私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山田太一 インタビュー“よき相互依存っていうのかな。人間、一人じゃなんにもできないんですよ”(1985)(3)

山田そりゃ(完成作品は)僕が考えていた最初のシナリオとはね、いかにそうやって俳優さん選んだって、色々したって、違うわけですよ。演出家が違うわけですから。その違いがマイナスの違いだって感じたときはね、怒ったり、議論したりする。そういうことを何度も何度も演出家やプロデューサーとやっているうちに、両方の気持ちもわかってきてね、あんまりもめたりしなくなってくるもんですよ。

(中略)

 (組むスタッフが)決まってきちゃうんだな、割合ね。僕はTBSとNHKが多いんだけど、うーん、決まってくるね。最初やって全然合わないと喧嘩しちゃうでしょう。二度とやるもんかって両方で言い合って、というふうになっちゃうでしょう。でも、そうじゃなく「またやりましょう」って気に両方でなっているからこそつながっていくわけでしょう。だから悪いことじゃないと思ってますけれどね。ただ、そうすると新しい個性っていうものと、ぶつかるチャンスがなくなってくるわけね。TBSで仕事するとなると、今までの人を無視して他の人とやるっていうのは、ちょっと言いにくいとかね。で、その人たちが素敵じゃなければ言えるけど、その人たちが素敵だからね。そのへんは、だからまぁ、難しいところだね。

(中略)

(『ふぞろいの林檎たち』シリーズの3作目は)いや、考えてないです。

(中略)

 うーん、どう言ったらいいのかな。一つの作品でね、世界をとらえることができるほど、世界っていうのは単純ではなくなってきてるのね。複雑に、なってるわけですね。ですから、僕はドラマがすっきりとした終り方をするっていうことには反対なのね。そりゃあ現実の世界がすっきり終らないからドラマだけはすっきり終る快感ていうのはあるけれども。すっきり終るドラマっていうのは、なんとなくね、白けちゃうっていうのかな、「あ、そうなの。作者はこんなふうに世界を解釈していたの」っていう感じになるでしょう。だからね、それを何とか切り崩したいんですよ。だから『ふぞろい』なんかも、終りったって何が終ったかっていうと、誰も何も終ってないわけね。それが、狙いは狙いなわけ。そこで例えば最終回になるとやたらとばたばたばたばたとみんな解決してみんなよかったね、なんていうんで終るっていうことが大体古いっていう気がするんだな。

(中略)

 ある事柄について、こうすることが正しいとかね、そういうふうな解釈っていうのも、ドラマがすることじゃないって気がするのね。そんなものはもっと頭のいい人が一杯いるわけで、そういう人が考えればいいんでね。ドラマっていうのは「そうだな」っていう、言葉にならなかったものが言葉になっている魅力とかね、今まで光が当てられなかった真理であるとか、人間の、ある種の世界であるとか、関係であるとか、そういうものに光が当たれば、それでいいって思うのね。その楽しさですよ。例えば、こうやってストローが4つ並んでいるとして、2つ曲っているでしょう。これを、ドラマでカメラが写すと面白いと思うのね。だけど普通見てれば別にそんなこと思いませんでしょう。ドラマってのは、写すことによって、自分たちが普通になんでもなく生きている人生の時間が、一種の味わいとしてもう一度見直すことができるっていう、その楽しさだと思うんだ。それ以上のことを、世界観をもたせたり、とかそういうのは、もう古いって感じがするんだよね。古いっていうか、そんなことはもうできないんだって。できないものをやろうってするから見てる方は白けちゃうんだ。最近、割合評判になった、『恋に落ちて』っていう映画、不倫の恋の話なんだけど、途中までは細かくてとっても素敵なシーンが一杯あるんですよ。ところがね終りまでいくとね、ちゃんと離婚をして、それから離婚して結ばれるっていうふうな形をとっているわけですよ。そういう部分の話のつまらなさっていうのかな。それで、白けちゃうんですよ。そんなことがなかったらいいな、終りがなかったらいいな、プロセスだけだったら素敵だなって思うね。十九世紀ごろからの小説のあり方というのは、終りは終りらしく、というもので、それが映画の世界にも投入されて、終りは終りらしくエンド・マークが出そうなものでね。そういうのが、なんかこう、古くなってきちゃってると思うんだ。作家ができることなんていうのはもう、断片をとらえることであってね、世界をとらえるなんていうことは、ちょっとできない。誰が被害者なんだか加害者なんだか、被害者と同時に加害者であるとかね、いい人だと思ってた人が、実はある局面にたつと乱暴な人になったりして、しかもその悪に自分でも気がついていない、とかね、もういろーんな複雑なことがたくさんあるわけでしょう。その複雑性を、一つのストーリー一つの物語でとらえることはできないっていう気がするんだな。だからテレビドラマはストーリーのない、終りのないっていうのが理想なんですよ。そういうものをなるべく書こうと思ってるんだけど、なかなかそういうことを露骨に言ったら商売にさしつかえるからね(笑)。いや、それでつまんなくしちゃだめなんですよ。それだけど見てると面白い」(つづく

 

以上、「あかね」第31号(共立女子短期大学国文研究室)より引用。 

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