私の中の見えない炎

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輿水泰弘 × 井土紀州 × 金子修介 トークショー レポート・『あなた買います』(2)

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【『あなた買います』について (2)】

井土「撮影は厚田雄春さんで、小津(小津安二郎)組のカメラマンです。室内の芝居とか、レンズの選択とかは松竹らしいスタティックな感じなんですが、要所要所の場面が変わっていくときとかの車の走りや飛行機には活劇性があって、これ厚田雄春かなあ。撮影助手の川又昂が撮ったのかなとか(笑)考えました。

 ジャンル分けが難しくて、全然違うような締め方にもなった映画ですよね。棄てられた岸恵子と同じく棄てられた佐田啓二と、敗者同士のロマンスにもなり得たし。

 笠原和夫さんの言った宝探しの物語で、三つどもえの争奪戦ですが、その争うお宝が人間というのはちょっと新しい感じがする」

輿水「見る人の興味は最後にどこの球団に入るのかということで、それでずっと引っ張る。最終的には彼は我を通して、自分自身で決めたところに入る。恩師の臨終にも立ち会わない。人間の業も出ている」

井土大木実が何を考えているか判らない、実は伊藤雄之助すら判ってなかったという。あそこで、もう1回物語が渦を巻いてくると言うか」

輿水岸恵子のヒロインだけが、真相を見抜いてるんですね。ふたりは大木実を利用してるって言うけど、大木実にはあなたがふたりを利用してると。ヒロインを上手に使ってますよね」

井土「観客に対するガイドになってますね。“仮病よ”って言うのも。こっちは何となく気づいてるんですがだけど」

輿水「でも胆石ですからね」

井土「そこはゆるいですね。死ぬ病気か(笑)」

輿水「原作では麻薬で痛みを押さえていると。それで脚本にも少しあるんですが、カットされて映画では胆石が悪化して死んだことになっています。あれ、もうひとひねりないのかなって考えるのが現代人の悪いところ」

井土「現代的に考えると、もったいないなってところもあります。伊藤雄之助の演じた役は面白いし、伊藤さんがやったことでもっと面白くなってる。脚本には厭な相手に会う時直前にだけ痛くなる(展開)とかあって、観客には仮病だと判ったほうが面白いはずですよね。でも演出としては、そこまでやってない。ほんとに具合が悪くなったようでもあって、いまだったらもっとキャラを練って面白くしていったのかなって」

 

 ここで、輿水氏が会場にいる人に挙手してほしいという。

 

輿水「さっき金子修介監督と話してて、金子さんは岸恵子が色っぽいって言うんですよ。ぼくはウエストの細さからオードリーヘップバーンを連想し、ヘップバーンのほうが色気があるんではと。どっちが色気があるか会場で決をとろうと約束したんで(一同笑)」

 

 結局、岸恵子が多数派だった。

 

【金子監督登場】

 金子修介監督が、客席から「すみません、金子ですけど」と発言(輿水氏に「前に出て」と言われて登場)。

 

金子「ぼくも40代で胆石やったんですよ。摘出手術したんで。とらないと胆管がつまって逆流して、肝臓を悪くする。のたうち回るのは、胆石の症状です」

輿水「あれはリアルなんですね」

 

 ダンスの件についても言及された。

 

金子「結局、ダンスは踊ってないという解釈ですか?」

輿水「あ、あの後に踊ったという…?」

金子「ぼくは、踊ったのを省略したのかなって受け取ったんですけど」

輿水「“ダンスをする”ってト書きにあったのに、映画にないので」

金子「カットしたってことはダンス自体をしてないと。そうですか(一同笑)」

輿水「映画監督は、そこまで画で見せなくても判るだろうって言うんですよね」

金子「画で見せなくても判りますよね。あの後、踊ったと思います。そしてふたりはつき合うだろうと」

輿水「全部カットされてるからね」

金子「じゃあ議論はこの後に(一同笑)」

井土「省略したって見方もありますよね」 

【若き日の想い出】

輿水「(山田太一脚本の)『ふぞろいの林檎たち』(1983)のときにぼくも大学生で、大阪の大学にいてテレビ持ってなかったんですよ。4年間はドラマ見てないんですが、芦屋の友だちがいて金持ちで、当時珍しかったビデオを持ってた。そいつのところに友だち同士で泊まりに行って、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を見ようと。で、“面白いドラマもあるから見よう”ということで、夜ご飯の後から見出して、朝まで1クール全部見ました。はまっちゃって、山田太一さんが講師やってる放送作家教室にも行って」

井土「ぼくは輿水さんより8つくらい下ですけど、やっぱり『ふぞろい』ですね。再放送で見て」

輿水佐田啓二の息子の中井貴一さんが出ていますけど、新人俳優ばっかでやってヒットしたというのは考えられないですね。学校に通ってるときに、山田先生に訊いたんですよ。『ふぞろい』の最終回でいちばん書きたかったのはどこでしょうかって訊いたら、ゲバ棒持った化石のような学生が大学にいるって描写があるんですよ。実はそこが書きたかったと。“おれはあいつじゃなきゃダメなんだ”って小林薫の台詞でみんな泣いたんですよ。あのシーンは視聴者サービスで書いたって(一同笑)。作家ってこうなんだなと」

井土「主人公がビール運んだら、ゲバ棒持った人たちがいるんですよね。彼ら、駒場寮にいるのかなってぼく思っちゃったんですけど」

輿水「作家って何考えて書いてるか判らないですよ」(つづく 

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