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石井隆 インタビュー “「現場では大ヒンシュク、毎日孤立していました」異業種監督のパイオニア的存在”(2015)・『GONINサーガ』

 『死んでもいい』(1992)や『ヌードの夜』(1993)などで高い評価を受けた石井隆監督。その中で特に人気の高いのが『GONIN』(1995)である。2015年に続編『GONINサーガ』が発表され、公開時のインタビューを(いまは読めなくなっているゆえ)以下に引用したい。石井氏は2022年に逝去し、本作が遺作となった。

 

 佐藤浩市本木雅弘ら豪華出演の映画『GONIN』(1995)。その約19年ぶりとなる続編映画『GONIN サーガ』(9月26日公開)には、東出昌大桐谷健太土屋アンナ柄本佑ら今注目の俳優陣が集結した。前作に引き続きメガフォンをとったのは、海外でも熱狂的ファンを持つ映画監督・石井隆。劇画作家から1988年に映画監督デビューした、“異業種監督” のパイオニア的存在だ。

 北野武松本人志品川祐など、今の時代 “異業種監督” は珍しくないが、その言葉もまだない88年当時、石井監督に対する風当たりは強かった。

 

「映画の世界というのは、助監督を10年くらいやって一人前の監督になるという修行の世界ですから、学生時代にアルバイトで3カ月監督助手を経験したとはいえ、ポッと出は現場では大ヒンシュクでしたね。絵コンテを持って行っても “これ誰が撮るの?” “そんなレンズねえよ” “これって何億円の映画なの?” と嫌味が聞こえてくるし、レンズを覗かせてもくれませんでした。毎日孤立していましたね」と振り返る。

 脚本家経験はあるが、演出経験はゼロ。それでも自信はあったという。

 

「劇画を描いていた時から背景をモノクロ写真で撮って、ゼロックスのある店に行ってコピーして、それを原稿に貼り付けて、その上に切り抜いた自分の絵を貼っていたんです。そこに生身の役者(名美と村木のような登場人物)が息づいてほしいと、無意識のうちに演出をしていたつもりで楽しんで描いていました」

 

 さらに、映画に対する情熱もあった。

 

「小学生の頃から映画館通いだったし、中学生の頃には映画監督になろうと思っていました。世間知らずだけれど、映画の事は誰よりも知っていると(笑)」

 

 劇画作家・石井隆の大ファンだった竹中直人を主演に招いたデビュー作が、日活ロマンポルノとして公開された映画『天使のはらわた 赤い眩暈』。詩的な映像でつづられた “名美と村木” の物語が映画ファンの心を掴むのに、時間はかからなかった。“これ誰が撮るの?” と突き放したキャメラマンの佐々木原保志はその後、石井監督作品のビジュアル作りに大いに貢献することになる。

 続けて『死んでもいい』(1992)、『ヌードの夜』(1993)、『夜がまた来る』(1994)などを送り出した石井監督は、1995年にハードボイルド映画の傑作『GONIN』を初めてメジャー会社配給で誕生させる。きっかけは、クエンティン・タランティーノ監督の映画『レザボア・ドッグス』(1991)に触発された竹中の “名美のいない石井映画も観てみたい” という一言だった。すべてを失った5人の男たちが暴力団事務所の警察には届け出せない汚れた現金を強奪し、血で血を洗う抗争を繰り広げる『GONIN』は、公開当時の “洋高邦低” 時代も相まって当初は不遇な扱いを受けたが、ソフトリリース後は、並み居る洋画を抑えてレンタルビデオ店の人気ランキングベスト5に食い込み続けるほどの支持を得た。その人気から女性版の『GONIN2』(1996)が生まれ、シリーズ化も約束されるなど、さらなる飛躍が期待された矢先、石井監督にまさかの不幸が襲う。

 配給会社内の人事トラブルによって、すべてが白紙撤回。葉月里緒奈&天海祐希主演映画『黒の天使Vol.1&Vol.2』(1998、1999)もひっそりと公開され、以降思うように映画が撮れなくなる状況が続いた。

 

「いろいろなところに顔を売って助監督から監督になったわけではなく、知り合いのプロデューサーに引っ張られて撮っていたようなものなので、いきなりハシゴを外された感じでしたね。それまでお世話になっていた独立系の会社もつぶれてしまって、行くところもない。プロの映画監督としてやって行けると思った矢先の出来事だったので、生き方も相当荒れました」

 

 “異業種監督” の厳しさを痛感した。2年程の空白の後、石井監督は杉本彩主演でハードな官能映画『花と蛇』(2004)を撮る。これが思いもよらぬ大ヒットとなる一方で、『花と蛇2 パリ/静子』(2005)『甘い鞭』(2013)と官能映画監督のレッテルを貼られてしまうことに…。

 しかし、それでも頭の片隅には常に「ハードボイルド映画を作りたい」という思いがあった。その間も石井監督は様々なバージョンの『GONIN』のシナリオを書き続けていたそうで、「こういうのをやりたい、と思ってもまず通らないのがこの業界。でもどうしても頭に浮かんでくる。若手監督たちの対談で “『GONIN』ゴッコをしていました” なんて雑誌に書いてあるのを読んだりすると、なおさらハードボイルドなバイオレンスアクションが撮りたくなる」と思いは募るばかりだった。

 『GONIN』から約19年、機は熟した。前作で死に絶えた男たちの遺児が銃をとり、血の抗争を繰り広げる石井監督久々のハードボイルド映画『GONIN サーガ』が完成。東出らメインキャストのほとんどは、『GONIN』に衝撃を受けた落とし子たち。やっと時代が石井監督に追いついたのだ。前作で5人組の一人・元刑事の氷頭役を務め、これまで7本もの石井監督作品に出演している根津甚八も、病を押して盟友のために約11年ぶりに同役で俳優復帰。「いつも役に入り込む方でしたが、今回もそこまで入り込まなくていいと思うくらい、役作りをしてくれました。本当にカッコよかったし、撮影後にはこっちがビックリするくらいの力強い握手をしてくれた」と絆を再確認した。

 劇中には、“雨” “夜” “血” “光の乱反射” “ワルツ” “地下” “階段” “屋上” の設定や、『~赤い眩暈』での悲しきヒロイン・名美のとあるセリフが引用されるなど、これまでのエッセンスを凝縮したかのような印象があると同時に、石井監督の演出家としてのいまだ衰えぬセンスと力量をも感じさせる。現行のメジャー邦画作品からは消えた、オリジナリティと映画的強度が画面の端々に宿っている。

 

「ヒットするかどうか、この規模のハードボイルド映画を撮るのは最後になるかもしれない」と本作への思いを口にする石井監督。「企画書は出し続けますが、オファーが来ないと自分ではどうする事もできません。そうはうまくはいきませんから、次回作の予定もありません」と冷静だが「でもネタはたくさんありますよ」と不敵に笑った。

 邦画界の常識を破り、唯一無二の作家性を確立してきた “異業種監督” の、記念すべき映画監督作20本目の誕生を期待したい。(取材・文/石井隼人)

 

 以上、トレンドニュース(GYAO)より引用。