以下に引用するのは、『リング』シリーズで知られる脚本家・高橋洋氏のインタビューである。この時点はシリーズ3作目『リング0 バースデイ』(2000)の公開直後、『発狂する唇』(2000)の公開直前ゆえ、主にその2作について語られている。
載ったのは「TV Taro」2000年3月号(新作映画寄りのテレビ誌)で、『地獄の貴婦人』(1974)やら『シェラデコプレの幽霊』(1964)やら、普段はテレビ誌に出てこないような映画の題名が繰り出されている。この時期の高橋氏は、ホラーブームということでメディアの露出が多かったが、この記事ではさほど多くない字数で高橋氏のエキスが説明されていて興味深い。10年後に高橋氏が脚本・監督を手がける怪作『恐怖』(2010)を予告するような発言もある(明らかな誤字は修正した)。
もともとホラーファンというわけではないですよ。学生時代、自主映画を撮ってる頃からジャンル映画の形を借りてヘンな事をするのが好きだった。猟奇とか、そういうネガティブなものをやりたい方だから、器としてちょうど良いので、今はホラー映画というジャンルを借りてるんです。裏返って、コメディ・ジャンルでも出来ますよ。アクションでもOK。恋愛ものは、ちょっとどうか(笑)
(『発狂する唇』は)怖くなくていい、という事だったので全体がギャグ。根底はグランギニョール(残酷劇)です。『地獄の貴婦人』のような、猟奇犯罪ものでテンパったものをずっとやりたかった。こういうものがヒットして商業ベースに乗れるのなら、どんどんこっちの方向で行きたいんですけどね。めちゃくちゃに歪んだ構造が作り得て、初めて社会の複雑さとか歪みが描けると思うんですよ。歪んだ構造を思いついた時は、これで大きな世界が表現出来る!と嬉しくなりますね。僕、基本的に社会派ですから(笑)。だってサミュエル・フラー監督の映画なんてみんな異常でしょ(笑)。だからこそ描ける事がたくさんある。それとフリッツ・ラング監督。この二人には影響受けてます。世界の捉え方の怖さには共感するものがある
人間の外側にあるもの、それは幽霊かもしれないし、あるいは官僚機構のようなものかもしれないし、そうした構造体が、人間をどうしようもない方向に追いつめてゆく。その追いつめられるという感覚が一番怖いですね。だから、僕の脚本の恐怖は生き埋めにされる感覚だって、よく言われます。小中千昭さんの脚本は谷底に突き落とされる恐怖だと、いつも比較されるんですが、話の作り方が
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(『女優霊』は)中田秀夫監督が、デビュー作なので『アメリカの夜』のホラー版にしたいと言い出したんですよ。新人監督のフイルムに撮影所の人身事故の霊がとりつくと。でも、もっと怖がらせるものはないかと思いついたのが、僕自身の原点。小学生の頃、TVを見ていて突然ヘンなものが映ったんですよ。ドアを白い霊体がずぶずぶと通り抜けて、女性の悲鳴が上がって、あなたは幽霊を信じますか——で、パッと消えた。えっ、何コレ!! 怖くてしばらくTVを見られなかった。あゝあの時感じた怖さを書けばいいんだ、一度見て呪われた男をやればいいんだと書き上げました
(普段から“見えたり”するわけではなく)それだって、たぶん何かの予告篇だったと思うんですよ。調べたけどよく判らない。おそらく『シェラデコプレの幽霊』。マーティン・ランドー主演、監督ジョセフ・ステファーノ。淀川長治さんの日曜洋画劇場でやったらしいので、それじゃないかと思うんですが、確認出来ないんです
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今回の『リング0』までいけたのも、原作者の鈴木光司さんが鷹揚な方で、僕の改変をアバウトにやらせてくれたから。1からもう原作とは別の世界だったので、それを延ばしたり戻したり、世界観が統一されていたから2も0もやりにくくはなかったですよ。『エクソシスト2』の曲“リーガンのテーマ”を聴きながら脚本書きました。エンニオ・モリコーネの哀しい曲、メロドラマですね。『リング0』『リング2』は個人的はメロドラマだと思ってますから。師匠の一人、森崎東監督いわく、メロドラマとは人間の情念が高まる劇。人間は人間でパッションでガーッとせめぎあい、外側から追いつめてくるものは冷酷になればなるほど怖い。それが一つになった時、凄いゴージャスなホラーになる。やっぱり僕はフィクション性の高い方が好きなんですね
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(ホラーブームについて)ブーム状況は内側にいるだけに、よく判りませんね。ただ、ヒットしてもコケてもジャンルのせいにされる。ホラーだから当たったとか、ホラーだからダメだったとか。それはどう考えてもヘンですよ。当たるのもコケるのも商品のせいでジャンルのせいじゃない。だから長い間、日本ではホラー映画が撮れなかった。まぁ心配はしてます。これだけ各社一斉に作り始めると、たちまち飽和状態になって、サァーッと引いていくんじゃないかと…。僕も逆にホラーの色が着きすぎると、棲み分けされてしまって(笑)。すべてのジャンルを横断しているつもりなんですけどねぇ
脚本家の時は多くのお客さんにとどく、面白かった、と言ってもらえるものを狙ってるんですが、監督する時はハチャメチャなものにしたい。それが両立出来たら一番ですね
【関連記事】高橋洋(脚本家)トークショー レポート・『リング2』(1)
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