1993年から浦沢義雄先生がメイン脚本を手がけ、現在も継続中のテレビアニメ『忍たま乱太郎』。2011年に同作品が浦沢脚本で実写映画化された際、浦沢先生のインタビューが行われた。文中で触れられている鈴木清順監督の映画『オペレッタ狸御殿』(2005)の脚本は、書かれてから歳月を経て映画化に至り、清順監督の遺作となった。
——もう30年あまりテレビや映画の脚本を書き続けて、時代の変遷も見ていると思うんですけど、浦沢さんが今だからこれをやりたいって欲求はありますか?
「ほとんどないなあ」
——最近、過去の浦沢さんの脚本が電子書籍で発売されていますが、未発表のものがたくさんありますよね。
「たくさんありますよ! 『オペレッタ狸御殿』もそうです。あれは20年ぐらい前に書いたものなんだけど、清順さんに “これやるから” って言われて」
——『ルパン三世』の第二シーズンは鈴木清順さんの監修で、そこから浦沢さんは脚本に参加したんですよね。
「清順さんとがよかったの。清順さんとしか仕事をしたくなかったの。清順さんの作品を観て脚本家になりたいと思ったので」
——そうなんですか!
「清順さん、変なことやっているじゃないですか。ああいうのがやりたかったんです。だから清順さんと仕事をやるのなら、脚本が書けなきゃだめだって思って」
——なるほど。それで『ルパン三世』用に書いた脚本はすぐに採用されたんですか?
「すぐじゃないです。5本見せてからですね。第二シリーズのときは真面目に書いていたほうなんですよ」
——真面目にとは?
「最初は真面目に書き直しをしたり、清書したりしていたんですけど、東映の平山亨さんに “浦沢くんは字は汚いけど面白い字だから、そんなことをしなくていい” って言われて。だから今も生原稿なんですよ。『忍たま』も生原稿で」
——そうなんですか。脚本家って新しいものに巻き込まれて、そっちにアジャストしたネタをセリフに入れたりしますけど、浦沢さんは違うんですね。
「これは子どもの頃から自信を持って言える。主流に乗るのが嫌なんです。少人数のほうが好き」
——ちなみに子どもの頃に、こんなブームがあったけど、乗らなかったということはありますか?
「ベーゴマですかね。みんな流行っていたからやっていたけど、俺は1人でする遊びが好きだったので」
——でもその1人でしている遊びが、突然流行になったりはしなかったんですか?
「よくありました。一番最初は切手ですね。ブームになる前に1人で切手を探しに行ったりしていました」
——では切手がブームになったらどうしたんですか?
「人にあげちゃいました」
——面白いですね。浦沢脚本の原点というか。
「誰もやらないことを狙っていたい。ただそれだけです」
——それが結果的に清順さんにも認められて、浦沢ブランドも確立されたと思います。
「いや、今思うとみんなが求めるほうに進んだほうがよかったんです、きっと。だから失敗したなあって。清順さんについていても金にならなそうだし(笑)」
——でも楽しそうだからいいんじゃないですか(笑)?
「楽しいとかは本当は興味ないんです(笑)。それに昔から、俺が面白いと思った映画は興行的に失敗しているんですよ。『まぼろしの市街戦』とか『ラブド・ワン』とか。『007』とかは俺ダメなんですよ。あんまり面白くない」
(中略)
——これから新たに書いてみたい脚本はありますか?
「もう無理でしょ。60歳ですからね」
——浦沢さんの電子書籍をダウンロードした若い監督が、これを実写化したいって言う人が出てくるかもしれませんよ。
「あ、『たまご和尚』の実写化はやりたいね」
——浦沢さんの書き下ろしの小説ですね。あれは和尚が人を食べちゃったりして、ナチュラルにタブーに触れていますから映像化は大変そうだと(笑)。
「どこかに勇気のある人いないですかね?」
——昔と比べて世の中はどう変わったと思います? 今、世の中が浦沢的なものを共有してきていると思うのですが。
「でもそうなると俺、稲垣足穂みたいになってきちゃうからね。ヤバイなと思ってね」
——21世紀の稲垣足穂! それ悪くないと思うんですけどね。
「カッコいいんだけどさ。変態じゃない? 文学の原理をああいうふうに話すのって。どっちかっていうと普通の生活を楽しみたいから」
——生活の中ではどんなことが楽しみなんですか?
「生活は普通に楽しいですよね。友達と会ったり、遊んだりとか。人と話すのは得意なので」
——社交的なんだけど、1人の世界が好きと言うことなんですね。
「そうそう。それが一番わかりやすい」
——じつは今の時代が一番浦沢さんに合っていると思います。1人で何かを楽しむ人が増えてきていますし。
「考えてみれば確かにそういうやつらが多い気がする。俺もそういうふうに思われているし。最近、1人で弁当が食えなくて、トイレの個室で弁当を食う大学生とかいるでしょ。よく言われるの、“その子たちと通じ合えるんじゃないですか?” って。全然違うのに」
——でもカリスマとしてあがめられるのもそろそろいいんじゃないですか?
「いやー、できれば若いときに売れたかったよね。若いとき売れてさ、天狗になってみたかったなあ。あの人、面倒臭いですよとか言われたりしてみたかった」
——『トトメス』(引用者註:『不思議少女ナイルなトトメス』)で女子高生にコブラツイストをかけて、若さを奪う悪魔が出てきましたけど(引用者註:「あるマッサージ師の挫折」)、その乗りでいけばいいんじゃないですか。今日の服装も若者っぽいし。
「これ、息子の服を借りてきたんだけど、息子ももう30歳ですからね。やっぱり若いときに売れるに越したことはないですよ(笑)」
以上、「spoon」2011年7月号より引用。