【笠原和夫の人間像 (2)】
高田「ぼくは戦後派というか半端で、終戦で11歳。笠原さんは幼年学校ですから、一応戦争体験があって私よりひと世代前。食べるために映画会社に入って書いて、ひばり(美空ひばり)ちゃんをやったり、やくざ映画を書いたり。やくざは唾棄するほど好きじゃなかった人なのに、それで食べていかなきゃならん。ジレンマとしてあったんですよ。だから他人のはずかしい部分を暴いて商売するから、自分の本性もさらけ出さなきゃだめだと。そうして初めて他人のことで食べられる。他人の悪いとこ、はずかしいとこも書かなきゃならないじゃないですか」
伊藤「笠原さんは博打のことを書かれてますけど、お強かったんですか」
高田「弱い弱い(一同笑)。『日本侠客伝』(1964)では麻雀ばっかりして進まなかった。
笠原さんの部屋は、畳に箱(シーンの構成表)があった。並べて吊して全体を見る。飲んで帰ってきてバーンと開けたら、風で全部飛んで怒られた(笑)。
伊藤「経済やくざの時代になると四大銀行が出てきて、東映は銀行からお金を借りてるからもうやくざはできないということで、笠原さんは戦争や昭和史へ行くんですが、高田先生は『民暴の帝王』(1993)などでトラブルはなかったですか?」
高田「ぼくは関西弁でまんまんで、能天気という意味なんですが、危険意識ゼロ」
伊藤「何となく判ります(一同笑)」
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【『仁義なき戦い』シリーズ】
笠原和夫は『仁義なき戦い』(1973)と続編3本を書き、5作目の『仁義なき戦い 完結編』(1974)は高田氏が執筆。
高田「『仁義』の前にあの人は任侠映画をやられてて、商売でやってたんだろうなあ。そこで飯干(飯干晃一)さんの小説に出会って。
私も完結編のときに美能幸三さんに会って。金子信雄さんの山守親分は、笠原さんがものすごく戯画化して描いてるけど山村(モデルの山村辰夫)さんは真面目な事業家だった。ただあらゆる財産を腹巻きに抱いてて、変わってた(笑)。
美能さんは『仁義』4部作が全く気に入ってなかったのよ。自分の怨念が出てないと。1本目でも菅原文太は振り回されてて主体性がない。『仁義』の特徴は主役がいなくて、話が前に進んでないこと。リードキャラクターを無視してる。文ちゃんも美能さんも不満だった。美能さんから原稿もらって、いまはどっか行ったんだけど、自筆のもの。初めからしまいまで山村の悪口ばっかり書いてあった(一同笑)。警察に引っ張られて頭に電話帳載せられたとか。これはなんぼなんでも、映画にならへんで」
伊藤「その美能さんのテープをお預かりして、電話帳の話が20分くらいつづきますね」
高田「原稿もそのことばっかり書いてあるんや(一同笑)」
伊藤「その原稿も映画になると仇役のほうがやりたい放題で、自分は翻弄されっぱなしで不満が募ったと」
高田「菅原文太をないがしろにしてるけど、いい台詞も渡してる。一家を持ったわけでもないし、振り回されてるだけ。“わしら何してきたんやろな”ってこっちが聞きたいわ(一同笑)。お客さんも評論家も手玉に取ってるね。おかしいと思っても、かっこいい台詞ならそれでいい。
『仁義なき戦い』(1973)はそれほど誉められるほどのものでもないって意識が当時あったね。
結構かみついたのよ。梅宮辰夫が獄中で“保釈で出してやる”って。保釈は未決囚だけやで。確定して刑務所に入ってて、保釈で出るならみんなお金払って出るわ(一同笑)。そういうこと平気で書いてるのよ。そしたらむくれられてね。“枝葉末節だ!”って。『合衆国最後の日』で、けちつけたのよ。大統領が狙われてるのに周り囲んで、それでけちつけたのよ。野暮なことするんやないとか、上から撃ったらとか。そしたら深作(深作欣二)さんに“枝葉末節!” 。2度も尊敬する先輩に。でも枝葉末節って大事やで。ぼくの書き方はそうなんですよ。枝葉末節が大事で理屈を合わせる。あの人のは、はったりだらけ。理屈を飛ばすんだね。ラストの台詞の決めがうまい。
1973年に3本もつくってる。東映は金になると思ったら見境なくやるんですよ
和夫さんは自分には何も言わなかったけど、『昭和の劇』(太田出版)で高田の完結編にはブラックユーモアがないと。おれは『仁義』のブラックユーモアをぶっ壊して越えてやるということでつくったんですよ。スピンオフみたいなもんですからね」

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【笠原和夫の作家性 (1)】
高田「『博奕打ち 総長賭博』(1968)のことを三島由紀夫がギリシャ悲劇だとか言ってたけど、どこがギリシャ悲劇なのかわからん。“おれはただのけちな人殺しだ”という台詞があるんです。人殺すとき、こんなこと言う? 何で殺すときに解説してんだ。殺す相手にも失礼ですよ(一同笑)。そういうところで批評家をだまして、三島由紀夫もだます。やくざは人殺しじゃなくてやくざに殺されたいだろっていうのがぼくの哲学で、言うたんですよ。弾一発残ってたら何で撃たないんやと(一同笑)。撃って死んでからどうするかってのがドラマやろって言ったら、大喧嘩になったんや。でも『仁義』はほかに誉めるとこいっぱいあるんよ(笑)。
今度読んでみて、映画よりホンのほうがいいなと思った。映画の話で心構えを持ってきたのは初めて。いままではいい加減で、『映画の奈落』(講談社α文庫)のときもいい加減でした(笑)。笠原さんは創造して破壊して、映画のひとつの流れをつくった。
笠原さんの存在の大きさは不思議ですね。若いころはしびれたのに、その後変わって何でこんなに変わるのって言うたら憮然として“お前にだけは言われたくない” 。ぼくも以前よく飲んでた女優さんと久しぶりに会ったら、年賀状に“人って変わるんですね”って書かれたから(笑)」(つづく)
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