私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

井上陽水 インタビュー(2001)・「UNITED COVER」(5)

f:id:namerukarada:20210727205107j:plain

 あやしいメロディー

――「誰よりも君を愛す」、「ウナ・セラ・ディ東京」これはまたどういう観点から。

 

井上 歌ってみてインパクトがあるというか、「ウナ・セラ・ディ~」は言葉の意味がよくわからない(笑)。それがいいなって思って。松尾和子とマヒナスターズ。「♪だーれにも~」というメロディが、なんかこうあやしい音で入っていく。あやしいメロディー。それが好きで。

 「銀座カンカン娘」と同じく、いかにもって感じで「ウナ・セラ・ディ東京」は、あまり有名すぎるかなあと思ったんだけど、レコーディングの若いスタッフ達がすごくいいって言ってくれて。

 そういえば、「銀座カンカン娘」は、年老いた同年代のコンサートスタッフが「是非! コンサートで歌ってくれ」って(笑)。

 

――それからまたちょっと変わった曲「サルビアの花」ですが。

 

井上 「サルビアの花」って前からすごい曲だって思っていたけど、カラオケでいざ歌ってみると意外とメロディー覚えていなくて、その時は、あっ歌えないんだーって思ったのかな。他にもこの早川義夫っていう人の「からっぽの世界」という曲があって、今回僕は歌っていないけど、これもまた歌詞がすごくてね。

 

――独特の世界観っていうか当時、流行りましたよね、暗い歌。

 

井上 暗い? そう? ちょっと自分でも変かなあと思うことがあるんですけど、僕ね、いろんな曲を聴いて暗いとか感じたことなくて。だから、「暗い」とか聞くと「そうか、普通そう感じるんだ」って思うんですよ。反対にすごく明るいなあ!っていわれてる曲もそれ程、そう思わない(笑)。

 

 嵐を呼ぶ男

――その他にも興味深い曲が収録されていますが、最後にぜひ石原裕次郎さんの「嵐を呼ぶ男」についてお聞かせ下さい。

 

井上 これは、思い起こせば小学3年生みたいな頃かな…。

 僕には、8つ上の姉がいてね。当時彼女には恋人がいて、若者らしく2人で映画を見に行こうというようなことにね。ところがやっぱり田舎のことで昔のことだからね。そうそう2人で大っぴらには、映画を見に行けないというような状況があって。それで姉が考えたことはね、小学生の弟の僕を連れていくということだったんだね(笑)。

 

――ほのぼのしたいいお話です(笑)。

 

井上 それでまあバスで10分程の田川市に映画を見に行くことになったわけで。そこで「あなた映画を見ていなさい」と言われて見ていた映画がこの「嵐を呼ぶ男」でね。それが僕の石原裕次郎の記憶としては初めてかな。

 石原慎太郎さんの『弟よ』という本も読みましたけど、お兄さんが語っているところによると、映画のロケとかで地元のチンピラから、からかわれたりするとね、裕次郎さんは、周囲が止める間もなくあっという間に4~5人のしちゃう(笑)というようなことがあったらしくて、それって映画の中のヒーローってことだけじゃなく結構現実も近いんじゃないかっていう話があったね。

 本当のスターっていうか、スクリーンの上だけじゃなくてみんな心酔していったんじゃないかと書かれてあった。「カメラの向こうに板妻がいる!」ってカメラマンの人が言って、当時の大部屋制というシステムをひっくり返していきなり主役でデビューするという典型的なエピソードもあったりね(笑)。

 とにかくスーパースターだったよね。スペシャルっていうか。

 

――裕次郎さんは俳優としてもそうですが、歌手としても活躍されていましたね。

 

井上 そうそう。「夜霧よ今夜も有難う」とか、たくさんいい曲があったんだけどね。

 この「嵐を呼ぶ男」という曲は映画の中で歌われている曲で、しかもセリフがあるし難しいなぁと思っていたんですよ。

 

――陽水さんの曲の中でセリフがある曲というと?

 

井上 「桜三月散歩道」という曲があってそれ以来ってことですかね。しかも映画のセリフだし長いし、喧嘩のシーンだしね。どうやってセリフをいおうか考えて今回は音楽に乗っかっているから “ラップ” ってことでやりましたけど。“ラッパー” になった気分で(笑)。

 

――そうですか(笑)。楽しみにしています。

 

 以上 “Yosui Magazine” より引用。