テレビ『トットちゃん』(2017)や『大恋愛』(2018)など、コンスタントに作品を送りつづけるベテラン脚本家・大石静。最近は、2009年ごろより腸閉塞にかかっていたことを告白した。
その大石のインタビュー記事で、かつてネットに載っていたものを引用したい。この時期は長編小説『四つの嘘』(幻冬舎文庫)を刊行しており、また実弟の借金を押しつけられていたという。引用者にとっては『四つの嘘』は出色だった(用字・用語は可能な限り統一した)。
子どもの頃に夢はなかったです。見た目は元気いっぱい。でも、「なんで私はこういう家に生まれてきたのかな。嫌だな」「生まれてこなきゃよかった」などと、いつも寝る前に思っていました。両親もあまり夫婦仲がよくなかったし、結婚もさほど幸せそうなものじゃなしというので、夢は全然なかったんです。
小学校のとき、「何になりたいか」という質問をされるときが一番嫌だった。何もなかったから。そういうときは、「ピアノの先生になりたい」とかまるっきり嘘をついていました。そんなこと、かけらも思っていなかったのに。ニヒルな子だったかも。
でも、私は先生にとって扱いやすい子どもだったと思いますよ。つまり、みんなの顔色を見て生きていたの。だからこそ、今、「自分に問いかけろ」って言うんです。
人に媚びて生きていたときというのは、思い出すと本当にいい時代ではなかったなと思いますよ。
私は、女優志願だったので、就職活動をしなかったんです。それで、劇団や養成所の試験を受けて、落ちたり受かったり。
でも、ある劇団の養成所を出たあと、私、癌になっちゃって、自宅療養も含めて何年か病院生活をしたんです。そのあと、結局、体も弱いし、行く所もない。
そんなとき、今は日本劇作家協会の会長になっている永井愛ちゃんという、当時は同じように落ちこぼれて、どこも行き所のない女優さんとひょっこり知り合い、「私たちも何かやりましょうか」という感じで「二兎社」を立ち上げたんです。
いまは書くことの恐ろしさを知っていますけれど、当時はわかっていなくて、ものの勢いで、自分がいい役をやるために「じゃあ、交代に本を書いちゃおうか」と脚本を書いていました。それがいまのお仕事をやるようになったきっかけでした。
そのあと、45歳のときに、NHKの連続テレビ小説の『ふたりっ子』で「橋田賞」と「向田邦子賞」をいただくことができました。
人生の挫折は17歳のときに彼にフラれたのが一発目ですね。それから、24歳のときに喉の癌で手術して、27歳で再発。「人は死に向かって生きているんだな」ということを、ものすごく実感して、挫折というより目覚めました。でも、死ぬ気はしなかった。
「えらいことになった」と思ったし、「なんで私がこんなに若くて癌にならなきゃいけないの」という被害者意識はあったけれど、まだ寿命があったのでしょうね。「死ぬかもしれない」という感じがしなかった。癌再発のときは一番ショックでした。そのとき私は、逆に思ったの。そんなに大事にしていても病気になるときはなるし、どんな名医にかかって手術してもらっても死ぬときは死ぬ。どんなに無理しても生き延びちゃうときは生き延びちゃう。だから、「もう無理してやれ」と思って、今は無理しているの。
1回目の再発のときは、ちょうど彼にフラれる、病気になる、入院する、というのがゴチャゴチャーッと来て、すごかった(笑)。
そのあと結婚して、2度目の再発のときは夫がいました。
すべての不幸はパワーになりますよね。たとえば弟の連帯保証人になったために、ある日突然借金が降りかかってきたということも、「絶対転んでもタダでは起きないぞ」と思って、そのネタをいつか必ず作品にしようと思っています(笑)。
そこが、たぶん私の仕事で一番いいところ、恵まれたところだと思うんですよ。私は20代で癌になり、再発もして2度手術しているし、さんざん男の人にもフラれましたが、そういうことはすべてネタになります。神様はある周期で必ず試練を与えるんだなと思います。だから私は、「何とかなるんだろうな」と思って生きています。でも、あんまり大きな試練は、もうこれで勘弁してほしいですね(笑)。
テレビの現場のプロデューサーや私たち脚本家は、世の中のブームの先読みみたいなこととは関係なく、もっと個人的なレベルで「何をやりたいか」が基本です。
情報にばかり泳がされているとダメだと思います。
今、情報があふれていて、パソコンを見ているだけで非常に手ごたえある生き方をしているように錯覚しちゃう。
だけど、「自分と対話する」ことが、一番大事ですね。「私は何をやりたいか」を自分に問いかけることだと思うんです。今の若い人たちは情報の中で泳ぎすぎて、自分との対話が少ないですね。「じゃあ、あなたはどうなのよ?」と聞いたときに、スルッと逃げる方法ばかり身につけちゃう人が多いと思います。
自分に問いかけない人は、幸せの手ごたえも薄いんじゃないかしら。
以上、サイト “心のサプリメント”より引用。
借金の経緯については『別れられないよね?』(幻冬舎)に詳細が書かれている。