他者に対する根源的な信頼っていうのは成立するか、ということが、いつも、ぼくの作品のテーマです。だから、群像劇が多くなる。
『ホーム&アウェイ』も、ひとりで旅しているけど、毎回いろんな人と出会う。
成立できるという前提でいくときと、できないかもしれないという前提でいくときとあります。信頼関係を結べるかというテーマを巡って、ぼくの中でいろいろあるんですよ、作品によって違う。
たとえば、テロを見たときぼくは沈みました。だから、『さよなら、小津先生』(2001年 フジテレビ系)ってどんどん沈んでいく、まっくらになっていく、できやしないっていう方向になっていく。さすがに最終回は信頼できるっていう結末にしましたけどね。
今回は女の子が主役だし、コメディ色が強いので、いつもできるということで書いてます。寓話ですよね。後半に向かって、音信不通の状態になっているお父さんとの関係が大きく出てきます。
ぼくの中でも、信頼関係を結べるかというテーマについての考え方がじょじょに変わってきてます。わかりあえることが正しいことなんだっていうところから変わってきている。
『ホーム&アウェイ』で、帰ってこれない中森かえで(中山美穂)を待っている3人(西田尚美、小泉孝太郎、酒井若菜)がいるでしょ。その3人を正直に描こうとすると、人間ってずっと深刻な顔はしてないですよ。お通夜でも葬式でも深刻な顔ばっかりしてはいない。だから、3人にとって、お祭り、イベントになっちゃってますよ。
ぼくの中で、根源的信頼ってああいうことなんだって、だんだんそう思うようになってきた。表面上は心配していない、ボケをやってるんだけど、あの中でにじみ出てくること、かならずしも抱き合うとか、口を出して信じるということじゃなくて、ああいった方向でも信頼し合える、とか、わかりあえるとか、そういう時代になってきたのじゃないかな。
今、あんまり人のことを思うと、よけいなお世話ってされちゃうじゃないですか。君はどうでもいいけど、わたしはあなたを思うってぐらいじゃないとダメじゃないかな。こんなにあなたのことを思ってるのに、なんであなたは答えてくれないのって時代じゃない。よけいなお世話だってことになる。そのことで多くの悲劇が起こってますよ。
脚本を書くときは、実際の事件や、家族のことや、個人の気分がどんどん入ってくる。結局、個人が書いているものにすぎないから、そういうのをどんどん出しちゃってかまわない、それを観てくれるかどうか、なんですよ。
ぼくは、事件とかに影響されて、その気分の中に入っちゃうほうかもしれない。事件にノってるんだろうとか言われちゃうけどね。今を描きたいと思います。
『ホーム&アウェイ』も、後半、拉致問題に多く関わってきちゃう。あんまりやらないでくれっていうのもあるけどね。
唯一、ぼくら作り手ができるのは、9話あたりで一回、地方で、かえでが三人と再会するのね。そのときはやるんだけど。抱きしめ合わないっていうね。そうとうな目に遭った人って、ニュース見るとわかるけど、もう普通のことで驚かなくなってますよ。ある種のすごく冷めた感じもある。だから、抱きしめ合わないっていう表現方法をとることでね、とらえてみようと思ってるんですけど。それぐらいしかできないですよ。
ただ難しいのが、どう受け取られるだろうってことなのね。それを、そうやって観てくれる人もいるだろうけど、親友とようやく会ったのになんで喜ばないの?と単純に思われちゃうのもつらい、そのあたり難しいですね。
撮られて、実際にドラマになると、やっぱりイメージと違う部分もあります。ぼくの頭の中では、最高の役者で、最高の場所で、最高の演出で撮られてますからね。がっかりするときもある。
だけど、同時に、ぼくと違う発想で素晴らしいものができているときがある。
この喜びなんですよ、共同作業っていうのは。これがあるかぎりは、ぼくはやっていきます。
ただ、ドラマを書いてきて10年。最初のころは、おびえの中で仕事をしているから、いっぱいアイデアを入れる、こわいからどんどん入れる。けど、やってるうちにわかってくる。テクニックが身についてくる。10年もやってると、いろんな人がたぶんこうすればよいのになーと思ってても言わない状態になっている。ドキドキがなくなっちゃう。だから変わっていくべきなのかもしれません。
そのことを教えてくれたのは黒澤(黒澤明)監督です。黒澤さんって、かなりベテランになってもおびえてた。だからね、いっつもこうなんですって、カメラのぞいて、まだ足らない、まだ足らないって。もっと風ふかせろ、雨を降らせろ。つねにおびえている。誰が見たって足りているのに。正しいですよ、その姿勢は。
来年は、映画の仕事が多いですね。本は、「TVステーション」で連載しているものをまとめるのと、書き下ろしで、もう1本書くはずです。萩本欽一について書こうとしています。『テレビ大捜査線』でちょっと書いたんだけど、それが面白いっていうんで、そこをしっかり書いたものを出す予定です。(取材・文 米光一成)