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伊藤俊也 × 瀬戸恒雄 トークショー “石井輝男 超映画術” レポート・『直撃地獄拳 大逆転』(2)

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【『網走番外地』シリーズ(2)】

伊藤「『網走番外地』(1965)が2本立ての主従の従のほうとして劇場にかけたら、お客さんは『網走番外地』のほうを見に来るという逆転現象が起こったんですね。

 私は石井(石井輝男)さんの切れ味のいい演出はさすがと思ってたんですが、構成力は足りないなあと横で思っていました(笑)。最初からいい関係というわけではなくて、爆発したのは『網走番外地 南国の対決』(1966)。復帰前の沖縄へ船で行って、ロケーションしました。私が健(高倉健)さんと船に乗って、無線で石井監督とやりとり。大喧嘩になりまして、助監督の言うことじゃないと思うでしょうわれるかもしれませんけど “映画監督ひとりでやってんじゃねえ!”と。海上保安庁だったか自衛隊だったかの船を借りてましたので、本船には監督の周りにお偉いさんがいっぱいいたらしいんですね。そこに私の声が聞こえて、いまから思うと漫才みたいですが(笑)。それまでは伊藤ちゃんとか俊也ちゃんとか言ってた石井さんが、こっちには言わずにチーフやサードの助監督に声をかけるようになって、私はチーフに “石井をとるのか、伊藤をとるのか”と迫った(一同笑)。そんな顛末もあったけれども、石井さんとの関係は長くつづきました。もちろん瀬戸くんが介在したのもあるんですけど。石井さんのお墓にあれだけ行ってる助監督もいないってくらい、このところ瀬戸さんに連れられて行っております(笑)」

瀬戸「優しいと思うこともありますけど、この情況でこういうことを言うかって発言もありました。ただ仕事の上では丁寧でしたね。基本的には優しい人でした」 

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【声明の想い出】

 その後の石井輝男は、京都で『徳川女系図』(1968)、『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969)などのエロティック路線を連発。『徳川女系図』などの台本にはフィルムのメートル数の記載はあり、俳優名はない。

 

伊藤「2本立て興行が当時の主流で、長くなったりすると劇場が回らないということで(メートル数の記載は)フィルムの長さを厳守するということ。監督と会社とのせめぎ合いがあったんですね。極端な例は内田吐夢さんの『飢餓海峡』(1965)で、争いになりました。

 石井さんは次から次に撮っていらして、台本に俳優名が書いてないのはキャスティングが追っつかないということ。きわどいシーンで女優さんが二の足を踏んで、特定の人がなかなか決まらないというのも、おそらくあると思います」

 

 エロ路線は、助監督たちの反撥を受けた。石井とは喧嘩もあった伊藤監督だが、擁護している。

 

伊藤「京撮(京都撮影所)で石井組は厭だって空気が蔓延した時期もあって、朝日新聞あたりが良識派として異常性愛路線について否定的な書き方をしました。名のある俳優さんでなく虐げられた大部屋の俳優さんを裸にしていろいろさせるということで、厭だなって雰囲気が渦巻いていたんですね。それで京都の助監督一同の名前で反対声明が出たんです。石井作品を排斥するという。私は東撮(東京撮影所)にずっといたんですが、伊藤個人として、京撮声明の言葉の欠落は行為の欠落であるというところから始めて、マスコミが良識の名をもってするのに何ものもつけ加えない、それは作家たるものを目指している助監督のするものではない。作家を目指すなら異常性愛路線などとマスコミがつけた、あるいは会社がそれに便乗してつけたような思想的レベルでものを言うなと、個人的にビラにして書いたんです。補強する形で1年先輩の小松範任っていう友人が30ページ以上の大論文を書いて、助監督声明に署名しないと。京都は黙っちゃって、何の論争にもならなかったんですが。

 私は石井さんを喜ばせるつもりは毛頭なかったんですが、東京で自分を孤立させないで応援するメッセージとして受け取ってくださったようですね」 

徳川いれずみ師 責め地獄

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【網走の墓】

瀬戸「石井監督が亡くなるちょっと前に、お墓の話をしたことがあって、網走の地名が出たんです。会社の創立記念日に墓さがしに行ったら、大規模な墓団地は網走生まれとか網走に住んでる方だけということで、東京の人は入れない。監獄博物館に相談に行って、地元の有力者の方がそこにいらして、監獄博物館のお墓をつくるということで迂回してできないかということで。亡くなった次の年の2006年7月終わりに、関係者の方を呼んでお墓参りしました。もう14年経ちましたので、監獄博物館や市役所に事情を知ってる方はあまりいないでしょうけど、石井プロの関係者で毎年お墓参りをつづけております」

 

 その流れで、網走映画祭が毎年行われることになった。

 

伊藤「私の『誘拐報道』(1982)や『白蛇抄』(1983)のプロデューサーとして、瀬戸さんは名を連ねております。10歳の差こそありますけど長い友人で。瀬戸さんが今年13回目となる網走映画祭の礎をつくった、その功績たるや。冷やかしで名誉市民にまだならないのって言ってますが、そのくらい大きなものがあったと思います」

瀬戸「でもまだまだ、網走映画祭の認知度は低いですね。広がりは見えないですが、やってよかったと思っています」 

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【新作『日本独立』】

 伊藤監督の新作『日本独立』が12月に公開。

 

伊藤「私は1998年、とうの昔ですけど『プライド 運命の瞬間』という作品を撮り、津川(津川雅彦)さんが東条英機を演じたんですが、ものすごい反対運動に遭いまして。そのおかげでと言っちゃなんですけれども、大ヒットにつながりました。

 戦後の日本はアメリカの大戦略の中で、ふたつのことを突きつけられて、そのひとつは東京裁判。精神のありかすべてを否定するような東京裁判で、日本人の基盤を根こそぎ奪っていった。もうひとつは平和憲法で、美しいものとして今日まで言われてますが、日本を二度とアメリカに対抗できない国にするという戦略の中で出してきたと。今回は吉田茂小林薫で、手足となって動いた白洲次郎浅野忠信、いまもたくさんの読者を持つ白洲正子さんを宮沢りえが演じてます。GHQと日本政府との戦いをつぶさに描いたもので、日本人必見ということで見ていただければ幸いです。どうぞよろしく」

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