私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

浦沢義雄 発言(インタビュー)録(1)

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 映画『がんばれいわ!! ロボコン』(2020)のクレージーさが話題の、巨匠脚本家・浦沢義雄。にわかに湧き起こった浦沢ブームを記念して、過去のインタビュー記事をいくつか引用したい。

 まずは1984年に「宇宙船」Vol.19に載った記事。この取材を行ったのは、脚本家の會川昇氏で『バッテンロボ丸』(1982)や『ペットントン』(1983)に注目していたのだという(用字・用語は、可能な限り統一した)。

 

——我々が浦沢さんの名前をはじめて拝見したのは『ロボット8ちゃん』だったと思うんですが、それ以前はどういった作品を書かれていたんですか?

 

浦沢 もう十四、五年前のことですからねえ。それに古い作品についてはあんまり言いたくないんですよ。……TVの構成台本をネ、いろいろとやっていましたよ。『カリキュラマシーン』とか『ゲバゲバ90分』とか。

 

——成程、今の『ペットントン』に通じるギャグを持っていた作品ですね。

 

浦沢 うーん、まァそういった番組ではやりたくてもできなかったことを『ペットントン』ではやっていることは確かだね。

(中略)

——後半はシューマイとチャーハンが結婚するとか豆腐がおそってくるといった、凄まじいお話があるわけですが。

 

浦沢 シューマイとギョーザが結婚するって話を『カリキュラマシーン』でやってまして、それをやってみたんだけど、TVではできないと思っていたからね。監督もよく撮ってくれていたけど、やっぱり観念的な部分が強いから、画としては…。やっぱり本当はやっちゃいけないんだろうね。 

(中略)

——例えば町中にロボットがいても天狗がいても宇宙人がいてもすぐそれをうけいれてしまう世界っていうのは浦沢作品の特徴だと思いますが…。

 

浦沢 僕はキャラクター性は役者に頼って自分では味気ない人間しか書いてないんですよ。人間の心理とか書いてないから、そういう世界づくりなんて簡単なんだし。それに逆に天狗が人間見た時のショックの方が大きいだろうし、だから、「ヤァ」で済ませちゃう方がいいんだよ。TVドラマなんだからそれ位したっていいんじゃない? イメージとしては『ひょっこりひょうたん島』なんだけど。高校生位が見たって「変なことやってるな」位の部分は残しておきたいと思っていたから。

 

——あの作品の人物はつまり、ホモッ気あり、サドッ気あり、カマッ気ありと、一種常軌を逸しているわけですが…。

 

浦沢 出てくる人達はみんなそういう人でありたいと思っている。僕はみんな狂っていると思っているから。世の中の人はそれぞれ大体狂っていて、それが真面目な顔して生活してるんだって。

(中略)

——こういう番組ですと、「子供に夢を…」とかそういうテーマがあることになっているんですが、その辺はいかがですか?

 

浦沢 いや、夢なんか持たない方がいい。あんなもん持つとロクなことにゃならないよって、そういう部分はありますね。それ位じゃないの(笑)

 

——昔ご覧になったTVでお好きな作品は?

 

浦沢 外国のが好きでしたね。『ミステリーゾーン』『アウターリミッツ』『サンセット77』とか…。大体外国物をは多く見てましたね。映画は…東宝のはあまり好きじゃなかったですね。日活とか東映は毎プログラム行ってました。特に日活は。

 

——『ペットントン』全話書き終えられて何か感慨の様なもの(笑)はありますか。

 

浦沢 ないね。すぐ次のにかからなきゃいけませんから、何もないですよ。(「宇宙船」Vol.18より引用)

 

 つづいて、浦沢先生の師である脚本家・大和屋竺が1993年に逝去した際の追悼インタビュー。テレビ『ルパン三世』の第2シリーズ(1977)や映画『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』(1985)などの想い出がつづられている。

 

 大和屋さんは恩人。ルパンでもギャグしかやりたくなくて、ホン書いても結構受け入れられないことが多かったけど、大和屋さん大笑いしてんの。

 ルパンの映画『バビロンの黄金伝説』は、清順(引用者註:鈴木清順さんが監督で、全部書く予定だったんだけど、その前に宮崎駿さんのルパン(『カリオストロの城』)があって、それ観ていやあーな感じがして、女の子を好きになるルパンなんて…足長おじさんみたいで。

 だから『カリオストロの城』に勝ちたいと思って意気込んでやったら大失敗。生まれて初めて全然書けなくなって、途中で投げ出して、大和屋さんに渡しちゃった。大和屋さんが全部書いた。ずっと勢いでホン書いてたけど、それ以来ちゃんとプロット立ててハコ作んなきゃいけないと思うようになって。結構大和屋さんには節目節目で助けられてる。珍しいんじゃないの。大和屋さん、あんまり人助けるとは思えないもの(笑)。 

 大和屋さん自身のホンは、プロットとかハコとかそういうのはやんなかった。思いつくままズルズル苦しんで書くの。思いつきだけで書けたらと思ってたみたい。

 大和屋さんの最高傑作のルパンは「荒野に散ったコンバット・マグナム」。ルパンの全シリーズの中で一番の出来。ルパンの相棒・次元大介の話で…カッコ良かったな。次元には思い入れあったんだと思う。あれも書くのにえらく苦労してたみたい。ギャラ先にもらってね、書かなきゃいけないって(笑)。

 ずっとやってる日曜朝九時のフジテレビの枠も、最初の『ロボット8ちゃん』で大和屋さんがシリーズ構成やってて、企画会議に連れてってもらったのが最初。あの時はホン読みもしなかったんじゃないの。働き者じゃないから。

 

  以上「映画芸術」No.368より引用。(つづく