2001年、巨匠・井上陽水が初のカバーアルバム「UNITED COVER」を発表した。この2年前に陽水のベスト盤「GOLDEN BEST」が注目を集めていたけれども「UNITED COVER」も 万枚を売り上げるヒットとなり、21世紀初頭にカバーブームが到来(椎名林檎、徳永英明、つじあやのなどが続々とカバー曲を唄っている)。陽水の影響力や時代を読む眼には感嘆させられるが、以下に当時、フリーペーパー「Yosui Magazine」に掲載されたインタビューを引用したい(明らかな誤字は訂正し、用字・用語は可能な限り統一した)。
歌手としての充実期に名曲を歌う
――まず、新しいアルバム「UNITED COVER」についてお聞かせ下さい。
井上 そうそう、全14曲。カヴァーアルバムということですかね。
――昔の歌を今歌われるというのはどういうところから?
井上 そうですねえ、昔、子供の頃、TVやラジオ、それからレコードとかで聴いていた好きな曲、これって歌うと絶対いいよねって思ってた。何故って、好きなんですから。間違いないっていうか、歌ってて楽しいっていうか。楽しんでいるのがきっと伝わるんじゃないかな、と思って。
――アーティスト活動の中で、どのような位置付けでこのアルバムをとらえていらっしゃるのでしょうか。
井上 どのような位置付けでもとらえてないけど…。長い間歌手として歌っていますけど、もしかしたら今ってこういう歌、つまり名曲といわれている曲ですけど、こういう歌を歌うのに一番いい時期じゃないかと思っちゃって。歌手としてね。自分としては、うまく歌えるような気がしているだけなんですよ。
オリジナルの曲を作るのをやめたってわけじゃないですけど、曲を作るのは時間がかかりますから汗水たらして、捩じり鉢巻きで頑張って苦労してというのもいいんですけど、2~3年かかったとしてその間CDは出ませんよね。歌いたいのに(笑)。だったら歌える素敵な曲いっぱいあるんじゃないかと思って。
それと、半年くらい前だったかな、ボブ・ディランとかマドンナとか有名な人のインタビュー集みたいな本を読む機会があって、それは、僕にとってすごく面白くてね。「最近どうですか。曲は作っているんですか。みんな待っていると思いますよ」というようなインタビューアーの質問があって、ボブ・ディランがね「今はもう、世界中の全人口にCDをひとり100枚ずつ配ってもまだ有り余るくらいあって、新しく曲を作る意味はない」というようなことを言っているんだよね。僕はもう、いつも曲作るの困ってるから、「いいこと言うなあ。さすがボブ!」ってね(笑)。
それが何かこのカヴァー曲をやるきっかけのひとつにはなったかな。もちろんボブ・ディランも冗談めいたところもあるだろうし、真面目に受け取ることもないんだけど、曲を楽しむっていうかね、そういうこともいいかなー、と思ったよね。
微妙なライン
――アルバムを聴かれた方は、何故この曲をという驚きもあると思うのですが。
井上 そーでしょうか!? ある微妙なラインということでしょうね。微妙というのは、選曲もアレンジもそうだと思うんですけど、みんなが知ってるから絶対いいよね、というのと、ほとんどの方が知らないからいいよねというのと。つまりみんな知らないけど、こんないい曲なんですよっていうマニアックというかそういう方法もあるということで。その両方のまん中ということですよね。
あと、歌うと面白いんじゃないかと思った曲ね。「長崎は今日も雨だった」とか、「涙の連絡船」、いろんな曲あったけど…ムリだった。そういえば演歌って難しかったね。
――曲を選ばれる時は、随分いろいろな曲を聴かれたわけですか?
井上 舞台裏をお話するのはどうかと思いますが、このためにカラオケには行きましたね。3回ぐらいですけどね(笑)。カラオケの本の中には、物凄い数あるわけですよね、曲が。もちろん半分以上新しい曲で、Bzなんてもう、3ページぐらいあるわけですよね。
新しい曲は知らない曲がほとんどなんだけど、それでも知ってる曲も結構な数があって5~600曲の中から1曲選ぶ、つまり自分に合っている曲、歌いたい曲を選ぶってことなんですから、それはそれは…。(つづく)