて、本当に書いてよかった。私は不登校の経験はないんですけど、ずる休みはありましたし、それを「ずる休み」と言われてしまうのが釈然としないという気持ちもありました。ずっと学校に行けていたというのでなくて、1日1日を積み重ねた結果、卒業したという感じでした。作中でこころの見舞われたような出来事が自分の身にあったというわけではないんですけど、学校がものすごく愉しかったというタイプではないんですね。きっと順風満帆だったなら、こんなに学校を舞台にした小説を書かないだろうなって思います。好きではなかったはずなのに、デビュー作から学校を舞台にすることが多くて、何か大きな忘れ物をしたような気持ちがあるから、何度も青春小説に戻ってくるんだろうなと思っています」

「原作の中の台詞で、ウレシノ(声:梶裕貴)くんは何もしたくないと。子どもが何もしたくないと言ったら、いまは何もしないときなんだよと大人や友だちは言ってあげる。そういう人が周りにいるだけでその子は救われる。ぼくらのほとんどは傍観者なんで、いい人でも悪い人でもない。ただクラスみたいな中では、いじめられてる人から見れば傍観者も悪になるわけなんですね。ほんとに勇気のいることだと思うけど、ちょっとだけ寄り添ってあげるとかできるんじゃないかな」

辻村「原さんの答えが、私が思ったそのままのことを答えてくださってる。めぐり合わせに感謝しています。

 原作の最初のほうでフウカ(声:横溝菜帆)がウレシノに「ばっかみたい」と言うんですね。古城に同じような境遇で7人集まったからといって、仲よくできるわけではない。自分たちが厭な思いをしてきたにもかかわらず、同じような態度をウレシノにとってしまったり。中学生を集めたら起こりそうなことを書いていこうと思っていて、そのときに出てきた台詞でした。響き合わせた感じではないんですけど、最後に東条さん(声:池端杏慈)の台詞「ばっかみたいだよね、たかが学校のことなのに」は、私は中学生のときには言えなかったです。そういう外側の視点を持っている人のことが書けてよかったなと思っていました」

「東条さんの言葉っていうのは、あの世代の子たちに届いてほしい。学校生活って出た後のほうが長いんですよ。学校でどんなにつらいことがあったとしても、勉強したことも世の中で役に立たないしね。取材した人の話なんか聞いてもかつて不登校だった人はすごく多いんですよね。でもいまはちゃんとみんな仕事をしている。ずっとはつづかないよってことを言ってあげたいですね」

かがみの孤城

【その他の発言】

 原作ではクリスマスでリオンがオオカミさまにプレゼントを渡している。

 

辻村「私の想像ですけど(笑)お母さんはミオがいなくなってもミオを忘れるのが怖いし、でもミオを覚えていると元気なリオンを近くで見ていて辛くなってしまう。だけどひょっとしたらリオンにケーキを用意したように毎年、水森家では姉弟両方に用意しているものがあるんじゃないかなと思っています。なので、そのあたりに関係しているものじゃないかなと」

「この原作は共感している人がすごく多くて、こういう公共の商業作品で出版物なんだけど読む人にとっては個人的な体験なんですね。近いと思うのが、ぼくの好きなアメリカの作家のJ・D・サリンジャー。『ライ麦畑でつかまえて』(白水社)が出たときに若い世代がサリンジャーに、何故あなたはこんなにぼくのことをよく知ってるんだと。一躍マスコミに取り上げられて売れっ子作家になったけど、つきまとわれるんでうんざりして、田舎に広い土地を買って、高い塀で囲ってマスコミから遠ざかった生活を最後までしたんですね。出版物は1965年ぐらいから一切出してなかったんだけど、死んだときに遺言で書き溜めていたものは出していいと。村上春樹さんに早く翻訳してもらいたいんだけど(笑)。(時間ですという)カンペが出てるんですけど、おれはまだあきらめないぞ(一同笑)」

「ねたばれとかよく言うじゃないですか。でもそれは初見だけのことなんだよね。ぼくはそこに鈍いというか。『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980)を公開初日に朝いちで見に行って、見終わって興奮して友だちの家に走って行ったんですよ。そしたらたまたま他の友だちも数人いて「おい、大変だ! ダースベイダーはルークの父ちゃんだったんだよ」(一同笑)。みんな受けると思ったんだけど」

辻村「受けると思った?(一同笑)」

「固まって「もう見る気なくなった…」って。おれだったら知ってても見に行くけどな」

辻村「当時の原青年の興奮が伝わってくる」

「そうか、世間はねたばれを嫌うんだ」

辻村「よくこんなねたばれと伏線だらけの映画をやってくれましたね(笑)」

「それは気をつけました(笑)。

 ぼくミステリーとかファンタジーって苦手なんですよ。辻村さんの前で言うことじゃないんですけど。SFは大好きなんですが。だけど古いミステリー映画で『シャレード』(1963)はものすごくいい。鮮やかなトリックで、オードリーヘップバーンも綺麗だし、音楽も素敵なんですね。いま見ても面白い。『犬神家の一族』(1976)はパクリだと思う(一同笑)。こんなので終わっていいのかな。もう時間だからやめてくれと(スタッフに)拝まれてしまいました(一同笑)」