大河ドラマ『黄金の日日』(1978)や『花の乱』(1994)、『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)などで知られた巨匠脚本家・市川森一。その市川を回顧するシンポジウムが4月に2日連続で行われた。
『傷だらけの天使』(1974)と『黄色い涙』(1974)、モモ子シリーズの第1作『十二年間の嘘 乳と蜜の流れる地よ』(1982)が上映され、『傷だらけの天使』の工藤英博プロデューサー、『黄色い涙』に主演した森本レオ、『十二年間の嘘』に主演した竹下景子と演出・プロデュースの堀川とんこうの各氏が登壇した。司会は放送評論家の鈴木嘉一氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【『黄色い涙』(1)】
『黄色い涙』は永島慎二の原作マンガ(マガジンハウス)をNHKの銀河テレビ小説の枠でテレビ化。学生時代からの友人で主演の森本氏が自ら売り込んだ。
森本「言い出すとひと晩かかります。大学の1年先輩で、ぼくが3年のときにひょいと声をかけてきて、卒業制作で映画撮るんだけど出ろよ、1日で済むからって。いい人で、いいお兄ちゃんだったんですね。三位一体、父と子と精霊とか言い出す(一同笑)。詐欺だろうって言うと、聞き捨てならんなとか。スタニフラフスキーとかですね。森さんは“序破急を知っているか!シナリオの書き方は起承転結だが、おれは序破急で書くんだ”と言い出して、ぼくは“いまはアイドマの法則の時代だよ”とか言って、ひと晩徹夜。高田馬場の貧乏なところに住んでてね。妹さんとも仲よくて。早稲田の哲学系の連中も来てて、初めて勉強したんですよ。ビートニクス、仏陀の慈悲、キリスト教の愛。
(『黄色い涙』のころ)ぼくは名古屋で仕事をしてて、森さんも何故か名古屋に来ていて、いま考えると女房になってる美保子さんを口説きに来てたんですね(笑)。その余波で東京へ来いよってぼくに言って、日テレの方とかを紹介してくれて、TBSの木下プロでお仕事いただくようになりました。1974年にぼくの名古屋の恩師、NHKの鈴木(鈴木基治)さんが、不器用な人なんで局を辞めなきゃいけなくなって、“最後、お前の好きなものをやらせてやる”と言ってくださって、永島慎二さんのマンガ『黄色い涙』をやらせてくださいと。鈴木さんは読んだら、“これはおれの人生だ”と言ってくれて。作家は決まってたんですが、絶対森さんを入れてほしいと言ったんです。恩師は森さんをすごく気に入って、みんなが主役のものにしようとまとまって、岸部シローちゃんとか下條アトムとかを呼んで、ホテルで喋りながらシナリオをつくっていくという画期的なことをやりました。そのおかげでぼくはここにいさせていただいています」
鈴木「放送していたこの1974年、私は阿佐ヶ谷のアパートに住んでたんですよ。永島慎二さんゆかりのポエムという喫茶店、よく行ってたんです。大学3年生でした。このドラマは昭和38年、1963年が舞台でしたが、10年後もほとんど変わってなかったです。木造のアパート、ピンクの電話、ああいうふうに雑魚寝したり。ファッションも同じでした。70年代の前半の風俗もよく捉えてるなと。テレビの力って細かいものを喚起させると思って拝見しました」
森本「市川さんはいちばん好きな映画はフェリーニの『青春群像』(1953)だから、永島慎二でそれをやろうと。鈴木さんはこれで辞めるからわがまま言って、作家も代えちゃって、役者もプロデューサーの言う役者じゃなくて。森一さんはもうホンをおつくりになってて、ホテルで回し読み。役者が台詞を自分の言葉にしちゃうと、森さんは“いいね、それいただき” 。本当に自信のある人はプライドがないから。コラボレーションというか、奇跡のように生まれました」
鈴木「NHK名古屋の制作ですが、名古屋の場面が出てこない。阿佐ヶ谷とか富山の魚津とかですから(笑)。タイトルバックに森本さんを描いた永島さんのイラストが使われてますね。当時としては画期的でした」
森本「銀河テレビ小説ですから、ある方は“小説なのにマンガとは何事だ”って言ったらしくて、鈴木さんご苦労なさって。森さんとも仲間意識が強くなりましたねえ。裏側にもドラマがあるんですけど」
鈴木「冬の話ですが、真夏の名古屋で撮られたということで驚いたんですが」
森本「エアコンがちゃんとできてる時代だったので(笑)。
最初はディレクターが挨拶してくれなかったのに、だんだん優しくなって。本番のとき、ディレクターが公園で桜の枝を折ってきて、いまなら犯罪ですが“この桜越しに撮りたいんだ!”とか。一心同体でつくって、ドラマって愉しいと思いましたね」
鈴木「かなり市川さんがエピソードを加えてますよね」
森本「永島慎二さんも(現場に)来てくださったんですが、最初のころ怒ってて、“おれはこんなこと描いてない!” 。ディレクターが飲み食いさせて機嫌とってました(笑)。でもやってくうちに永島さんが“テレビってすごいな、勉強になる”っておっしゃってたんで、いい現場でしたね」(つづく)
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