純愛?
――では、その選ばれた曲についておしえて下さい。
井上 「花の首飾り」、ザ・タイガースの。
――何故?
井上 純愛だから(笑)。純愛じゃないか、ノスタルジー? 全世界の女性が…今や持ち得ない…? 何なんですかねえ。フフフ。
そういえば、これって、歌っていると自分が詐欺師?になったような気がする時があるんですよ(笑)。まがりなりにも真顔で歌える私ってなんだろうってね。白鳥が出てきますからね。2回も3回も。ロマンチックっていうんですかね。
あっ、それから、この曲に関しては、2年前に、ちょうどその頃古い歌を歌いたいなと思いはじめた頃なんですけど、作家の沢木耕太郎さんと忘年会でお会いする機会があってカラオケに行ったんですけど、「一度陽水の「花の首飾り」が聴きたいんだけど」って沢木さんにリクエストされて、それで歌ってみて自分でもなんだかいいなーと思って、それが大きなきっかけになりましたかね。
――いいなと思われたのは、どうしてですか。
井上 偶然なんだけどカラオケのキーがピッタリだったことと、メロディーが自分に似合っている? ってことを思ったんですかね。
「~おー愛のしるしー」ってフレーズがあるんですけど、その切ない感じを表現するところがね、僕の声に合っているんじゃないかと。
元祖ガングロ
――なるほど。では他の曲についてお願いします。
井上 「東京ドドンパ娘」、「銀座カンカン娘」。娘シリーズ。
――そういえばドドンパ娘は現代に通じるところがあるとか。
井上 そうそう。まさしく元祖ガングロじゃないかと思って(笑)。
どちらも有名な曲なんだけど。ドドンパ、カンカンって…。だって、歌の中にドドンパ、ドドンパってところがあるわけだけど、おかしいよね。どう考えても(笑)。
例えば欧米でね、リズムのことなんだけどタンゴとかジルバとかあるけど、ドドンパって通じないよね、きっと。じゃあどこから来たの? って思うと、日本のミュージシャンの誰かが「このリズム、ドドンパにしない?」というようなことがあったんじゃないかと思うんだよね。
それからこの曲、渡辺マリさんていう方が歌っていて何となく覚えているんだけど、上手だなあ! って。もちろん子供の頃はよくわからなくて、改めて今聴いてみると上手なんだよね、すごく。
ほら宇多田ヒカルさん? もそうかもしれないけど、黒のフィーリング…ブラックミュージックを愛好してますみたいな人なのかな、今で言うと。それで昔は黒のフィーリングで歌いたいんだけど歌謡曲として歌う。今は、黒いフィーリングを黒いまま歌うと多くの人が喜ぶ、みたいなことがあって、時代が変わったんだなって思いますね。
――では、陽水さんはどういうフィーリングで歌われているんですか。
井上 えっ、僕ですか。僕はねえ、うーん、そりゃもうどちらでもない、敢えていうなら、黄色のフィーリングってところですかね(笑)。
誰もが認める名曲
――シングルですでに発売された曲も入っていますよね。
井上 「コーヒー・ルンバ」、「星のフラメンコ」、「旅人よ」、「ドミノ」。ま、それぞれ古い曲だってくくりもありますけど、僕にとってはそれぞれまた意味が違ってて。
「旅人よ」っていう加山雄三さんが作った曲ね、この曲はホントに素晴らしい曲で。素晴らしい曲、だれもが名曲だっていってる曲っていうのは、歌いにくいもんなんですけどね。なんで歌いにくいのかっていうと、あのちょっと例えが変ですけど、東大みたいな感じ(笑)。
東京大学っていうか、最高学府の中の最高峰みたいな感じでいえば、名曲っていうのはそんなもんで。で、そこの学生になるなんて勘弁してほしいみたいなのがあるんですけど。今回歌ってみて、今みたいな、つまりもうホントに名曲だから「わかりましたわかりました、もう素晴らしいです」って随分ある意味では放っておいた曲って、縁がないものと思ってたんですけど、改めて赤門くぐればやっぱり「立派な学校だなー」っていうのが改めてわかったんですけど(笑)。
――加山さんとはTV番組で共演されたことがありますが。
井上 加山さんは、今もそうだし、昔もそうなんだけど、ひと言でいって二枚目っていうか、アイドルだよね。なんといっても若大将だからね。そういう人って基本的に、「天は二物を与えず」ってね、普通音楽的才能っていうか、そういうのない人多いものなんだけどねー(笑)。でも加山雄三さんには、「天は二物を与えた」。特に凄くファンということでもなかったけど、才能ある人なんだなって漠然と思っていた。
それから「星のフラメンコ」(笑)。「星のフラメンコ」は西郷輝彦さんっていう方が歌って、そして浜口庫之助さんっていう方が作った曲なんですよね。(つづく)
以上 “Yosui Magazine” より引用。